この記事は2023年4月21日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「地価は好調も、金融環境の不安定化でリートに黄信号」を一部編集し、転載したものです。
国土交通省は3月22日、2023年1月1日時点における公示地価を発表した。公示地価は全国平均で前年比1.6%上昇し、21年の同0.5%低下、22年の同0.6%上昇に比べ、コロナ禍が引き起こした地価下落からの回復傾向がいっそう鮮明になった。図表に示した全国都市部80地点における四半期ごとの地価上昇割合を見ると、20年の第4四半期から上昇地点の割合が着実に増えていることが分かる。都市部の地価が安定的に上昇していることが、全国的な公示地価の上昇に結び付いていると考えてよいだろう。
都市部とその周辺の地価上昇は、人流の回復や再開発による利用の高度化(高層化)、マンションを中心とした住宅ブームなどに支えられている。このような不動産の利用需要の背景のみから考えれば、足元の緩やかな地価の上昇トレンドが変調を来す心配はないようにも見える。
しかし、不動産証券化商品の代表的指標である東証リート指数は、21年にいったんコロナ前の水準近くに回復したものの、その後は徐々に下落して低調な動きとなり、地価とは逆の方向に推移している。Jリートは一般に、株式など金融市場の影響を受けやすいとされる。22年の米国利上げに始まり、同年末には日本銀行によるイールドカーブ・コントロールの変更、今年に入ってからは、米欧金融機関の信用不安の波及など、国内外の金融市場の動揺の影響を受けて、リート指数は上昇の機会を失っているかのようだ。
地価が上昇する背景とリート指数が下落する背景は異なるため、短期的にはこのように逆の動きを見せることはあるだろう。ただし、長期的には上昇トレンドか下落トレンドのどちらかの方向に収斂していくと考えるのが自然だ。まずは、人流回復などの地価上昇の要因が、賃貸収益の改善を通じてリート指数の反転上昇に寄与することを期待したい。
一方で、リート軟調の背景にある金融環境の不安定化は、それを押し返して地価を下落させる力を持ち得る。仮に金融環境の悪化が続けば、不動産投資が減退し、不動産売買市場は冷え込んでいく。景気全体に影響が出始めれば、オフィスや商業施設、住宅の需要減少へと伝播しかねない。
ネガティブな事象を引き起こし得る“芽”は、地価の動向を追っているだけでは発見することが難しい。不動産の需給だけでなく、リートも含めた金融環境まで注視しておく必要がある。
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 フェロー/大溝 日出夫
週刊金融財政事情 2023年4月25日号