日銀総裁はどのように決まるの?誕生する過程や任期・役割なども解説
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「植田日銀」が始動した。2023年3月10日の国会参議院本会議で日銀総裁の人事案が可決され、同年4月から日銀で初となる学者出身の植田和男氏が新総裁に就任した。日銀総裁は、その手綱さばきが日本の物価の安定や金利政策、米ドル対円相場に大きな影響を与える非常に重要な職務である。そのため今回の新総裁の選出については、大きな関心が集まった。

本コラムでは、そんな日銀総裁の選出方法や任期、役割などについて説明しながら歴代の日銀総裁についても紹介していく。

日銀総裁は誰がどう決めているのか?

そもそも日銀総裁は、どのような過程で誰が決めていくのだろうか。その起点は「日本政府」が人事案を考え、最終的に政府内で決まった人事案を国会に提示すること。つまり日銀総裁の人事を決めるのは、日本政府ということになる。ここでいう日本政府とは「与党」のことだ。2023年時点の与党は「自民党」と「公明党」のため、この両党が日銀総裁の候補者を選出するということになる。

日本政府の役割は、これまでの金融政策の流れや世界の経済情勢などを加味し最適だと思われる人物を候補者に据えることだ。歴代総裁の人事を振り返ると、基本的には日銀出身者か財務省(旧大蔵省)出身者が選ばれるのが多い傾向で、今回植田氏にバトンを引き継いだ黒田東彦氏は財務省出身だ。しかし新総裁の植田氏は、学者出身であり異例のこととして大きな注目を集めた。

日銀総裁はどのような過程で選出される?

人事案が国会に提示されたあと、衆議院と参議院の議院運営委員会では「所信聴取」が行われ、その場で次期総裁の候補となった人物が所信を表明する。具体的には「どういう考えで日銀総裁の職務を全うするつもりなのか」などについて話す。所信表明後は、委員(国会議員)から質疑を受け、その後、衆議院と参議院の両院での本会議の採決に移る。

ちなみに日銀の総裁人事に関しては、衆議院と参議院の両方で可決されることが必要だ。法律や予算などは「衆議院の優越」が認められているが、日銀総裁の決定に関しては両院での合意が不可欠となっている。両院の本会議で合意が行われてはじめて、その候補となった人物が次期総裁となることが決定するのだ。今回の植田氏の選出でも同じ経緯をたどった。

また参考までに書いておくと、日本政府が新総裁の人事案を決める最初の段階の前に、メディアから予測記事や観測記事が報じられるのが恒例となっている。今回もさまざまな記事が飛び交ったが、植田氏を予想する記事はほぼゼロに等しく、日本政府の人事案発表は大きなサプライズとなった。

日銀総裁の任期は5年、黒田氏は2期10年務める

続いて日銀総裁の任期について説明する。日銀の総裁(1名)と副総裁(2名)、そして審議委員(6名)の任期は、5年である。黒田氏の場合は、2期続けて総裁を務めたため、「黒田日銀」は10年続いた。

日銀総裁の役割は?マーケットとの対話も

日銀では1年間に8回、「金融政策決定会合」が開催される。この会合では、金融市場調節方針や預金準備率、金融政策手段、経済・金融情勢に関する基本的見解の決定・変更などが議論され、日銀総裁はこの会合において議論をリードする役割を果たす。日銀総裁が金融政策決定会合で提示した議案が過去に否決された例はない。そのため、日銀総裁の意向が結果として日本の金融政策に大きな影響を与えることがよく分かる。

日銀総裁として「先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)」や経済・金融問題などについて議論する「20カ国・地域首脳会合(G20)」などに出席することも大切な役割だ。

また、職務として公式に規定されているわけではないが、一般的には「マーケットとの対話」も日銀総裁の役目とされる。金融政策決定会合のあと、記者会見などで今後の金融政策の方向性などを示唆しながら、将来的な方針の変更などによってマーケットに動揺が広がることをあらかじめ防ぐよう努めるケースが多い。

歴代の日銀総裁は?植田氏は32代目総裁に

初代日銀総裁は吉原重俊氏で、黒田東彦氏は日銀総裁としては31代目、そして植田氏は32代目である。ちなみに、黒田氏の就任期間は歴代総裁のなかで最長であり、それまでは戦後まもなく就任した18代目の一萬田尚登氏の8年余りが最長だった。

<日本銀行歴代総裁一覧>

1代 吉原重俊(よしはら しげとし)
明治15年10月6日〜明治20年12月19日
2代 富田鐵之助(とみた てつのすけ)
明治21年2月21日〜明治22年9月3日
3代 川田小一郎(かわだ こいちろう)
明治22年9月3日〜明治29年11月7日
4代 岩崎彌之助(いわさき やのすけ)
明治29年11月11日〜明治31年10月20日
5代 山本達雄(やまもと たつお)
明治31年10月20日〜明治36年10月19日
6代 松尾臣善(まつお しげよし)
明治36年10月20日〜明治44年6月1日
7代 高橋是清(たかはし これきよ)
明治44年6月1日〜大正2年2月20日
8代 三島彌太郎(みしま やたろう)
大正2年2月28日〜大正8年3月7日
9代 井上準之助(いのうえ じゅんのすけ)
大正8年3月13日〜大正12年9月2日
10代 市来乙彦(いちき おとひこ)
大正12年9月5日〜昭和2年5月10日
11代 井上準之助(いのうえ じゅんのすけ)
昭和2年5月10日〜昭和3年6月12日
12代 土方久徴(ひじかた ひさあきら)
昭和3年6月12日〜昭和10年6月4日
13代 深井英五(ふかい えいご)
昭和10年6月4日〜昭和12年2月9日
14代 池田成彬(いけだ せいひん)
昭和12年2月9日〜昭和12年7月27日
15代 結城豊太郎(ゆうき とよたろう)
昭和12年7月27日〜昭和19年3月18日
16代 渋澤敬三(しぶさわ けいぞう)
昭和19年3月18日〜昭和20年10月9日
17代 新木栄吉(あらき えいきち)
昭和20年10月9日〜昭和21年6月1日
18代 一萬田尚登(いちまだ ひさと)
昭和21年6月1日〜昭和29年12月10日
19代 新木栄吉(あらき えいきち)
昭和29年12月11日〜昭和31年11月30日
20代 山際正道(やまぎわ まさみち)
昭和31年11月30日〜昭和39年12月17日
21代 宇佐美洵(うさみ まこと)
昭和39年12月17日〜昭和44年12月16日
22代 佐々木直(ささき ただし)
昭和44年12月17日〜昭和49年12月16日
23代 森永貞一郎(もりなが ていいちろう)
昭和49年12月17日〜昭和54年12月16日
24代 前川春雄(まえかわ はるお)
昭和54年12月17日〜昭和59年12月16日
25代 澄田智(すみた さとし)
昭和59年12月17日〜平成1年12月16日
26代 三重野康(みえの やすし)
平成1年12月17日〜平成6年12月16日
27代 松下康雄(まつした やすお)
平成6年12月17日〜平成10年3月20日
28代 速水優(はやみ まさる)
平成10年3月20日〜平成15年3月19日
29代 福井俊彦(ふくい としひこ)
平成15年3月20日〜平成20年3月19日
30代 白川方明(しらかわ まさあき)
平成20年4月9日〜平成25年3月19日
31代 黒田東彦(くろだ はるひこ)
平成25年3月20日〜令和5年4月8日
32代 植田和男(うえだ かずお)
令和5年4月9日〜

出典:日本銀行ホームページ「日本銀行について 歴代総裁」※この先は外部サイトに遷移します。より株式会社ZUU作成

日銀総裁の動向を把握する重要性

本コラムでは、日銀総裁についての基礎的なことを説明した。金融政策や金利政策は、日本の今後の経済情勢を予測するうえで非常に重要である。また、不動産投資においても、経済情勢を把握しておくことが重要なのは言うまでもない。日銀総裁の意向が結果として日本の金融政策や金利政策に大きな影響を与え、不動産の価格が変動することもある。そのため日銀総裁の動向を把握しておくことは、ビジネスパーソンや投資家にとっても非常に大切なことだ。 金融政策と不動産価格の関係については以下の記事でも取り上げているので参考にしてほしい。

【関連コラム】不動産投資を行う上で知っておきたい金融緩和政策と不動産価格の関係

特に黒田氏から植田氏への日銀総裁バトンタッチにより、日本が長く続けてきた金融緩和政策を継続するのかが国内外で大きな注目点となっている。今後、新日銀総裁・植田氏の発言がどのようなことを示唆しているのか、メディアでも重ねて報じられるだろう。金融政策決定会合の記者会見はテレビやインターネットで閲覧できるため、確認するといいだろう。

(提供:manabu不動産投資

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