資産運用の重要性が叫ばれる時代にあっては、資産運用という視点から住宅の購入を検討している人もいることだろう。マイホームの購入に際しては住宅ローンを利用するのが一般的だが、将来的なリスクを過度に楽観視していると、思わぬ落とし穴にはまる可能性がある。住宅ローンの失敗事例にはどのようなものがあるのか。

住宅ローンの失敗事例

Night view of glowing windows in apartment tower timelapse.
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新築マンションの価格高騰とパワーカップルの存在

住宅ローンの具体的な失敗事例に入る前に、昨今のマンション市況を確認したい。

新築マンションの販売価格は現在、上昇を続けている。2022年に全国で販売された新築マンションの平均価格は5,121万円で、過去最高だった。東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏にいたっては平均価格が6,288万円で、バブル期を彷彿とさせる高騰ぶりだ。

マンションの平均価格を押し上げているのはタワーマンションをはじめとする高級マンションだが、こうした高級マンションの中心的な買い手となっているのが「パワーカップル」と呼ばれる共働き世帯だ。

パワーカップルに明確な定義はないが、三菱総合研究所は「夫の年収が600万円以上、妻が400万円以上の世帯年収1,000万円以上の夫婦」と説明している。

こうした夫婦であれば、1つの物件に対してそれぞれがローン契約を結び、互いに連帯保証人となるペアローンを利用できる。単身であれば手が届かない高級マンションでも、ペアローンならば借り入れ可能額が増加し、高級マンションの取得も可能になるというわけだ。

パワーカップルが高級タワーマンションを購入するも……

このパワーカップルによる高級マンションの取得に落とし穴が潜んでいる。

前提として、それぞれが契約したローン自体は金融機関の審査を経ており、夫婦がともに契約時の収入を維持できれば大きな問題は生じないはずだ。

とはいえ、夫婦生活には予見しがたい出来事が起きるものだ。

たとえば、とある夫婦は、予定していなかった妊娠・出産に伴う退職で、年収400万円を得ていた妻の収入がなくなった。

借り入れ当初の世帯収入は、夫の年収600万円と合わせて1,000万円。7,000万円のマンションの区分物件を購入しており、毎月の住宅ローン支払い額は約20万円だった。当初の収入ならば十分返していける水準だったといえるが、世帯収入が600万円となった家庭にはかなりの負担だ。

もしも彼らに十分な貯金があり、また、配偶者の収入が以前の水準に戻る見通しがあれば、一時的な貯金の取り崩しでしのぐこともできただろう。しかしこの世帯の場合、育児の負担が増えた妻は退職前と同水準の給与で働くことが難しく、手元のお金は減少する一方となった。

このような事態に追い込まれると、せっかく購入したマンションも売却せざるを得ない。さらに、高級マンションであったために買い手が見つからず、結果的に購入価格よりも大きく値を下げて売却することとなった。

住宅ローンで失敗した原因

先の事例を考えると、直接的なきっかけとなったのは予定していなかった妊娠・出産であり、それに伴う配偶者の収入の減少が貯蓄の取り崩しにつながった。しかし、それ以前の段階で、夫婦が高級マンションの購入を決めたプロセスに見直すべき点はなかっただろうか。

収入の減少

まず、ペアローンは夫婦それぞれがローン契約を結ぶことで、総額としては単身では難しい水準の借り入れが可能になる点がメリットだが、デメリットやリスクもおさえておかなければならない。

ペアローンの代表的なリスクが、上記の事例でもみられる収入の減少だ。上記事例では妊娠・出産を収入減のきっかけとして挙げたが、収入減につながるライフイベントはこれに限らない。

妊娠・出産以外にも、例えば、病気により今の仕事を続けられなくなる可能性もある。ましてや病気で就業が困難になることは夫婦いずれにも起こりうることであり、ペアローンでマンションを購入するときは収入が減少するリスクへの対応を考えておく必要がある。

離婚

ペアローンにおける2つ目のリスクは離婚だ。誰も離婚を前提にマンションを購入するわけではないが、もしも離婚することになれば、ペアローンによるマンションの購入は持ち家の売却につながりやすい。

離婚時の財産分与は、婚姻期間中に築いた財産については原則として2分の1ずつだが、仮にどちらか一方が購入したマンションに残り、共有名義の所有権を単独に変更するとなると、残りのローンについては単独で負担する可能性が高い。

そうなれば、婚姻期間中のローン返済額よりも負担が大きくなることは確実だ。これを避けるため、ペアローンで購入したマンションは離婚時に売却されるケースが少なくない。

また、あまり考えたいことではないが、中には死別する夫婦もある。

どちらか一方が亡くなった場合、亡くなった人の残債については保険に入っていれば保険金で返済できる。一方、残されたパートナーのローンに関しては返済を続けなければならず、こうした点もペアローンを組む際は踏まえておく必要があるだろう。

住宅ローンで失敗しないために考慮すべきだったこと

今回例示した世帯は、失敗を避けるためにどうすべきだったのか。

リスクを考慮し、収入減に備える

先の例でいうと、やはりマンション購入前に夫婦間でしっかりとペアローンのリスク・デメリットを確認しておくべきだった。

予期せぬライフイベントは誰にでも起きるものだが、収入が減少するリスクを踏まえると、どちらか一方の収入が減少したとしてもローン返済を維持できる水準の借り入れ額にとどめておくべきだったといえる。

あるいは、病気で就業不能になるリスクを考慮すると、収入保障保険に加入するなど万一のときの備えを講じておく必要もあっただろう。

また、子どもがほしいかどうか、子どもをつくるとしたらいつがいいのかといった、価値観やライフプランに関する夫婦間のコミュニケーションが重要であることも論を待たない。

今後は住宅ローン金利の上昇にも要注意

さらに、住宅ローンの契約にあたっては、変動、固定のどちらの金利プランを選ぶかについても慎重な検討を要する。日本では長年にわたって超低金利政策が続き、住宅ローン金利も極めて低い水準に抑えられてきたが、今後はこの超低金利時代も終焉を迎える可能性があるのだ。

実際に、住宅ローンの固定金利に関しては上昇の兆候がみられる。2023年1月の住宅ローン金利のうち、三井住友や三菱UFJをはじめとする大手銀行は10年固定金利を軒並み引き上げた。

これは日銀が長期金利の上限を0.25%程度から0.5%程度に引き上げた措置を受けたもので、住宅ローン金利に上昇圧力が働いていることを示す。変動金利については今のところ大手行は据え置いているが、こちらも今後は上昇する可能性がある。

借り入れ額の大きい住宅ローンで金利が上がれば、その影響は月々の返済額に直結する。金利上昇の可能性を考えて固定金利にするのか、あるいは変動の可能性はあるものの固定金利よりはトータルコストが安いとみて変動金利にするのか、住宅ローンで失敗しないためにも慎重な検討が必要だ。

土地価格の上昇を見込んだ借り入れに注意

また、先の例では失敗の直接的な原因にはなっていなかったが、マイホームの購入にあたって、そもそも土地価格の上昇によるキャピタルゲインを過度に期待していなかったかも検討しておきたい。

都市開発による価格上昇を見込んで住宅を購入するなら、先に挙げた例のようにローンの支払いが続けられなくなる可能性だけでなく、開発が進まず思ったような価格上昇が起きないリスクも考慮すべきだろう。

日本における都市開発の失敗事例は少なくない。とくにバブル期は「不動産価格は上がり続ける」といった「土地神話」なるものがあり、野放図な都市開発や宅地造成が進んだ。その結果、道路や上下水道といったインフラ整備が不十分なままで、機能性の低い住宅地が点在する「スプロール現象」と呼ばれる無計画な市街地開発の影響が全国各地に残っている。

このような例に限らず、そもそも土地価格の上昇を見込んだキャピタルゲインの獲得は簡単ではない。国土交通省が2022年9月20日に公表した「都道府県地価調査」によれば、住宅地や商業地を含む全体の全国平均は前年比0.3%上昇しているが、土地価格が前年比プラスに転じたのは3年ぶりのことだ。

同調査によれば住宅地の全国平均も前年比0.1%上昇しているが、住宅地価格の前年比プラスは1991年以来、実に31年ぶりである。

つまり、バブルが崩壊して以降は、土地価格、中でも住宅地価格は下落を続けてきたのだ。もちろん、中には住宅地価格が上昇した地域もあるが、下落基調の中で値上がりによるキャピタルゲインを得るのは総じて難しい選択だといえる。

土地価格の上昇によるキャピタルゲインを得やすかったのは、毎年のように地価が上昇していたバブル期のことだ。近年は不動産投資においても、キャピタルゲインの獲得よりも家賃収入などのインカムゲインを重視すべきだとの指摘が多くみられる。

ダメだと思ったら「損切り」も必要

また、土地価格の上昇を見込んだ投資目的の意味合いが強い住宅購入だったのであれば、早いタイミングで「損切り」をすべきだったかもしれない。

損切りとは、株式など損失を抱えている保有資産を売却して損失を確定させる投資用語だが、これは上記事例にもあてはまる。

開発が失敗していることが顕著で、土地価格の上昇は見込めないと判断できたならば、さらなる価格の下落が起きる前に、売却を決断すべきだった。

関連する税制度

最後に、住宅ローンに関連する税制度を紹介する。住宅ローン関連の税も金額としては小さくないだけに、基本をしっかりとおさえておきたい。

住宅ローン控除

1つ目は住宅ローン控除だ。これは正式名を「住宅借入金等特別控除」といい、条件を満たしている場合には所得税などの控除を受けられる。住宅ローン控除は2022年に一部制度改正が行われたため、以下では主に改正後の概要について解説する。

制度改正のポイントの1つ目は、控除率の変更だ。これまでは、住宅ローンの年末残高に対して1%の控除率が適用されていたが、改正後は0.7%になった。

一方、控除が適用される期間については、これまでは原則10年(特例措置の場合は13年)だったが、改正後は13年(既存住宅は10年)に延びた。

また、環境に配慮した住宅を優遇する制度設計となっており、長期優良住宅や低炭素住宅は借入限度額が5,000万円、省エネ基準適合住宅は4,000万円、その他の一般住宅は3,000万円とグラデーションが設けられている。

最大の年間控除可能額は35万円と大きく、上手に制度を活用したいところだ。

固定資産税

住宅を購入すると、所有する土地や家屋にかかる税金である固定資産税が生じる。忘れないよう注意したい。

固定資産税は、固定資産の評価額に基づいて決定される課税標準額に、標準税率1.4%を掛けて算出される。一般に、評価額が高ければ税額も高くなる傾向があり、市区町村から送られてくる納税通知書などで確認できる。

リスク管理の重要性、再確認を

住宅ローンは自宅を購入する際に活用できる有用なツールだが、金融機関の審査を通ったからといってあらゆるリスクがないわけではない。特に、夫婦で利用できるペアローンなどはリスクを十分に踏まえていないと思わぬ落とし穴にはまり、自宅を売却することにつながりかねない。今一度、リスク管理の重要性を再確認したい。


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