先週のドル・円相場は、パウエルFRB.議長が行った議会証言での発言が年内にあと2回の利上げを行う可能性が高いタカ派的(利上げに積極的)なものと取られてドルが買われて、大きなレジスタンス(上値抵抗線)と見られていた142.50をあっさりと超えて高値143.87まで上伸した。
FRB.のタカ派的なスタンスに対して日銀は頑なに緩和政策からの脱却を拒み、更なる金利差拡大の思惑がドル高&円安の進行を助長している。
先週の143円台後半への急伸の理由としては、142.50のレジスタンスを背景にドルの売り持ちを増やした市場参加者がいとも簡単に其処を上切ったので、慌てて損切りのドル買いを行ったであろうことも考えられる。
例えば142.30辺りでドルの売り持ちを作り、同時に142.70辺りでの損切りのドルの買いオーダーを出す取引はFX.取引に於いては極めて一般的である。
我が国の直近の個人投資家の残高を見てみると、
(単位は億ドル。)
となっており、これを分析すると5月16日まではドルの買い持ち(+1)を維持していたが、翌週138円を超えると一気にドルの売り持ち(-3)に転じ、翌週140円を超えると更に売り持ち(-7)を増やした。
6月6日にはドルが下げ渋ると見てドルの売り持ち(-2)を減らし、翌週にはこれ以上下がらないと見て今度は逆に買い持ち(+3)に転じた後、先週は142円に近付いた時点で再びドルの売り持ち(-6)にポジションを戻している。
要するに先週の142円台は当面のドルの天井と見た投資家が多かったとも言える。
そこで一旦ドルの売り持ちを増やしたものの、142.50を上切ったので損切りのドル買いに動いたのである。
これらの金額そのものは東京外国為替市場の出来高から見て極めて小さいものであるが、その行動は投資家のマインド(あるレベルではドルの売り持ちに転じ、あるレベルでは逆に買い持ちに転じる。)をよく反映しているものと見て差し支えあるまい。
(黒い線がドル・円相場、赤い線が個人投資家のネットのドルのポジションを表す。)
米国は一旦利上げを休止したが、カナダ、オーストラリア、スイス、ノルウェイ、イギリスそして欧州の中央銀行は利上げを継続しており、円の独歩安の展開が続く。
この動きに対して鈴木財務相は先週、
“為替、安定的に推移することが望ましい。”
“日々、為替の動向について注視している。”
“為替の水準は市場において決定される。”
“為替の水準にはコメントしない。”
“為替政策、必要であれば適切に対応する。”
と、毒にも薬にもならない様な発言をしたが、今朝神田財務官がもっと踏み込んだ、
“為替、行き過ぎた動きには適切に対処したい。”
“為替、足もとは急速で一方的。”
“為替はファンダメンタルズを反映すべき。”
“どんな場合でもあらゆるオプションが可能。”
と言う発言をした。
矢張り昨年ドル売り&円買い介入を行った145円台を意識しての発言と思われる。
只市場の反応は鈍くて、発言後には143.23迄下押しする局面も見られたが、その後はお昼過ぎには143.40~143.50のレンジ内で小動きとなっている。
彼我(他の中央銀行と日銀)の金融政策の決定的な違いによって円売りが台頭している現状では、介入でトレンドを変えることは出来ないが、少なくとも時間稼ぎは出来る。
言い換えれば、現在物価を重視して利上げを続ける他の中央銀行(彼)は、何れ必ず利上げ休止、そして利下げに踏み切らざるを得ない。
そして日銀(我)は、何れ必ず緩和政策の脱却、そして利上げに踏み切らざるを得ない。
そうなれば自然に円安は止まり、円高にトレンドが変わる事は必定であろう。
(問題はそれが何時かが分からない。)
それまで口先、或いは実弾介入を行って円安進行のスピード(速さ)を遅らせ、マグニチュード(規模、何処まで行くか?)を抑える時間稼ぎとなれば良しと言えるのではなかろうか?
海外からは神田発言を受けて、“すわ介入か?”と色めき立つ向きも有るが、そこまでの緊迫感が有るとも感じられない。
相変わらずドルを売る好機を待ちたい。
今週のテクニカル分析の見立ては先週までのレジスタンス(上値抵抗線)であった142.50が逆にサポート(下値支持線)となった。
142.50~144.50のレンジを意識しながら、両サイドともにブレークしたら更なる動き(140.00、或いは145.50)に注意。