Spiber(スパイバー、山形県鶴岡市)は慶應義塾大学発の新素材ベンチャー。「クモの糸を工場で大量生産する」企業として全国的に有名な「スターベンチャー」だ。同大先端生命研究所(先端研、鶴岡市)で所長を務める冨田勝教授の研究室でクモ糸の人工合成研究に携わった関山和秀代表執行役が、同大院博士課程在籍中の2007年9月に学生仲間と同社を設立した。

独自技術で「クモの糸」を人工合成

2013年には独自技術で開発した人工合成クモ糸素材「QMONOS」を発表。クモの糸をはじめとした「構造タンパク質素材」の普及を目指している。クモの糸は自然界の繊維としては最も強靭だとも言われており、「強くて伸びる」という他の繊維では両立しない特徴を備えるという。

クモの糸の強度は鉄鋼の4倍、ナイロンよりも伸縮性があり、耐熱温度は300℃を超えるといわれる「夢の新素材」。地球上では4万8000種近くのクモが生息しているが、吐き出す糸は種類によって性質が異なる。関口氏は様々なクモが吐き出す糸を使い分けることにより幅広い分野での活用が可能になると考え、クモの糸の研究に取り組んだ。

同社はタンパク質素材を人工合成する技術を駆使して、思い通りの機能を実現する「ブリュード・プロテイン」を開発。この「ブリュード・プロテイン」を大量生産するには、微生物の遺伝子組み替えをはじめとする煩雑な調整が必要。まさに生き物を育てるような感覚で、研究と試作を進めてきた。


大型資金調達でタイ、米国に生産拠点を開設

課題だった大量生産化は、微生物を宿主としてアミノ配列の変更することで、たんぱく質の生産効率を向上。同時に環境への影響が懸念されているフッ素系を使わずにたんぱく質を溶かす溶媒を発見し、環境に負荷のかからない生産方法を確立した。こうして実用化した人工クモの糸は、ゴールドウイン<8111>と共同開発したアパレル商品や自動車のシート向けの新素材として採用されている。

同社は人工クモの糸を大量生産するため、タイ東部ラヨーン県のイースタンシーボード工業団地に人工構造タンパク質素材の発酵・精製プロセスを手がける新工場を建設、2021年に稼働した。今後は米国でも生産拠点を設け、さらなる増産を目指す。そうした海外進出の原動力になっているのが資金調達だ。

同社は2011年12月に4億1056万円の第三者割当増資を実施したのを皮切りに、2013年4月に8億円、2014年10月に25億5000万円、2015年3月に9億5850万円、同10月に95億8416万円、2017年10月に16億40万円、2018年1月に9億9994万円、同6月に2億円、同10月に50億円、2019年4月に65億円、2020年12月に250億円、2021年9月に344億円、同10月に50億円と、大型調達を次々に実現している。「くもの糸」にぶら下がる投資家は増える一方だ。

文:M&A Online編集部