新型ロケット「H3」1号機を発射できなかったトラブルは「失敗」だったかどうかが議論になっている。会見で記者団からの「失敗だったのではないか」との質問に、JAXA側は「設計の想定範囲内での事象のため、失敗ではない」で押し通した。ネット上では「失敗」と決めつけた記者の態度に対する反発が広がっているが、今回の中止は本当に「失敗」だったのか?宇宙ビジネスの視点で検証してみよう。

「ビジネス」を強く意識したH3ロケット

「H3」ロケットは宇宙ビジネスに参入するため、国際競争力のあるロケットを目指して開発された。2014年度から開発が始まり、コスト削減のために日本では初めて設計・開発段階から民間企業である三菱重工業<7011>が中心となってプロジェクトを進めている。三菱重工業が独占受注することでライン生産方式によるロケットの量産化を実現し、コストダウンにつなげるのが狙いだ。

JAXAの岡田匡史プロジェクトマネージャーは「H3」について、「今までのような技術開発ではなく、事業開発にしたい」と語っている。つまり「H3」は従来の科学技術振興ではなく、ビジネスとして成り立つことが「ゴール」なのだ。その視点だと、打ち上げ中止は明確に「失敗」といえる。ビジネスにおいて「納期」は重要だからだ。

「H3」の契約には打ち上げの失敗や延期の免責事項は盛り込まれているだろう。とはいえ、ビジネスとなれば「信用」も重要な競争力となる。「H3」は2020年度の1号機打ち上げを目指していたが、2020年5月の燃焼試験で新開発のLE-9エンジンに技術的課題が持ち上がり、打ち上げを2021年度へ1年延期。2022年1月には再延期を決定し、今年2月にずれ込んだ。プロジェクトは、すでに2年も遅れている。


納期遅れで商機を失った「スペースジェット」の轍を踏むのか?

ここに来ての打ち上げ中止を「ロケットというものは基本安全に止まる状態でいつも設計しているので、その設計の範囲の中で止まっている」(岡田プロジェクトマネージャー)から「失敗とは言い難い」(同)と主張するのは、人工衛星ビジネスの顧客である企業や研究機関に良い印象は与えないだろう。

JAXAはビジネスとして成り立つためには毎年6機程度の打ち上げが必要と試算しており、民間需要の獲得が不可欠だ。ただ、ロケット市場ではイーロン・マスク氏の米スペースXが大きく先行しており、新興企業の台頭も著しい。「いつ打ち上げられるのか分からない」ロケットでは受注も難しい。

同じ三菱重工業が開発した小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(旧MRJ)」は、6度にわたる納入延期を繰り返す間に407機(確定223機、オプション184機)あった受注を次々と失い、2月7日に開発中止を発表した。1号機の打ち上げ延期は「H3」の事業開発に影を落とす「失敗」と言わざるを得ないだろう。JAXAは今年3月に再打ち上げを目指す。

文:M&A Online編集部