韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が「三・一運動記念式典」で「日本は過去の軍国主義の侵略者から、協力するパートナーになった」と演説し、日本との関係改善を進める意向を強調した。親日派が多いとされる保守系政治家と言えども、政権支持率は40%前後と低迷するユン大統領が、なぜ元徴用工問題がくすぶる中で日本との関係改善に力を入れようとしているのか。

韓国世論の変化が「日本はパートナー」演説を実現した

「過去を反省しない日本を『協力するパートナー』と言うユン大統領」と、韓国の京郷新聞は同式典での大統領発言を批判した。三・一運動は大日本帝国帝国による植民地支配に抵抗した大規模民衆運動であり、式典では日本の歴史認識批判をするのが定番だ。

韓国で「親日派」と批判されていたパク・クネ(朴槿恵)元大統領ですら、同式典で「加害者と被害者という歴史的な立場は千年の歴史が流れても変わらない」と演説したほど。ユン大統領が韓国内で政治的な打撃になりかねない「日本はパートナー」発言をした背景には、韓国社会の世論変化がある。韓国国民の間で「反日感情」が弱まっているのだ。

日本の民間団体「言論NPO」と韓国の民間シンクタンク「東アジア研究院」が昨年夏、18歳以上の約2000人を対象に共同世論調査を実施した。それによると韓国で日本に悪い印象を持つ人の割合は前年比10.4ポイント減の52.8%と、2013年の調査開始以来、最大の改善幅を記録した。対日関係を改善すべきかとの質問には「そう思う」との回答が81.1%に上っている。


日韓経済の逆転で「対日コンプレックス」が解消

背景には北朝鮮との安全保障上の問題や「中国脅威論」の高まりに伴い、「敵の敵は味方」との意識から対日感情が好転したとの見方がある。だが、こうした「地政学上のリスク」に対する懸念であれば、これまでも同様にあった。対日世論が変化した背景には、別の理由があるはずだ。

それは日韓経済の逆転現象だ。経済協力開発機構(OECD)による購買力平価ベースの平均賃金調査で、2015年に韓国は日本を上回った。2019年には1人当たり購買力平価GDP(国内総生産)でも日本を追い抜いている。日本経済研究センターによると、2020年時点では日本が韓国を上回っていた1人当たり名目GDPにおいても、2027年には韓国が逆転する可能性があるという。

こうした経済的な優位性が、韓国の「対日コンプレックス」を薄めている可能性が大きい。6日に元徴用工問題で韓国側が賠償を肩代わりすると発表した韓国外務省も「韓国の高まった国力にふさわしい決断」と、自国経済の成長が後押しになったことを認めた。日本でも太平洋戦争の敗戦に伴う「対米コンプレックス」を、高度成長期からバブル期にかけての経済成長で払拭(ふっしょく)した歴史がある。

韓国にとって日本は第3位の貿易相手国であり、石油製品や鉄鋼板、半導体、精密化学原料、プラスチック製品などを輸入してくれる「お得意様」だ。対日コンプレックスが薄まれば、顧客である日本との関係改善を重視するのは当然だろう。いわば「金持ちケンカせず」の世論を受けて、ユン大統領が「侵略者から協力するパートナーになった」と宣言したのである。

文:M&A Online編集部