この記事は2023年3月17日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「価格転嫁で上昇に転じる日本のサービス価格」を一部編集し、転載したものです。
(総務省「消費者物価指数」ほか)
わが国の物価上昇は、サービス価格の一部にも及んでいる。総務省「消費者物価指数」によると、サービスのうち、公共サービス価格や家賃は横ばい圏内にとどまっているが、民間サービス価格(携帯電話料金と宿泊料を除く)は前年比3%超の上昇となっている(図表1)。なかでも、外食や住宅修繕などの分野で価格上昇幅が大きい。
サービス価格上昇の背景として、企業が原材料コストの上昇を積極的に価格転嫁していることが挙げられる。昨秋にかけて進んだ円安や資源高の影響で、食料品や住宅資材などの価格が高騰。これらを中間投入するサービス分野で価格転嫁が進み、例えば外食の価格上昇率は、食料品と同水準に達している(図表2)。食料品価格の高騰にもかかわらず外食価格が抑えられた2000年代後半とは対照的だ。外食企業の価格転嫁姿勢は、バブル期以前の強さに戻ったといえる。
企業が価格転嫁に積極的な背景として、現在のコスト高が一時的ではなく持続的と予想している点が挙げられよう。多くの企業は、長期化するコスト高を販売価格に転嫁する姿勢を強めている。日本銀行の「企業短期経済観測調査」によれば、企業が予想する5年後の販売価格見通しは、宿泊・飲食サービス業で6.4%上昇と、コロナ前の平均(17~19年、3.3%上昇)から大きく高まった。今回のインフレはウクライナ問題に起因する面も強く、家計の値上げに対する理解が得られやすかったことも、企業の価格転嫁を後押しした可能性がある。
今後は、原材料高に加え、人件費の増加が価格を押し上げる可能性がある。コロナ禍からの経済再開で、サービス業では人手不足が深刻化し、賃金が上昇している。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、宿泊・飲食や生活関連などのサービス業では、一般労働者の現金給与総額(共通事業所ベース)の伸びが22年12月に前年比10%前後に達した。今年の春闘で実施されるベースアップも賃金上昇につながると予想される。こうした人件費の増加が、外食や住宅修繕以外の幅広いサービス価格に転嫁されるのかが注目される。
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 所長/西岡 慎一
週刊金融財政事情 2023年3月21日号