既報したように、東急不動産ホールディングス(東証プライム上場)は東急プラザ銀座が入居している不動産を三井住友トラスト・パナソニックファイアンスに売却する(売却価格非開示)。これによる減損処理のため211億円の特別損失を2023年3月期に計上する。東急プラザ銀座は運営を続ける。
そのあたりの街の不動産屋だったら倒産必至の大事件だろう。しかし、年商9890億円、営業利益838億円、経常利益728億円、営業利益351億円(2022年3月期通期決算)の大会社である東急不動産HDにとっては、大した問題ではないのだろう。同社も「足元の好調な各事業の進捗状況及び本件譲渡の決定に伴い計上される特別損失に係る税効果等を勘案し、現時点における2023年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益390億円(2022年11月9日公表の業績予想)に変更はございません」としている。株式市場の反応もおおむねそうしたもののようで、この発表は3月3日金曜日の株式市場が終了後になされたが、3月6日月曜日の終値は656円で3月3日金曜日の終値に比較して1円高だった。
それはいいとして、今回の売却でいろいろなことが見えてくる。この東急プラザ銀座が建っている土地は、2007年9月に東芝不動産が東急不動産系の合同会社スペードハウスに3766平方メートルを1610億円で売却したものだ。東急不動産は建て替えのためモザイク銀座阪急の立ち退きを求めて2009年に阪急不動産およびエイチ・ツー・オー・リテイリングを提訴した。2011年3月に和解が成立し、2012年9月からビル解体工事に着年し、跡地に2016年3月31日に東急プラザ銀座が開業している。
今回の売却物件の帳簿価格は1185億9800万円になっており、前述した取得価格の1610億円よりも424億200万円減少している。これだけ銀座・表参道などの一等商業地がバブル気味に高騰しているのに、売却価格は非開示だが、どうも今回損切りしているようなのである。取得価格があまりにも高過ぎたということなのだろうか。東急グループの本格的な銀座進出ということもあり取得時にかなり大盤振る舞いしてしまったということなのだろうか。
ちなみにこの東急プラザ銀座が建っている土地面積は2072平方メートル(約627坪)だが取得時は全体で3766平方メートル(約1141坪)あり坪当たりの土地単価は1610億円÷1141坪=1億4110万円だった。今回の売却価格はこれをどれぐらい下回っていたのか注目されるのだが非開示。取得は2007年9月で、あの2008年9月15日のリーマン・ショックの1年前なのである。周知のように株、不動産はリーマン・ショックで大暴落しその後7年ほどは立ち直らなかった。今回の売却は高値掴みしてしまった物件を、本業が好調のうちに処理しておこうという東急不動産HDの決断とするのが理にかなった解釈のように思われる。
いずれにしても、東急グループは銀座の橋頭壁を失ってはならないから、東急プラザ銀座は抜本的な見直しが必要になりそうではある。例えば、晴海通りに面する先端部分のテナントはこの「館の顔」とも言うべき存在だ。スイスのラグジュアリーブランドである「バリー(BALLY)」が入居していたのだが、すでに昨年3月には退店してしまった。その後は映画「スターウォーズ」などの催事スペースとして使われていた。1年経ってすでに春シーズンは始まっているのだが、次のテナントとの契約は済んでいるというが、ブランドは何になるのだろうか?
この東急プラザ銀座は、銀座5丁目にあるために業界では「GINZA FIVE(ファイブ)」というニックネームで呼ばれたこともある。これは東急プラザ銀座オープンの翌年2017年4月20日にオープンした銀座6丁目の「GINZA SIX」に先行してオープンしたことによる。この「GINZA SIX」(森ビル、住友商事、LVMHグループのLキャタルトンリアルエステートによる管理・運営)も、1階にはLVMH系はもちろん、ラグジュアリーブランドの誘致には成功したが、東急プラザ銀座同様、館全体としてはその売り上げは当初予想には届かないようだ。しかし東急プラザ銀座と決定的に違うのは、7階~13階にオフィスフロア(3万8000平方メートル)を設けた点だ。このオフィスからの賃貸料収入が館全体の収益を安定させていると言われている。
ある意味では、明暗を分けているとも言われる「GINZA SIX」と東急プラザ銀座だが、東急グループとしてもグループの本格的銀座進出と「東急プラザ」という同グループのブランドを銀座で確立するという大きな使命があり、ここでなんとかテナント入れ替わりが多く安定しない東急プラザ銀座の人気・価値を好転させたいところだろう。