本記事は、岩田松雄氏の著書『ブランド 「自分の価値」を見つける48の心得』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
会社は「コスト削減」では再生しない
ミッションとブランドは表裏の関係です。会社や個人のミッションが外に滲み出たものがブランドであるべきです。だから、ミッションを掲げてから、それがブランド化するまでには時間がかかります。
私が日本国内でザ・ボディショップを運営するイオンフォレストのCEOになったころ、業績が低迷していることもあり、社内にはミッションについて語るような余裕もなかったように感じました。
ザ・ボディショップは、創業者のアニータ・ロディックの、社会に対する怒りにも似た姿勢を投影したユニークなブランドです。化粧品の動物実験に反対し、人権や環境、「自分らしさ」を大切にするという、既存の化粧品メーカーにはない価値観を全面に打ち出していました。
それがザ・ボディショップであり、そんなアニータの姿勢に憧れてイオンフォレストに入社してきた多くの社員たち。1990年に表参道の1号店から日本での展開が始まり、7年ほどは大ブームに乗って業績を伸ばしていました。
しかし、私がやって来た2005年の時点では、大きく業績は低迷していました。売り上げよりもコストカットでお店はアルバイトばかり。研修も巡回もなく、店長たちはお客様への接客よりも会議の資料作成に躍起になっている。愛すべきお客様や従業員たちに、盗難防止の監視カメラが向けられている。店内は掃除の不徹底が目立ち、営業中にもかかわらず、搬入用のコンテナが床に転がっていても誰も気に留めない。
それは創業者アニータが見れば、とてもザ・ボディショップとは思えないような姿であり、多くのお店でアニータの持つ情熱は見受けられないように感じました。
アニータの掲げたミッションに心酔していた社員ほど、日本のザ・ボディショップであるイオンフォレストに失望しているというのです。ミッションの追求よりも社内政治。お客様への応対よりも、今週の会議で自分に向けられる追及をどう
多くの優秀な人が「ザ・ボディショップは大好きだけれど、イオンフォレストは嫌い」と言って会社を離れていきました。
お店の構えや製品の品質は世界各国と同じはずなのに、業績は振るわず、売り上げはピーク時の3分の2に落ち込み、社員の離職率は20%超という残念な状態でした。
このような凋落は、決して一度に起きたわけではありません。業績の不振をコスト削減で補おうとした結果、店舗にはトレーニングもされていないアルバイトばかりで、「いらっしゃいませ」も満足に言えない状態でした。ましてフェアトレードや地球環境への配慮など、アニータの掲げたミッションをきちんとお客様に説明できていませんでした。そして客足が遠のき、やがて「ボディショップは終わったブランド」というイメージすらついてしまったのです。
私が再生するためにまずしたことは、ザ・ボディショップの原点であるアニータの掲げたミッションに戻り、そこからすべてを再構築することでした。
既存の従業員に私の思いを伝え、新卒社員採用を強化して、素晴らしいミッションへの理解を深めてもらいました。「CS(顧客満足)よりES(従業員満足)」の方針のもと、さまざまな企業改革や待遇改善により、従業員の満足度が劇的に上がり、それが顧客の満足度上昇、業績向上、そして給料の上昇と定着率の改善につながるという好循環を生み出しました。ただし、そこまで戻るのに2~3年を要したことも忘れてはなりません。実際にブランドが回復するには時間がかかるということです。
ブランドが確立されている企業でも、志を失って目先の売り上げや不必要なコストカットをした結果、財務諸表上では、コスト削減やリストラがうまく進んでいるかのように見えます。
しかしある日突然、大木の幹の中が、がらんどうになっている事実に気づかされるのです。志を失えば、やがてブランドは色