大手企業を中心に賃上げ機運が高まる中、中小企業に賃上げをしないと倒産する懸念が浮上してきた。

賃上げをすることで、経費がかさみ経営破綻する事例はあるが、賃上げをしないことで倒産するのはなぜなのか。その理由は賃上げをしないことで、従業員が他の企業に移り、人材不足に陥った結果、倒産に至るというものだ。

トップは建設業、サービス業やソフトウエア開発なども上位に

帝国データバンクが人手不足倒産について調べたところ、2022年は140件発生し、このうち従業員などの退職や離職が直接、間接的に原因となった倒産は57件に達した。

経済活動の回復が進む中、従業員をつなぎとめられずに経営破綻したもので、同社によるとこのタイプの倒産は2019年以来、3年ぶりに増加に転じており、食料品などの値上げラッシュが続く2023年は急増する可能性があるという。

2022年に人手不足倒産が最も多かったのは建設業で全体の半数を占めた。設計者や施工監理者などの退職により、事業運営が困難になった企業が目立ったという。次いでサービス業や、ソフトウエア開発、老人福祉などの業種で多かった。

同社では賃上げによって良い人材を高給で囲う動きが強まっており「満足に賃上げされないことを理由に従業員が辞めることで経営に行き詰まり、倒産する中小企業の増加が懸念される」としている。

価格転嫁が進めば賃上げも

物価高を理由に賃上げを求める声が強まっており、2023年春に賃上げの実施を表明する大手企業が増えてきた。その一方で、中小企業は原材料高騰などによるコスト高が経営を圧迫し、賃上げが難しい企業が少なくない。

東京商工リサーチが2022年12月に中小企業を対象に実施したアンケート(2359社が回答)を分析したところ、中小企業では上昇したコストの価格転嫁が進むほど賃上げ率が上昇することが分かった。

このことは大手企業が下請け企業からの調達価格の適正化に取り組むことが賃上げ倒産の抑制につながる可能性があることを示している。

大手企業は従業員に対する賃上げとともに、下請け企業の価格転嫁にも柔軟に応じる姿勢が求められることになる。

文:M&A Online編集部