本記事は、岩田松雄氏の著書『ブランド 「自分の価値」を見つける48の心得』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
一流は「人の真似」をしない
「スターバックス」と「スターバックスに似たコーヒーショップ」がまったく異なるように、アップルの「iPhone」と「iPhoneに似たスマートフォン」も大きく異なります。
しかし、現時点でスマートフォンを経験したことがない人が量販店に足を運べば、表面上からはiPhoneとその他のスマホの違いがわかりません。発売当初、ショックに近い感動を与えてくれたiPhoneですが、似たような外見のスマートフォンがたくさん出てきた今、その魅力は外見だけでは決してわかりません。
スペックだけを比較しても、今やiPhoneに優位性はありません。しかも、価格が高い。常識的には、大きく売れる理由はないはずです。
それでもiPhoneの新製品が出ると、ユーザーは競って奪い合います。アップルストアに長蛇の列ができるのは、もはや風物詩と化しました。
すみずみまで徹底されている「ちょっとした素敵さ」の積み重ねは、つくり手に基本的な「姿勢=コンセプト」がなければ成立せず、ユーザーもある程度使ってみて初めて認識できるものです。
「iPhoneがこのくらいのスペックだから、私たちはそれより1万円安い価格で同等の商品をつくろう」というのが他社の発想です。
一方、アップルは「誰も見たことのない価値を供給すれば、顧客はいくらでもお金を払ってくれる。だから、いくらでつくれるかではなく、どうやってユーザーを驚かすか」と考えます。
かつてのソニーのウォークマンや、最近で言えば掃除機のルンバ、ダイソンの羽根のない扇風機・エアマルチプライアーも同様です。他人を気にすることなく好きな音楽を外にもち出せるプレーヤー。勝手にきれいにしてくれるロボット掃除機。小さな子どもに危害を及ぼしにくい扇風機。
iPhoneを経験したことのない人たちは、それを不思議そうな目で見つめ、なぜそこまで魅力があるのかを考え始めます。
これらには、消費者の想像を超えた、驚きと感動があります。新しいモノを世の中に生みだすという先駆者の志があります。スティーブ・ジョブズはこう言っています。
「何が欲しいかなんて、それを見せられるまでわかるはずがない」
消費者に驚きを与える商品は、スペックや価格比較などのマーケティング調査からは生まれません。彼らは見たことのないものをつくろうとしているのであって、その志と新しい商品が一体になって、お客様から「本物」と認知されるのです。「本物」とはつまり、一流のブランドのことです。
いくら「iPhoneより2割安い」「iPhoneよりバッテリーのもちがいい」と主張しても、決してiPhoneを超えるブランドにはなれません。「もどき」はどんなに頑張っても、「もどき」でしかない。
私の経験上、つい値段に惹かれて「もどき」を買うと大概の場合後悔します。たとえ高くても、「本物」にお客様が吸い寄せられているのには理由があるのです。コーヒーのスターバックス、スマートフォンのアップル、エンターテインメントのディズニー。志の高い先駆者こそが、ブランドなのです。
個人においてもこれは同じです。
一流の人は、人より少し身長が高いとか、お金を持っているとか、マンションの高層階に住んでいるとか、そんな細かなスペックにこだわりません。もっと大きな視野で自分や世の中を見ているのです。