「これが日本のカーボンニュートラルだ!」岸田文雄首相のお膝元である広島市で開かれる主要7カ国(G7)サミットで、自動車の地球温暖化防止策として事実上、唯一の選択肢だった電気自動車(EV)に加えて、ガソリンエンジン車も合成燃料の利用を条件に生き残る見通しとなった。広島に本社を置くマツダ<7261>はじめ、EVシフトに乗り遅れている日本車メーカーにとって「福音」になるのだろうか?
合成燃料で「EV弱者」の日本車を救いたい政府
広島サミットの「前哨戦」となるG7気候・エネルギー・環境相会合(札幌市)が4月17日に閉幕し、焦点となっていた自動車の脱炭素化では2035年までに二酸化炭素(CO₂)の排出量を2000年比で半減させることで合意した。
欧米はEVの導入目標を主張したが、日本は省エネエンジン車やハイブリッド車(HV)を含めてCO₂の排出を抑えることで脱炭素化が進むと主張。3月にEUがドイツからの強い要望で水素(H₂)とCO₂の合成燃料に限ってエンジン車の存続を認めると方向転換したことから、今回のサミットで岸田首相が主張する合成燃料による脱炭素化がG7で受け入れられる見通しになった。
日本政府としても菅義偉政権では「35年までに新車販売で電動車を100%とする」EVシフト一択だったので、大きな方向転換となる。そもそも日本車メーカーは2009年に三菱自動車<7211>が世界初の量産EV「i-MiEV」を発売したのを皮切りに、翌2010年12月に日産自動車<7201>が「リーフ」を発売するなど、一時は世界をリードした。
しかし、両車の販売が伸び悩む一方で、ガソリンを燃料とするHVや省エネエンジン車が商業的に成功したため、EVは手薄に。その間隙を縫うように、欧州や中国の自動車メーカーがEVを増産。ガソリン車で日本車に勝てないと判断した米国や韓国のメーカーもEVシフトに追随している。2022年のEV世界販売で上位20社に食い込んでいる日本車メーカーは存在しない。
合成燃料の価格はガソリンの6倍以上
合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれ、CO₂とH₂を炭化水素(HC)として合成したもの。石油や天然ガスといった化石燃料の主成分も、炭化水素とその化合物だ。炭化水素を利用すれば、石油や天然ガスと同様にCO₂が発生する。なぜ、合成燃料は脱炭素化につながるのか?
G7サミットで認められるHCの原料は再生可能エネルギーで電気分解した「グリーン水素」と、発電所や工場から排出された大気中のCO₂。燃焼で排出されるのと同量のCO₂を大気中から原料として吸収するので「プラス・マイナス・ゼロ」のカーボンニュートラルな燃料となる理屈だ。
合成燃料はガソリンなどの化石燃料で動くエンジンや供給インフラをそのまま利用できる。省エネエンジンやHVで世界をリードする日本車メーカーにとっては、それらの強みを最大限に生かせる燃料だ。
だが、普及には課題がある。大気中からのCO₂を回収するコストや、H₂を電気分解するための太陽光発電や風力発電の電力コストは高い。現時点で合成燃料の生産コストは、ガソリンの6倍以上と言われている。
再生可能エネルギーで発生した電力をH₂の電気分解に使うよりも、EVの充電に回す方が変換ロスが小さい。だから合成燃料が量産化されても、燃料コストでEVを下回ることはないだろう。ただでさえガソリンは1km当たりの走行コストがEV用電力よりも割高だ。
EVの量産が進んで車体価格が下がれば、高価な合成燃料車を利用するユーザーは少ないだろう。合成燃料は日本車を救うには明らかに「力不足」なのだ。
文:M&A Online