この記事は2023年6月16日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「エルニーニョ現象が新興国に甚大な被害を及ぼす可能性」を一部編集し、転載したものです。


エルニーニョ現象が新興国に甚大な被害を及ぼす可能性
(画像=missisya/stock.adobe.com)

気象庁は6月9日、世界的に「エルニーニョ現象」が発生しているとみられ、秋にかけて約90%の確率でこの現象が続くと発表した。エルニーニョ現象とは、南米ペルー沖のエルニーニョ監視海域の平均海面水温が平年を上回る現象だ。一般に、基準値との差が1.5℃上回る場合を「強いエルニーニョ現象」、2℃上回る場合を「スーパーエルニーニョ現象」と呼ぶ。米海洋大気局(NOAA)は、今回が強いエルニーニョ現象となる確率を56%と予想している。

ここで、エルニーニョ現象が過去、新興国に及ぼした影響について振り返りたい。具体的には、エルニーニョ現象が引き起こす天候不順により、農産物の生産減少や資源価格変動などの影響が見られている。天候不順のパターンは時期によって異なるが、アジアからオセアニア、南米北部は少雨となり、南米南部やメキシコ湾岸から北米西岸にかけては多雨となるなどの傾向がある。

まず、農産物については、コメ、小麦、トウモロコシ、大豆などの生産が減少し、価格上昇が見られた。例えば、2015~16年のスーパーエルニーニョ現象が発生した時には、タイやインドネシアでは、少雨だったことが響き15年のコメ生産が大打撃を受けた。南アフリカでは、干ばつの影響で16年のトウモロコシの生産量が約500万トンと前年比で半減した。一方、世界でも有数の大豆生産国アルゼンチンでは16年ごろ、豪雨の影響で生産量が大幅に落ち込んだ。

また、過去2回のスーパーエルニーニョ現象の発生時期(1997~98年と2015~16年)は、前者がアジア通貨危機、後者はフラジャイル5(経常収支等が悪化した国の総称)と、偶然にも新興国の受難と時期が重なった。その結果、これらの時期には、農産物価格は一部で下落した。これは、世界的に景気が悪化したことに加えて、農産物がドル建て取引であったことも響いたと思われる。

次に資源やエネルギーへの影響を見てみると、15~16年には、中南米で水不足により水力発電の発電量が低下し、コスタリカなどで大規模な停電が発生した。アジアも水力発電に依存する国が多いが、水力発電への依存度合いが3割程度と高いベトナムでは、今年5月から干ばつの影響で電力供給の対応に追われており、影響は深刻化するかもしれない。

米国同様、新興国もインフレは懸案だが、積極的な利上げで落ち着きつつある。しかし、エルニーニョ現象の被害が深刻となった場合、新たなインフレを招く可能性もある。エルニーニョ現象は天候問題であるため展開は予測しづらいが、警戒は怠らないようにしたい。

エルニーニョ現象が新興国に甚大な被害を及ぼす可能性
(画像=きんざいOnline)

ピクテ・ジャパン ストラテジスト/梅澤 利文
週刊金融財政事情 2023年6月20日号