特集『Hidden unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。

今回は、SRE構築・データ連携・セキュリティ・人材採用という4つの柱で企業のインフラを支える株式会社スリーシェイク代表取締役社長吉田拓真氏にお話を伺った。

(取材・執筆・構成=斎藤一美)

株式会社スリーシェイク
吉田拓真
株式会社スリーシェイク代表取締役社長
東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。2011年DeNAに入社し、インフラエンジニアとして決済代行ペイジェント社の基盤を担当。2013年に創業期のポッピンゲームズジャパン株式会社に入社し、ゲームプロデューサー、事業戦略室室長を務め、ベンチャー創業期の技術・事業・経営をリード。日本発のインフラプラットフォームを作るべく、2015年1月に株式会社スリーシェイクを設立。
株式会社スリーシェイク
2015年1月に自宅にて創業、クラウド構築運用支援業務をスタートする。現在はエンジニアレイヤーの労苦〈Toil〉をなくすことを目標に、SRE支援ソリューション、セキュリティ診断ソリューション、データ活用ソリューション、エンジニアHRソリューションなどを提供。インフラをシンプル化することで、エンジニアのリソース・技術を最大限に生かせる世界の実現を目指している。

目次

  1. SRE支援を中心にさまざまなソリューションを提供
  2. 業務を簡易化し、専門家不要の世界を創る
  3. SREを世界に広める役割を担いたい
  4. 時代の波にうまく乗り順調に成長
  5. 今後の課題はお客様の満足度維持
  6. SREが不要になる時代を目指して

SRE支援を中心にさまざまなソリューションを提供

――株式会社スリーシェイク様の事業内容と沿革について、教えてください。

株式会社スリーシェイク代表取締役社長・吉田拓真氏(以下、社名・氏名略):スリーシェイクは、エンジニアリングレイヤーの課題解消を目的としたプラットフォームを提供する会社です。現在はシリーズBのフェーズで、これまで累計14億円ほどの資金調達を行いました
私は新卒でDeNAに入社し、金融のインフラエンジニアとしてキャリアをスタートしました。インフラ・クラウドレイヤーに関する業務に携わる中で、「この分野で日本から大きなイノベーションを起こしたい」と思ったことが、スリーシェイクを立ち上げたきっかけでした。起業により実現したかったのは、エンジニアレイヤーに存在する労苦〈Toil〉を取り除き、少ない人数でより多くのプロダクトを生み出せる世界を創ることです。

近年エンジニア不足が叫ばれていますが、実はエンジニアレイヤーの業務には無駄が非常に多いのです。弊社は企業様のインフラをシンプルにすることで業務の無駄を省くべく、現在はSRE支援ソリューション・セキュリティ診断ソリューション・データ活用ソリューション・エンジニアHRソリューションの4つプラットフォームを提供しています。

―最初にリリースされたSRE支援ソリューション「Sreake(スリーク)」について教えてください。

「Sreake」は、弊社の事業の主軸を担うSRE特化型コンサルティング事業です。SRE(Site Reliability Engineering)は2018年頃にGoogle社が提唱したエンジニアリングの手法で、お客様の価値を意識しながら幅広く部署を越えてエンジニア業務を行うことや、属人的な作業の自動化などを重視しています。弊社はこのSREに特化したコンサルティングを行っており、同分野において国内で大きな実績を上げてきました。

私たちがコンサルティングを行う上で、軸としていることが2つあります。それが、マルチクラウドとクラウドネイティブです。実現したい課題に対して特定の技術やIaaSに偏ることなく、フラットに、場合によっては関わるエンジニアのスキルや経験を踏まえた上で最適な環境を作っていくのがマルチクラウドです。

クラウドネイティブは、クラウドが持つ独自機能を徹底的に活用することに重きを置く考え方です。弊社はこの考え方に則り、クラウドが提供している新しい考え方や技術、カルチャーなどをフル活用したサービスの提供を目指してコンサルティングを行ってきました。これは、他社にはない特徴だと思います。

▼株式会社スリーシェイクのサービス

株式会社スリーシェイク
(画像=株式会社スリーシェイク)

業務を簡易化し、専門家不要の世界を創る

―セキュリティやデータ連携、エンジニアHR分野にビジネスを広げた理由は何でしょうか。

弊社はサービス開発における労苦〈Toil〉をなくすことを目指していますが、この労苦〈Toil〉はインフラだけではなく、セキュリティレイヤーやデータレイヤーにもあります。そのソリューションを提供するためにスタートしたのが、これら3つのプラットフォームです。

セキュリティの強化は企業にとって非常に重要ですが、セキュリティの専門家を置いている企業はほとんどありません。そこでリリースしたのが、誰でもワンアクションでセキュリティ診断ができるSaaS「Securify Scan(セキュリファイ スキャン)」です。

データレイヤーについても同じことが言えます。SaaSが広まりつつある中でも、SaaS間の連携がCSVを使ってインポート・エクスポートするような手作業が大量に発生しているのが現状です。この労苦〈Toil〉を解消すべく、データ連携/SaaS連携を自動化する「Reckoner(レコナー)」というサービスをスタートしました。

また、IT業界で大きな課題となっている、エンジニアの人材不足にソリューションを生み出すためにスタートしたのが、企業様とフリーランスのエンジニアをマッチングするサービス「Relance(リランス)」です。我々は他の人材会社様と比べてエンタープライズ企業にアクセスするチャンスが多いので、こちらはそのアセットを活かした事業となっています。

SREを世界に広める役割を担いたい

―SREコンサルティングに特化したきっかけは何ですか?

スリーシェイクは、クラウドの構築支援事業とAWSの構築支援事業からスタートしました、創業当初は1~2人でやっていたのですが、お客様から「経営視点でアドバイザリーをしてくれるのが、すごく嬉しいです」という言葉をよくいただいていました。

当時のクラウド構築支援サービスは、チケット管理ツールで依頼を受けると、指定された作業を指定された金額でやるというビジネスモデルがほとんどでした。一方で私はCEOやCOOと徹底的にディスカッションをし、戦略を立て、エンジニアを教育するところまで踏み込んでやっていたので、そこが評価されたのだと思います。

そうして事業を拡大している最中、2018年にGoogleからSREという定義が発表されました。「これは、まさに自分たちがやっていることだ」と思い、よりSREに特化したコンサルティング事業を行っていこうと決めたのです。それ以降は、日本中・世界中にSREを浸透させることが我々の役割だと考え、その実現に向かって邁進しています。

時代の波にうまく乗り順調に成長

―創業当初から順調に事業を拡大していますが、その秘訣を教えてください。

弊社が取っていたスタンスと時代のニーズ、エンジニアのニーズがうまくマッチしたことが大きいですね。弊社はコロナ禍以前から、すべてリモート支援を前提としていました。「社内の内製エンジニアと同じ権限をいただければ、リモートでも必ず結果を出します」というスタンスで企業様と接していたのです。この弊社の姿勢が、マイクロマネジメントされることや、所属外の企業に行って勤務することを好まないエンジニアのニーズとマッチし、結果的に多くの優秀なエンジニアを採用することができました。

コロナ禍となった2020年以降は、「セキュリティの問題で、常駐でないとパートナー企業として契約できない」と言われていた金融系の企業様とのお取引も急激に増えました。

―これまで、事業のブレークスルーはありましたか?

2018年にNTTデータ様のデジタル化を支援させていただいたことです。最初は3名くらいの小さなチームだったのですが、現在では300名くらいの大組織に成長しました。NTTデータ様の中でも、社外のパートナーベンチャーと組んで成功した事例の一つと認識していただいています。この成功事例をきっかけに複数の大手企業様からお声がけいただき、企業としても成長を遂げることができました。

今後の課題はお客様の満足度維持

―事業運営において、課題と思われることは何ですか?

お客様の満足度をいかに維持していくかが大きな課題だと思っています。SREにしても、データ/SaaS連携にしても、セキュリティにしても、お客様の知識・要望レベルは年々上がっています。それに応えられるサービスを提供し続けるのは、容易ではありません。その意味で、私たちがお客様に育てていただいている部分があると思っています。

実は弊社がSaaSとSREコンサルティングの両方やっていることには、狙いがあります。物を提供し続けるだけだと、どうしてもお客様に育てていただくチャンスが少なくなってしまいます。お客様を幸せにするコンサルティングを提供しつつ、自分たちのスケーラビリティを確保するSaaSを同時に作るというというループが、非常に大切だと考えています。

SREが不要になる時代を目指して

― 今後の目標や展望についてお聞かせください。

私たちは「Engineering as a Service」の世界を目指しています。エンジニアリングに纏わる労苦を取り除いていくだけでなく、そもそもサービス開発以外のエンジニアリングを極力自動化・SaaSにすることで、イノベーション支えていくサービス開発エンジニアを増やしたいのです。

ハイパーオートメンションと呼ばれるような、SaaSをさらに自動化するツールが今後もっと普及していきます。私たちもSREコンサルティングや「Reckoner」「Securify Scan」などを活用し、保守や業務支援系のエンジニアが不要の世界を創りたいです。SREが不要になる世界を実現した上で、5年後、10年後にはEaaS(Engineering as a Service)を提供したいと考えています。そして、世の中を支えるサイトやシステム、カルチャー、エンジニアにスリーシェイクが関わっている世界を10年後くらいに実現したいですね。

そのためにも、既存の4つの事業をしっかり花開かせていきたいと考えています。SER以外のデータレイヤーやセキュリティレイヤーは伸びしろがある事業なので、これらを向こう3年で成長させていく予定です。

その上で、5年後に5倍、10年後には10倍の売上を達成し、数百億円規模の事業を作り上げていきたいと考えています。

― 今最も関心のあるトピックは何ですか。

ChatGPTに興味がありますね。最近は、これに紐づいたさまざまなサービスがリリースされています。私たちも調査してみたのですが、ChatGPTと我々が携わっているインフラやセキュリティ、データ/SaaS連携は非常に親和性が高いのです。専門家がいないところにChatGPTを入れることで、誰でもできるようになる。例えば、まったくの素人が弊社のプラットフォームにアクセスすることで、セキュリティが強固になるような仕組みができるのではないかと考えています。

― 最後に、投資家に向けてメッセージをお願いします。

弊社は、テック市場で日本唯一のプロダクトを出し続けていこうとしている会社です。もし気になる方がいらっしゃれば、お声がけいただきたいですし、投資していただけたら嬉しいですね。我々の事業分野で、海外では巨大なプラットフォーマーが日々誕生しています。弊社のプロダクトは自信を持って海外に持って行けるものだと思っていますので、投資家の方々と協力して海外進出を狙いたいと考えています。