アテンションエコノミーによる注意点

人々の関心を貴重な経済資源としてマーケティングなどに活用することは、ビジネスで日常的に行われていることだ。企業にとって必要不可欠な事業活動であり、アテンションエコノミーそのものが悪い意味を持っているわけではない。しかしアテンションエコノミーが広がるに従って、エコーチェンバーやフィルターバブルという現象を引き起こしやすくなる。

実際、度を超した使い方がされるようになることもあり、社会・経済面でさまざまな問題が取り上げられている。いくつか注意すべき事例を紹介しよう。

自己決断力の低下(依存症)

アルゴリズムが「知りたい・見たい」情報を選んで提示してくれるため、情報摂取に関して自己決定をする必要がない。特にSNSでは、届く情報がほぼリアルタイムであるうえ、終わりなく更新される。自動で再生される動画などもあり、ユーザーにとっては「いつも見ていたい」気持ちにさせられるというわけだ。

情報を選んだり、見るのを止めたりするといった自己決断力が低下し、依存症に発展しやすい。実際、元グーグルのデザイン倫理担当者だったトリスタン・ハリス氏は、「SNSの背後にはユーザーの関心を引き続けるためのスロットマシンのような中毒性を持たせるような設計がされている」と述べている。

フェイクニュース(偽情報)

アテンションエコノミーの広がりとともにフェイクニュース(偽情報)も多発するようになった。偽情報の目的には政治的理由による場合もあるが、広告収入目当てのものも多い。例えば、2016年の米国大統領選挙の際にマケドニア共和国の学生が大量の偽・誤情報を作成、発信。1日あたり2,000米ドル以上を稼いでいた事例もある。

ビジネスにおけるアテンションエコノミーの注意点

コスト面や顧客獲得面でメリットが多いこともあり、SNSやネット広告を活用している中小企業や個人事業主もいるだろう。アテンションエコノミーがビジネスの弊害とならないよう、以下の点に注意しておこう。

ブランド毀損リスク

広告主は「ブランド毀損リスク」を負うということを心得ておこう。アテンションエコノミーの世界では、ユーザーの「クリック」が重視される。ユーザーのクリック数が増えるほどプラットフォーマーの収入につながることは前述した通りである。仮にユーザーの関心に沿った広告ではあっても、必ずしもユーザーのニーズに合致しているとは限らない。

ユーザーが実際に利用した結果、不満足であったり、不快感を覚えたりすると、ブランドイメージにキズがついてしまう。

消費者離れ

ブランドイメージにキズがつくだけでなく、結果的に消費者が離れてしまうリスクにも注意したい。悪い情報は、SNSで瞬時に拡散される傾向があることを忘れずに、潜在顧客まで離さないような心がけが必要だ。

政府による広告規制の可能性

デジタル市場およびアテンションエコノミーの問題が拡大していくなかで、政府はデジタル広告市場における公正で透明なルールを整備することの重要性を示している。ビジネスのDX化が求められているなか、政府の動向もチェックしつつ消費者に対して公正な情報提供、広告表示の意識をさらに高める必要があろう。