Bitcoin
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ボラティリティ(価格変動性)の大きい暗号資産で運用に成功すれば、「億り人」の仲間入りも夢物語ではないが、暗号資産への投資には気を付けなければならない点もある。暗号資産に関する税制を十分に理解していないと、思わぬ税の納付を求められ、最悪の場合は税の支払い不能に陥る可能性もあるため注意しよう。

暗号資産取引で多額の追徴税が発生した事例

暗号資産投資で気を付けなければならない税制とは何か。暗号資産投資で思わぬ損失を被った具体例から、どこに落とし穴が潜んでいるのかを確認したい。

ビットコイン・バブルで含み益1億円超

かねてよりビットコイン(BTC)に興味を持っていた会社員のAさんは、2016年から2017年にかけて少しずつBTCを買い増し、投資総額は1,000万円超に上っていた。

「BTCは一気に拡大する」と踏んでいたAさんの読みは的中し、BTC価格は2017年後半から2018年にかけて急騰した。世に言う「ビットコイン・バブル」だ。

AさんのBTCの含み益は1億円を上回り、Aさんは価値が上昇しているBTCの一部を草コインに交換することを決めた。

当たれば利益は大きいがデメリットも多い草コイン

草コインとは、時価総額が大きく知名度も高いBTCやイーサリアムなどの暗号資産とは対照的に、時価総額が小さくあまり知られていない暗号資産の銘柄を指す。

草コインに投資するメリットは、当たると大幅な値上がりが期待できる点で、過去にはおよそ10万倍に跳ね上がった銘柄もあるほどだ。

一方で、草コイン投資にはデメリットもある。草コインは市場で取引されている量が少なく、注目度も低いためにそもそも情報量が少ない。

詳細が判然としない銘柄への投資はリスキーで、最悪の場合、市場で取引されなくなる可能性もある。そうなると、保有している草コインを売却しようにも買い手が見つからず、価値を失ったに等しい状態になる。

約1億円分のビットコインを草コインに交換した結果、膨大な額の追徴課税

Aさんはこうした特性を持つ草コインを複数種類にわたってBTCと交換し、約1億円分入手した。

Aさんは暗号資産の取引で得た利益に関しては、雑所得として扱われることは知っていた。ただし、SNS上には「暗号資産同士の交換は非課税」といった情報が出回っており、BTCを現金化しなければ課税はされないと思い込んでいた。

大きな含み益が生じているBTCを草コインに交換したのも、「暗号資産同士の交換は非課税」という認識が前提だった。

それから数年後、Aさんのもとに届いたのは、税務署からの申告漏れを指摘する文書と、膨大な額の追徴課税だった。

暗号資産取引でなぜ多額の追徴税が発生したのか

Aさんはなぜ、このような事態に陥ったのか。

暗号資産同士の交換は非課税ではなかった

実は、AさんがSNS上で知った「暗号資産同士の交換は非課税」という情報は誤りだった。AさんがBTCを草コインに交換した取引は、課税対象になっていたのだ。

Aさんはまず、2016〜17年にかけて、総額1,000万円をBTCに投資した。2017年後半から始まったビットコイン・バブルでAさんの含み益は1億円超に膨らんだが、この時点ではまだ、課税されるような取引は生じていない。

次に、Aさんは当時の時価で1億円分に相当するBTCを複数の草コインに交換した。この交換が課税対象取引とみなされていたのだ。その理屈は以下の通りだ。

Aさんが行った取引は1億円分のBTCを複数の草コインに交換したにすぎないが、税務上は

(1)Aさんは1億円に相当するBTCを売却した
(2)売却で得た1億円分を元手に複数の草コインを購入した

とみなされる。

つまり、BTCを草コインに交換した時点でAさんは、売却額1億円-BTC購入費1,000万円=9,000万円の売却益を得ていたとカウントされたのだ。

Aさんに襲いかかるさらなる悲劇

実はAさんには、この時点で税制に関してさらなる誤解があった。

Aさんは暗号資産投資で得た利益に関しては雑所得として扱われることは知っていたが、株式売買などによる利益と同様、申告分離課税だと思っていたのだ。

暗号資産所得は申告分離課税だと勘違い

申告分離課税とは、株式売買以外に土地・建物の譲渡益などにも適用される税制で、他の所得とは合算されず、当該所得に一定の税率がかけられる。

例えば、株式の譲渡益に適用される税率は、所得税および復興特別所得税15.315%と住民税5%を合わせた20.315%で、この税率は譲渡益が100万円であっても1億円であっても変わらない。FX取引に適用される税率も20.315%で、同じく申告分離課税だ。

ところが、暗号資産取引で得た利益については、株やFXとは異なり、給与所得など他の所得と合算される。こういった所得に適用されるのは累進課税であり、基本的には所得が多ければ多いほど、高い税率がかかる。

累進課税適用で最大税率55%

累進課税の税率には5%から45%までの7段階あり、さらに一律で10%の住民税が上乗せされる。つまり、住民税を含めると所得税の最大税率は55%に達する。

Aさんに何が起きたかというと、BTCの売却益とみなされた9,000万円が給与所得に合算され、最大税率の55%が適用されたのだ。

会社員としてのAさんの課税対象所得は500万円で、適用税率は20%(住民税を含めると30%)だった。これに9,000万円が加わると課税対象所得は9,500万円に跳ね上がり、累進課税の最高税率が適用され始める課税所得4,000万円をゆうに超える。

9,500万円に55%をかけると、9,500万円×0.55=5,225万円。控除額の479万6,000円を差し引いても、納税額は4,745万4,000円と膨大だ。

仮に、暗号資産取引で得た利益が申告分離課税扱いで、株やFXと同様に20.315%の税率だったならば、AさんのBTC投資に関する納税額は9,000万円×0.20315=1,828万3,500円だった。実に、申告分離課税かそうでないかの違いだけで、税額は2倍以上にもなる。

手元に資金なく税を納付できず

Aさんはあまりの税額の大きさに愕然とした。4,000万円超のお金は手元に残っていなかったからだ。

実は、大幅な値上がりを期待した草コインはいずれも大きな上昇をみせず、むしろ、大半は市場で取引されなくなっていた。

税務署から通知が届いた段階で、Aさんが保有している暗号資産をすべて売却したとしても、捻出できる資金は2,000万円程度。Aさんはやむなく税務署を訪れ、税の納付の猶予を申請した。

どうすれば失敗を回避できたか

Aさんはどのような対応をとっていれば、こうした事態を回避できたのか。

SNSではなく、信頼できる公的機関のサイトで税制度を確認

Aさんの失敗の原因の1つ目は、影響の大きい自身の所得に関する税制度について、SNS上の情報をうのみにしたことだ。

SNSでは自身と似たような境遇の投資家らが盛んに情報を発信しており、必要な情報を集めるのにSNSは便利なツールだ。もっとも、SNSでは個人が自由に情報を発信できるだけに、偽情報も拡散しやすい。

自身と似たような興味関心を持っているコミュニティが形成されると、自分好みの情報ばかりに接する「エコーチェンバー」現象が起き、偽情報であっても間違いないと確信を深めやすい。

やはり、税制に関する情報については、SNSではなく公的機関のサイトなどで確認すべきだった。

草コインはハイリスク 損失を限定できる資金管理を

また、1億円分のBTCを草コインに交換した取引も反省の余地がある。

草コインへの投資は当たれば利益こそ大きいものの、数ある草コインの中から大幅上昇する銘柄を引き当てるのは難しい。

草コイン投資を否定するわけではないが、草コイン投資に振り向けるのは資産の一部にとどめておき、仮に草コイン銘柄の価値がなくなっても、総資産に対する損失が限定的で済む範囲で行うべきだった。

仮に、暗号資産取引で得た所得が給与所得などに合算されることを知っていたならば、納付を求められる税額を計算して現金化し、残りの資金で暗号資産取引を行うべきだった。

損失を確定させて利益を圧縮

その他に、Aさんにできる対応はなかっただろうか。暗号資産取引で得た利益に対する税に関しては、利益を圧縮することで納税額を減らせる可能性がある。具体的に、どうすれば利益を圧縮できるのか。

Aさんの事例でいうと、Aさんは1億円分のBTCを草コインと交換していた。この草コインとの交換時に9,000万円の売却益が生じたわけだが、その後、Aさんが保有していた草コインの大半は値下がりしていた。

つまり、草コインの含み損を、草コインを売却することで損失として確定させていれば、その損失分を9,000万円の利益と相殺できたのだ。

仮に、草コインの値下がりによる含み損が6,000万円で、その時点で草コインを売却したとすると、Aさんの課税対象所得は9,000万円-6,000万円=3,000万円に圧縮できる。

会社員としての課税対象所得500万円と合わせると合計は3,500万円で、この場合に適用される税率は40%(住民税を含めると50%)であることから、3,500万円×0.5=1,750万円。控除額の2,796,000円を差し引くと1,470万4,000円となり、税額は4,745万4,000円-1,470万4,000円=3,275万円減らせる計算だ。

法人を設立して事業所得化

最後に紹介するAさんが取り得た節税対策は、個人投資家として暗号資産取引をするのではなく、法人を設立して暗号資産取引で得た利益を事業所得化する方法だ。

暗号資産の利益を事業所得化するメリットは、法人税の税率を適用できる点だ。法人税の税率は資本金1億円以下であれば23.20%(所得が年800万円以下の部分については15%)と、累進課税の高い税率の階層に比べて低い。

もっとも、法人化すれば法人住民税や法人事業税といった他の税も課されるが、企業が実質的に負担する税率を指す実効税率は30%程度と考えられており、個人事業の所得が700〜800万円以上になると、法人化した方がメリットは大きいと指摘されている。

暗号資産に関連する税制度

暗号資産に関連する税制度の基本事項を確認する。

確定申告

Aさんの事例にみられるように、本来納付すべき税を納付していないと、税務署から申告漏れを指摘され、結局は税金を支払わなければならなくなる。

さらに、本来納付すべきであった期日を過ぎると延滞税が発生し、元の税額から日を重ねるごとに増えていく。適用される延滞税の税率は、納期限の翌日から2か月を経過する日までの期間は年7.3%、2か月を経過する日の翌日以後は年14.6%だ。

所得税には時効が定められており、一定期間を経過すると税を支払う必要はなくなる。しかし、実際には未納のまま逃げ切れるものではなく、督促状が届くと期間はリセットされる。督促状を無視して未納を続けていると、最悪の場合は財産を差し押さえられる可能性もある。

こうした事態を回避するためにも、暗号資産取引で利益を得た場合は適切に確定申告を行うことが肝要だ。

年間利益が20万円超の場合は確定申告が必要

確定申告は1月1日〜12月31日までの1年間で得た所得と所得税額を計算し、過不足を精算する手続きだ。

会社員であれば所得税は給与から源泉徴収され、さらに年末調整で過不足の精算は済むが、個人として暗号資産取引を行っている人や、副業で暗号資産を取引している人は確定申告が必要だ。

原則として年間の利益が20万円を超える場合は、確定申告を行わなければならない。

税制正しく理解し、落とし穴回避を

暗号資産はボラティリティが大きく、上手に運用すれば「億り人」の仲間入りも夢ではない。一方、短期間に多額の利益を得られる分、支払わなければならない所得税も一気に跳ね上がる可能性がある。そうなれば、手持ちの資金で納税額を用意できず、支払い不能に陥りかねない。

暗号資産に関する税制度を正しく理解し、税の落とし穴にはまらないよう気をつけたい。


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