日本のファミリーオフィスの歴史

欧米では、ファミリービジネスのためにファミリーオフィスが広く使われていますが、これは欧米独自のものではありません。日本でも、江戸時代から明治時代にかけて、三井家において同様の取り組みが行われていました。

江戸時代の三井家では、「宗竺遺書(そうちくいしょ)」という家訓をまとめ、ファミリービジネスの経営、資産管理、事業承継などの基本的な規範として活用されていました。

また、ファミリーを制御するために、従業員を取り立て、経営に当たらせる「大元方(おおもとかた)制度」を導入し、所有と経営の分離を踏まえたファミリービジネスの経営を行っていました。

つまり、日本でもファミリーオフィスの活用は古くからあり、欧米に先駆けてファミリービジネスの持続的な発展を支えていたといえます。

ファミリーオフィスとアクティビストファンドの違い

そして、現在の日本で有名なファミリーオフィスの一つが、任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)」です。

ヘッジファンドの一種であるアクティビストファンドは、大手機関投資家がオルタナティブ投資の一環として出資し、他人のお金を運用します。

アクティビストは、声高に主張し株価上昇や還元を引き出し、大きなリターンを得ることを目指しますが、結果を出さなければ出資者の怒りを買い、時には自らが職を失うこともあります。

しかし、YFOは違います。任天堂中興の祖と言われた故山内溥・元社長の孫である山内万丈氏が立ち上げ、溥氏から譲り受けた任天堂株式を資金源としています。ファミリーオフィスとして、他人から資金を預かって運用しているのではなく、自分の手持ちの資金で投資をしているのです。

投資可能な資金は1,000億円規模とされており、リターンを出さなければならないという強迫観念はありません。

出口戦略を想定しない買収ファンドは通常ありませんが、YFOはそのような行動をとっても、誰からも批判されません。これがファミリーオフィスの最大の特徴です。

もし損失を被っても出資者に迷惑をかけることがなく、自らの責任として割り切ることができます。


ファミリーオフィスは今後どうなる?

2008年の金融危機後、米国ではユニバーサルバンクやヘッジファンドの開示義務が強化されました。しかし、ファミリーオフィスに対する規制は強化されず、そのためヘッジファンドがファミリーオフィスに業態転換して、規制を回避する動きが見られています。

このことが、野村ホールディングスやクレディ・スイスの2021年3月の巨額損失の原因にもなったと指摘されています。この損失は、ファミリーオフィスのひとつであるアルケゴスとの取引に伴うものでしたが、過剰なリスクマネーがファミリーオフィスの名の下に流入し、破綻した例と言えます。

今回のクレディ・スイス買収劇は、再びファミリーオフィスの注目を集めることになるかもしれません。

ファミリーオフィスは、超富裕層の家族が自分たちの資産を管理するために設立する投資会社であり、規制が緩いことから、ヘッジファンド・マネージャーなどもファミリーオフィスを設立しています。

ファミリーオフィスは、投資先の選択肢が広く、自己資本比率が高いため、多額の資金を動かすことができます。

投資家はファミリーオフィスの運用方法に注目し、その成果に期待することがあります。ただし規制が緩いため、リスクも高く、破綻することもあります。

今後は、超富裕層の資産管理方法に対する関心が高まり、ファミリーオフィスの運用方法が注目されるでしょう。規制緩和の背景から、ファミリーオフィスの設立が増加傾向にありますが、その運用方法には注意が必要です。

日本でもYFOに続くファミリーオフィスが株式市場をにぎわせるかもしれません。今後、ファミリーオフィスがどのような運用を行い、どのような成果を出すかに注目です。

文:M&A Online編集部