17年ぶりの改正へ 環境変化で課題も

金融庁は3月2日の金融審議会総会に、株式公開買い付け(TOB)の対象拡大や大量保有報告制度における共同保有者の範囲の明確化などについて諮問した。いずれも株式大量取得に関するルールで、TOBは1971年に、大量保有報告制度は1990年にそれぞれ導入された。

TOBルールの見直しは2006年の改正以来17年ぶりで、市場外取引で3分の1超の株式を取得する際に必要なTOBを市場内取引でも義務付けるべきか論議する。

また、大量保有報告制度では、公開情報だけでは把握できない実質株主の透明性を高めるため、一定の関係にある複数者による共同保有者の範囲を明確化するほか、報告頻度の軽減を認めている特例報告制度の適用条件の見直しを含めた制度設計を検討する。

M&Aの様態が多様化、敵対的買収の増加が契機に

TOBは株式の価格や期間などの買い付け条件を公開し、不特定多数の投資家から市場外で株式を取得する手法。現行ルールでは市場内取引で取得株式が5%を超える場合、5営業日以内に公表する大量保有報告制度があるほか、他の株主も市場で持ち株を自由に売却できることから、株式を大量取得する場合でもTOBを義務化していない。

3分の1超の株式を手に入れた大株主になれば、会社や事業の再編・売却などに関わる株主総会の重要議案を拒むことができる。2006年の改正は、ライブドアが市場外取引を中心にニッポン放送の株式を買収したことが契機となった。

覆面買収の阻止にも

近年、経営陣や一般株主が気づかずに複数の株主による「共同協調行為」で特定企業の株式買い増しを進める手法が問題視されている。

2021年には新聞輪転機メーカーの東京機械製作所に敵対的買収を仕掛けた投資会社のアジア開発キャピタルが、買収後の経営計画を明示しないまま市場内で急速に株式を買い集めた。東京高裁は少数株主に売り急ぎの強圧性がかかったと判断し、最高裁もこれを支持した。

見直しの背景には、市場内取引などを通じた敵対的買収が増え、M&Aの態様が多様化していることが影響している。金融庁は株式取引の透明性向上や企業と投資家の建設的な対話を促進し、公開買い付けの強圧性を解消・低減させることが望ましいと判断した。

ルール改正が実現すれば、国内M&A市場のみならず、株式市場にも大きな影響を与えることが予想される。

文:M&A Online編集部