本記事は、岩田松雄氏の著書『ブランド 「自分の価値」を見つける48の心得』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
一流は「ブランド人」である
ここからは、一流のブランド人になるためのヒントを述べていきます。
街中でコーヒーが飲みたくなりました。そこに偶然、スターバックスと「スターバックスのようなコーヒーショップ」が並んでいたとします。あなたなら、どちらのドアに向かうでしょうか?
スターバックスを支持する方が多数派かもしれません。
では、スターバックスを選んだ理由は、何でしょうか?
スターバックスのファンの方にこの質問をした場合、おそらくさまざまな答えが返ってくるはずです。
- コーヒーがおいしいから
- メニューが多彩だから
- さまざまなカスタマイズに対応してくれるから
- 完全禁煙だから
- インテリアデザインが好みだから
- お店のパートナーたちの接客、笑顔が素敵だから
- スターバックスのほうが「かっこいい」と思うから
このうちのひとつだけが答えかもしれませんし、いくつかの理由が合わさって、「とにかくスターバックスに行く!」というケースもあるでしょう。どの要素にもっとも惹かれているかは、人によって違いがありそうです。
私は、これらの理由はすべて、スターバックスのミッションに起因していると思います。スターバックスがあなたにとって素敵なコーヒーショップであり続ける根本的な理由は、スターバックスの掲げている、
「人々の心を豊かで活力あるものにするために――
ひとりのお客様、1杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」
というミッションが、お店のパートナーの間に浸透しているからです。
スターバックスは、人々の心を豊かで活力のあるものにするためにコーヒーを売っているのであって、決してお金儲けのために売っているのではありません。
私が敬愛する元スターバックス役員のハワード・ビーハーは、こう言っています。
「私たちは人々のお腹を満たしているのではない。心を満たしているのだ」
このような志があってこそ、店内の心地よい空気感が生まれ、それが「スターバックスらしさ」(つまりブランド)として認知されていきます。
「○○らしさ」(ブランド)とは、ミッションがあって初めて生まれるものなのです。
自信のある商品やサービスだけを提供せよ
店内の雰囲気が大切ならば、施設にお金をかけて、コーヒーは多少品質を落としてコストを削ったほうが儲かるのではないか、という考え方も成り立ちそうです。しかし、スターバックスは1時間ごとに余ったコーヒーを捨てています。つねに新鮮なコーヒーを出すようにコストをかけている。とはいえ、こういった努力はお客様には伝わりにくいですから、そんなことをしなくてもいいのではないか……と考えがちです。
パートナーたちの接客がマニュアル通り完璧で、インテリアに凝っていて、スターバックスに似たロゴが入った看板を掲げておけば、〝そこそこのコーヒー〟を出しても、それは一見したところ「スターバックス」です。
しかし、これは間違いです。
そこで働くパートナーたちにとって、「スターバックスのコーヒー」は誇りです。おいしいコーヒーを提供してお客様に喜んでいただけることで、パートナーたちは充実感を持てるのです。
もしも〝そこそこのコーヒー〟に品質を落としてしまったとしたら……。お客様に自信を持っておすすめできなくなり、負の連鎖が起こってしまいます(スターバックスでもかつて経験しました……)。
コーヒーのおいしさは、スターバックスがスターバックスであり続けるための根幹です。それによってパートナーたちは充実感を持ち、自信にあふれ、お客様に笑顔で接することができるのです。
素敵なインテリアデザインはそれを一段と彩り、おいしいコーヒーの香りの邪魔をする喫煙はお断りしています。スターバックスは「自宅でもオフィスでもない第3の大切な場所(サードプレイス)」になっているのです。
このような好循環は、ときにびっくりするような感動的なエピソードを生み出します。こうして、お客様の中に、スターバックスのロゴとともに、エクスペリエンス(経験)が刻まれ、不動のブランドが形づくられていくのです。
皆さんは、自分たちが提供する商品やサービスを心から誇りに思い、お客様に自信をもっておすすめできていますか?
ブランドづくりのスタートは、そこから始まります。