本記事は、岩田松雄氏の著書『ブランド 「自分の価値」を見つける48の心得』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
スターバックスの人魚がつなぐもの
企業や商品の場合も同じです。
スターバックスコーヒーは、すでに確立されたブランドになっています。日本での店舗数は1,500を超え、全国どこの街を歩いていても、スターバックスのロゴを目にする機会が増えました。
ダークグリーンのコーポレートカラー。「サイレン」と呼ばれる、ギリシャ神話上の2つの尾をもった人魚。道行く人が抱えているバッグやカップに書かれていると、私はつい目を奪われてしまいます。
スターバックスが大好きな人、スターバックスを特別なブランドとして意識している人ほど、私と同様にそのロゴについ目がいってしまうのではないでしょうか。
スターバックスのカップを持っている人は、ちょっと誇らしげに、さっそうと歩いているように見える。勝手に親しみを覚えてしまうこともあります。
あのロゴを見ただけで気持ちがほっこりとして、緊張感がほぐれるという人もいます。
コーヒーを飲む気はなかったのに、気づくとお店に入っているという人もいます。
コーヒーが飲めないのに、足しげく通う人もいます。
紙袋やコーヒーの入ったカップに書かれているのは、あくまでロゴタイプだけ。スターバックスの企業理念や志などどこにも書かれていませんし、現在のロゴには「STARBUCKS COFFEE」の文字すら併記されなくなりました。
そもそもスターバックスはマス広告や宣伝をほとんどしません。テレビCMなども、見たことがないはずです。それにもかかわらず、なぜスターバックスは一流ブランドになれたのでしょうか。
宣伝しないスターバックスがブランドになれた理由
もともと「ブランド」とは、他者の家畜と区別するため自分の家畜などに焼印を施した印(識別マーク)が起源です。今では他社と差別化するために名称、ロゴ、デザインなどを組み合わせ、他社の製品・サービスより優れていることを顧客に認識させ、顧客の信頼感を獲得し、ブランドに「価値」が生まれると考えられています。
スターバックスのファンになっていただいているお客様には、それぞれの中にスターバックスに対するポジティブな記憶や思い入れのあるストーリーがあり、特別な存在として確立しています。これこそがブランドです。
そしてそれを想起させるスイッチのようなものが、ダークグリーンの色であったり、「サイレン」のマークだったりするわけです。人々はスイッチを押されると、いつも通っている店の情景や、疲れた気持ちを解きほぐす香り、顔見知りのパートナー(スターバックスでは、店舗で働く人たちもCEOも立場にかかわらずこう呼ばれます)の顔が浮かびます。人によってはスターバックスで経験した特別な出来事を思い出し、心が躍ることもあるでしょう。
スターバックスという企業、そして何よりもそのお店で働いているパートナーたちは、
「人々の心を豊かで活力あるものにするために――
ひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」
というミッションに基づいて、質の高いコーヒーを提供し、素敵な空間を維持し、ときにはお客様の想像を超えた感動的な接客をしています。
しかし、ほとんどのお客様はスターバックスのミッションを知らないと思います。
お店に行き、コーヒーを飲み、おいしいと感じる。店内の空間としての居心地のよさ、パートナーたちの質の高さに気づく。たまたま疲れているときに、顔なじみのパートナーから「ちょっとお疲れ気味ですか? ご自愛ください」と書かれたカードを受け取る。
お客様にとって「スターバックス」は、こうした経験が積み重なって、特別な場所になっていきます。決して代わりのきかない、「特別な空間」になっていくわけです。
お客様がスターバックスに行く理由は、単にコーヒーを飲みたいからではなく、そこに行くことで元気になりたい、活力をもらいたい、と思っているからではないでしょうか。単なるコーヒーショップ以上の愛着をお持ちなのではないでしょうか。
スターバックスは、広告や宣伝によって人々にそのミッションを大声で叫んでいるわけではありませんが、自然と人々の心に届き、ブランドとして定着しているのです。
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