この記事は2023年5月19日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「景気後退期に逆行高、年後半には「質の悪い割高」状態是正も」を一部編集し、転載したものです。


景気後退期に逆行高、年後半には「質の悪い割高」状態是正も
(画像=Dilok/stock.adobe.com)

世界的に景気後退懸念が高まっているが、少しも意に介さず株式市場は逆行高の状態が継続している。一見すると、世界経済の底打ちと回復期待を事前に織り込むかのような前向きな動きとも解釈できるが、現実はそれほど楽観的な状況にはない。端的に言えば、特に米国株は「質の悪い割高」状態なのだ。仮にこの割高状態が是正される場合、当然ながら米国株に連動性の高い日本株市場も無傷ではいられない。

まず、米国株(S&P500指数)の予想PER(株価収益率)の推移に注目したい。同値は2020年からのコロナ禍での異常な緩和状態に伴い高水準となった後、急速な引き締め政策への転換に伴って徐々に切り下がり、現在は金融の正常化を反映するように落ち着いた水準になっているとも受け取れる。

しかし、コロナ禍における緩和政策は過去に例を見ないほどの緊急かつ異例の措置であり、企業業績が急速に悪化する中での過剰な流動性の供給によって作為的にもたらされた、いわば「高PER状態」である。コロナ禍が落ち着いて平常時に回帰しつつある今、注目すべきはコロナ禍前の水準だ。

ITバブルとその崩壊を経て落ち着きを見せ始めた03年から20年のコロナ禍入り前までの予想PERの推移を見ると、04年時や17年時では、見事に「18.5倍」近辺が天井となって跳ね返され、その後は縮小へ向かっていることが分かる。過去の2度の到達時では、米国株市場の予想EPS(一株当たり利益)は右肩上がりの成長期待が継続しており、好況下でPERの水準が切り上がっていたといえる。

それに対して、現在は先進国を中心に世界的な景気後退が顕在化し始めた時期にあり、それが企業の予想利益にも反映されている状況だ。その中で株価だけが高止まりしており、業績予想との乖離が拡大している状態は、とても健全とは思えない。遅かれ早かれ、修正が入る可能性が高いとみるべきだ。

仮に今後の予想EPSが現在の水準を維持するという楽観的な前提を置いたとしても、コロナ禍前の予想PERの平均値である15倍との乖離幅は23%となる。これに沿って指数を引き直すと、S&P500指数は3,180ポイントに、日経平均株価は2万3,000円を割り込む水準になる。

今後、利益予想がさらに切り下がれば、それだけ下値余地が深掘りされていく可能性もある。景気後退が深刻化する23年後半のどこかのタイミングで、この利益予想と株価の矛盾が是正される可能性に備えておいた方が良さそうだ。

景気後退期に逆行高、年後半には「質の悪い割高」状態是正も
(画像=きんざいOnline)

智剣・Oskarグループ CEO 兼 主席ストラテジスト/大川 智宏
週刊金融財政事情 2023年5月23日号