特集『Hidden unicorn企業 ~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。

今回は、建設業界に特化しDX支援を行うBRANU株式会社の名富社長にお話を伺った。

(取材・執筆・構成=井澤梓)

BRANU株式会社
名富 達哉
BRANU株式会社 代表取締役

1981年東京都生まれ。2003年に大学を卒業後、株式会社テレウェイヴに入社。産業別へのICTソリューションを行う中で、建設業界の市場規模や産業構造の変革による社会貢献性など世の中への大きなインパクトを感じ、2009年にBRANU株式会社を創業以来、一貫して「建設DX」という軸で事業を展開。
BRANU株式会社
「テクノロジーで建設業をアップデートする。」をビジョンとして掲げ、建設DXプラットフォーム事業を展開。マッチングメディアCAREECONの運営と建設業向けのインダストリーSaaSを提供。

目次

  1. 業界課題を一気通貫で解決するプラットフォーム
  2. ツールの定着を丁寧なサポートで促進
  3. CAREECON Platformの導入で下請けから脱却
  4. AIを活用し、ブルーカラーの地位向上を目指す
  5. 建設業界になくてはならない存在へ

業界課題を一気通貫で解決するプラットフォーム

ーー御社の事業内容を教えてください。

BRANU株式会社代表取締役社長・名富 達哉氏(以下、社名・氏名略)「建設業界をアップデートする。」というビジョンのもと、建設業を営む中小企業に向けたDX支援を行っています。具体的には、“CAREECON Platform”というプラットフォームを提供しています。建設業者が抱えている問題は「集客」「採用」「生産性の向上」の3つに集約されます。それらに対してデジタルマーケティングや建設業特有のプロジェクト管理などのソリューションを提供しています。

建設業界の現場の多くは、未だに紙を始めとしたアナログに頼っています。しかし、スマートデバイスの普及によって少しずつ状況が変わり始めました。建設業界は常に人手不足なので、デジタルによる効率化をサポートし、現場の課題を少しでも改善できたらと考えています。

ーー御社の強みは何でしょうか。

最大の強みは、プラットフォームを持っていることです。3つの課題に対応するソリューションを個別提供する企業は存在しますが、プラットフォームとして横断的に提供しているのは当社だけです。1つのアカウントですべてを一元管理できるわけですから、利用者にとっては非常に利便性が高いのです。また、導入企業同士のマッチング機能により、導入企業が増えるほど新しいつながりを生み出すきっかけを増やすことができました。よりプラットフォームとしての価値が高まっていく仕組みを作れ、累計導入社数は1万社を超えています。

13年間で培った、建設業界における幅広いつながりも強みだと思っています。建設業界の市場規模は約67兆円と非常に大きく、建設業者は全国に約47万社もあります。その大半は上場していない中小企業で、Webサイトすらない会社も少なくありません。長年、そういった中小企業のDXを並走してサポートしてきた結果、お客様から紹介で新しい仕事をいただくことも少なくありません。また、エンドユーザーとなる企業だけでなく、複数の大手建材メーカー・商社や建設業組合と協業関係を結ぶなど、一朝一夕には構築できないネットワークが、当社ならではの特徴です。

ツールの定着を丁寧なサポートで促進

ーー導入企業の特徴と、サービスを拡大していった方法について教えてください。

従業員数20〜30人、売上10億円程度の中小規模の企業様がほとんどです。「大手に比べてヒト・モノ・カネといった経営リソースが不足している企業の力になりたい」と考えてターゲットを絞った結果、CAREECON Platformの利用者は大きく増えました。

どんなツールにもいえますが、最大の壁は定着です。ただツールを作っても導入されなければ意味がなく、導入されても継続的に活用されなければ価値がありません。そのため、ハンズオン型のコンサルティングに力を入れており、そのおかげで継続率は95%を超えています。

最初の接点では非効率でもリアルに伺い、お互いに信頼が得られた後はオンラインでのやり取りに移行しています。DXを進めているとはいえ、建設業界は人と人との繋がりを大切にする業界です。まずは対面で膝と膝を突き合わせて、信頼を得ることが導入の第一歩だと考えています。

もちろん、デジタル化に抵抗を感じる人もいます。ですが、一度自分たちの課題を解決できることがわかると、そこからは非常にスムーズです。新しいことって、面倒じゃないですか。導入初期は、どうしても手間が増えますし。なので、最初が肝心です。

事業をスタートした頃は、スマートデバイスも現在のように普及していませんでしたし、サービスのメリットをご理解いただくことにも苦労しました。しかし、社会全体でデジタル化が進むにつれ、当社を支持してくださる企業も増えてきました。さらに、新型コロナウイルス感染拡大によってオンラインツールの利用が一気に進んだことも追い風となり、CAREECON Platformの普及がぐっと進みました。

CAREECON Platformの導入で下請けから脱却

ーー印象的なお客様の喜びの声を教えてください。

「いろんな職人を採用できた」「売上が3倍に伸びた」「クラウドで管理することによって現場と事務所の行き来がなくなって残業が減った」といった声をいただいています。中には「もともと大手ハウスメーカーの下請けだったが、元請けの比率が90%以上になった」という声もありました。単なる利便性の向上ではなく、ビジネスの変革を起こせたことをとても嬉しく思っています。

ーー今後の課題は何でしょうか。

建設業界の労働者人口は60歳以上が約25%を占めており、今後10年間でこの層の大量離職が予想されます。一方、次世代を担う30歳以下は約11%と年々減少しているため、今後人手不足に陥ることは確実です。

さらに、インボイス制度や時間外労働の上限規制などの法改正も控えており、建設業界の中小企業の多くは利益の確保が今まで以上に難しくなるでしょう。その対策として、デジタルを用いた生産性の向上は急務です。テクノロジーを通じて、この課題に立ち向かっていきたいと考えています。

AIを活用し、ブルーカラーの地位向上を目指す

ーー現在興味、関心を持っていることはありますか。

AIの進化ですね。数年前からAIによる自動化には関心を寄せていましたが、ここ最近の技術の進化には目を見張るものがあります。当社でも社内業務32%削減を目指し、米OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Bard」をはじめとしたジェネレーティブAIによる業務改善に取り組んでおり、成果が出始めています。この取り組みで得られた知見を活かし、顧客に対してAI活用による業務改革を目的としたDXコンサルティングサービスも開始しました。また、プロダクトへのジェネレーティブAIの実装を進めており、定常作業を自動化してより創造的な仕事に取り組める時間を提供していきます。

私たちのターゲットである現場のブルーワーカーたちは、基本的にデジタル上で何かを操作する時間がありません。ですから、操作性の次はAIによる自動化を突き詰めることが、これまで以上に生産性を上げるためのカギといえます。ここをプロダクトとハンズオン型のコンサルティングで並走しながらサポートしていく、これがDXへの一番の近道だと考えています。

ブルーカラーの職種より、ホワイトカラーの職種の方が地位が高いかのようなイメージがありますが、どちらの仕事がAIに代替されにくいかを考えると、今後はブルーカラーの職種の価値が大きく上がるのではないかと思います。

実際、建設業界ではニーズに比例して給与水準が上がっています。この事業を始めた理由は、ブルーカラーの方々が“現場”という本業に集中できる環境を作りたかったからです。

建設業界になくてはならない存在へ

ーー今後の目標を教えてください。

ビジネスの根幹であるヒト・モノ・カネの領域もサポートできるよう、サービスを拡充させていきたいです。単なるSaaSで終わることなく、マーケットプレイスを展開したり、採用のマッチングまで行ったりするなど、付加価値を付けていきたいですね。
将来的に、建設業界にとってなくてはならない唯一無二のプラットフォームになるビジョンを描いています。

井澤梓
立命館大学卒業後、金融機関を経て、2010年ビズリーチの新規事業立ち上げに参画。法人営業や人材エージェントの新規開拓営業に携わる。その後ライターとして独立し、経営者などのインタビューを数多く手掛けている。2020年にカタル(https://cataru.co.jp/)を設立し、代表取締役に就任。