「ラーメン店主は暴力団組長」…まるでドラマの筋書きのような事実が、4月22日に神戸市で発生した殺人事件で発覚した。関係者によると暴力団としての「しのぎ」収入が激減し、自身の生活のために趣味の食べ歩きを生かして5年ほど前にラーメン店を開業したという。暴力団組長も手を出したラーメン店の新規開業だが、一体いくらかかるのだろうか?

先ずは資格と店舗を押さえる

常連客は店長が現役の組長とはつゆ知らず、仕事ぶりは極めて真面目。とにかく安くておいしいと評判の人気店だった。日本人の国民食とも言われるラーメン店は、「一国一城の主」として独立したい人にとってはうってつけのようだ。

ラーメン店を開業するには、まず資格だ。これがなければ話にならない。ラーメン店を運営するには「食料品衛生責任者」の資格がいるが、都道府県食品衛生協会が実施する養成講習会を受講すればよい。講習会日程や内容は最寄りの保健所に問い合わせること。

次に保健所から「飲食店営業許可」を取得する。店舗工事の着工前に設計図などを保健所に持参して相談し、助言に従い営業許可申請書や必要な書類を用意して営業申請する。店舗工事終了後に保健所が施設の確認審査が実施し、問題なければ営業許可書が交付される。

ここまでの受講料や手数料は、地域によって異なるが大きな出費ではないので気にすることはない。収容人数が30人以上の飲食店の場合は防火管理者が必要になる。その場合は全国の消防本部や防災協会などが開く防火管理講習を受けておく。

店舗の費用だが、通常は1〜3カ月分の家賃を前払いする必要がある。前払い家賃とは別に一般住宅と同様に保証金・敷金が家賃の6〜10か月分、礼金と不動産会社への仲介手数料がそれぞれ1カ月分かかると見ておいた方がいい。合計で9〜15カ月分。家賃が20万円の物件だと180万〜300万円を用意しておかなくてはならない。

店舗を借りたら工事だ。内装工事費用は厨房の区切りやトイレの改装、カウンターテーブル、固定椅子、エアコンの設置などで約500万〜1000万円はかかる。看板などの外装工事費用は、こだわらなければ約10万〜30万円程度だ。


開業資金は2000万円、格安開業の手段は…

工事を終えたら厨房内で必要となる設備を設置する。ガスコンロやゆで麺機、冷凍冷蔵庫などで約200万〜250万円が必要になる。客席もしつらえなくてはならない。テーブルや椅子の購入にかかる什器費が15席程度で約80万円かかる。

ラーメンや餃子などを提供する食器や調理道具、割り箸などの消耗品の経費も約100万円は見積もっておきたい。ここまでが開業時の初期投資だ。

さらに毎月の運転資金も必要だ。麺や餃子の皮などの食材費に毎月約60万円をみておこう。昨今の値上がりで頭が痛いガス・電気代や水道代といった水道光熱費は、平均的なラーメン店で同約15万円かかる。最後にアルバイトを雇用する人件費。ラーメン店では原材料費と同じ30%程度を占め、同60万円はかかる。先の家賃と合わせると合計で同155万円だ。

安定経営のためには半年分の運転資金を確保するのが望ましいとされ、開業時には初期投資とは別に900万円程度の余裕資金を用意しておきたい。初期投資と開業後半年間の運転資金を合わせると、平均的なラーメン店を開業するには2000万円の資金を用意しておきたい。

とはいえ、安くあげる方法もある。前に運営していた店舗の設備や、什器、家具などがついたままで売買または賃貸借される「居抜き物件」を利用することだ。神戸の暴力団組長が経営していたラーメン店も定食店の居抜き物件だったとみられる。店名も変えず、業態と店長が変わっただけだったので、看板代もかからなかったはずだ。

これならば800万円程度節約できるため、余裕資金を含めても1200万円程度で開業できる。殺害された暴力団組長は本業の「しのぎ」がふるわず、資金繰りに窮していたという。居抜きでラーメン店を開業するしかなかったのかもしれない。

文:M&A Online