この記事は2023年3月3日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「大都市圏で上昇の兆しが見られる日本の家賃」を一部編集し、転載したものです。
(総務省「消費者物価指数」ほか)
日本のサービス価格が弱い背景には、賃金だけではなく、家賃が上がらなかったことも挙げられる。総務省「消費者物価指数」によると、家賃のウェイトはサービス全体の4割弱を占める。米国では住宅価格の高騰が家賃を押し上げ、サービス価格上昇の一因になっている。それに対して、日本ではここ数年、住宅価格が上昇しているにもかかわらず家賃はほぼ横ばいの状況が続く。
日本の家賃は、住宅市場や土地市場の需給動向を柔軟に反映しにくいことが知られている。借り手の入れ替わりが少ない上に、契約期間が2年程度と長く設定されることが多く、家賃を更新する機会が限定されているためだ。
さらに、近年の家賃の伸び悩みには、賃金の弱さが影響している可能性もある。実際に、日本の家賃は住宅価格よりも賃金の動きと連動する傾向が見られる(図表1)。
2010年代以降、住宅価格が上昇に転じた一方で、賃金が伸び悩む状況の下で、多くの家計は家賃の値上げを受け入れられなかったと考えられる。この結果、借り手の入れ替えや賃貸契約の更新といった家賃改定の機会が訪れても、多くの家賃が据え置かれている。日本では、1年間の家賃の改定率が米国の14分の1にとどまるという研究結果もあるほどだ。
ただし最近では、経済活動の正常化に伴って強まる人手不足感を背景に、賃金上昇圧力が高まっている。その結果として所得環境が改善していけば、家計は家賃の値上げを受け入れやすくなる可能性がある。すでに住宅価格の上昇が家賃に反映される兆しが見られるのが、家計の所得が増加している大都市圏だ。22年12月の大都市の家賃の伸びは、前年同月比0.3%と小幅ながら上昇に転じた(図表2)。
日本でも賃金の上昇を背景に、住宅価格や維持・管理コストの上昇が家賃に反映されるようになれば、サービス価格の上昇も期待できる。サービス価格には、いったん上昇すると下落しにくい粘着性があるだけに、消費者物価の基調的な伸びが高まるかどうかが注目される。
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員/井上 肇
週刊金融財政事情 2023年3月7日号