この記事は2023年4月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「5%前後の経済成長率を目指し李強新体制下で消費回復が本格化」を一部編集し、転載したものです。


5%前後の経済成長率を目指し李強新体制下で消費回復が本格化
(画像=Dmytro/stock.adobe.com)

中国では3月に開催された全国人民代表大会(全人代)で、李強首相を軸とする新体制が発足した。その際に、今年の最重要課題である国内経済の安定成長軌道への回帰を実現させるべく、5%前後の経済成長率目標が掲げられた。2023年1~3月期は、経済成長率が22年通年の3.0%から4.5%まで高まり、失業率も22年末の5.5%から5.3%に改善するなど順調な滑り出しを見せた。

政府が「内需拡大」をスローガンに年初から金融財政政策を積極化した結果、インフラ建設や設備投資は前年を7~9%上回るペースで拡大している。また、感染爆発の早期収束を受けて、経済再開後の消費回復も加速している。23年1~3月は、航空旅客数が前年同期比で7割増となった(国内線は19年水準の9割まで回復が進んだ)ほか、飲食売上げも2桁の伸びを記録した。加えて、各地方政府が消費促進策として1台当たり最大10万~20万円規模の自動車購入補助金などを積極的に導入していることもあり、3月は小売売上げや自動車販売が前年を1割程度上回った。

注目すべきは消費主導の景気回復が進むなか、1~3月のCPI上昇率が1.3%と低位安定していることだ。これは米国との大きな相違点だが、①政府の供給安定策などを受け燃料価格や食品価格が下落基調で推移していること、②不動産開発投資の停滞長期化などから卸売価格の前年割れが続いてること、③在庫調整やシェア争いから自動車等で値下げの動きが広がっていること──などが背景にある。長期にわたるゼロコロナ政策によって、多くの失業者や過剰在庫を抱えたかたちで経済再開を迎えたため、需要拡大ペースがマイルドになりインフレ抑制につながっている。息の長い安定成長を目指す李強首相にとって、物価安定を維持しながら景気を回復させることが重要な政策目標となっている。

そして、昨年3割近く落ち込んだ住宅販売市場が1~3月に前年比7%増まで急回復したこともポジティブサプライズだ。当局の大規模資金支援策により不動産セクターの経営が安定に向かうなか、住宅ローン金利の低下や住宅購入規制の緩和が追い風となり、1年以上様子見ムードだった実需層が住宅価格の値上がりを見据えて購入を再開させている。3月は、主要都市の9割に相当する地域で新築住宅価格が上昇に転じた。

これらを踏まえ、23年の経済成長率については通年で6.0%前後に達する可能性が高まったと予測する。もっとも、景気回復を鈍らせるリスク要因として、①欧米の景気減速に伴う輸出悪化や、②対中ハイテク規制をはじめとする米中摩擦の激化、③夏場の電力不足などが注視される。中国経済はこれから不動産開発や生産セクターの回復が円滑に進むかが焦点となるが、想定以上に上振れした場合、年後半にインフレ圧力が強まる可能性にも留意する必要がある。

5%前後の経済成長率を目指し李強新体制下で消費回復が本格化
(画像=きんざいOnline)

岡三証券 チーフエコノミスト(中国)/後藤 好美
週刊金融財政事情 2023年5月2日号