カバンを盗まれたり、財布を紛失したりして帰宅する交通費がなくて困ったとき、警察署や交番などでお金が借りられることをご存じでしょうか。
東京都を管轄する警視庁および一部の都道府県では、「公衆接遇弁償費(こうしゅうせつぐうべんしょうひ)」という制度のもと、やむにやまれぬ事情を抱えた一般市民に対して、少額の貸付を行ってくれることがあります。
そこで今回は、公衆接遇弁償費の概要や利用条件、借りられる金額、借入の手順、返済方法について解説します。
※この記事は昭和43年に東京警視庁が公表した「公衆接遇弁償費事務取扱要綱の制定について」を参照しています。
実際に警察署や交番でお金を借りる方は月に何人くらいいるのでしょうか?
2009年に警視庁が公表したデータによれば、東京都では公衆接遇弁償費のもとで、年間1万6,372件、金額にして752万682円の貸出がありました。
月に1,350人強が警察署や交番などでお金を借りていることになります。
警察署や交番でお金を借りることはできますか?
原則として、警察署や交番では1人あたり1,000円を上限として、お金を借りることができます。この少額の貸付を公衆接遇弁償費(こうしゅうせつぐうべんしょうひ)と言います。
警察署や交番のほかに、駐在所や運転免許試験場、鉄道警察隊分駐所および連絡所、地域安全センター、警ら用無線自動車(パトカーや白バイ)でもお金の借入が可能です。
なお、公衆接遇弁償費は警視庁での呼称になり、都道府県により呼び方が異なります。都道府県によっては該当となる制度が制定されていない場合もあります。
そのため、必ずしも全国の都道府県の警察や交番などで、お金が借りられるわけではないことに注意してください。
公衆接遇弁償費とはどのような費用か
公衆接遇弁償費は、警察署や交番などに「公衆に対する利便供与又は応急的な措置に要する経費」として交付されているお金です。
ただし、公衆接遇弁償費は、お金を盗まれたり失くしたりと、やむにやまれない事情を抱えた一般市民に対して、警察官が個人の所持金を貸し出し、返済されなかった場合にその負担を補償する目的で制定されたものです。
当初から、一般市民に対してお金を貸付けることを目的としていません。
消費者金融や銀行のように貸すことを前提にしたお金ではなく、あくまでも緊急時の応急的な措置を行うための費用であることを覚えておきましょう。
審査は厳しい?公衆接遇弁償費の利用条件
公衆接遇弁償費は、やむにやまれない事情がある場合を利用条件としています。例えば、「財布を紛失した」「所持金を盗まれた」「病人やケガ人の救護のため」のような場合です。
そのため、公衆接遇弁償費は消費者金融のカードローンなどのような審査は行われません。
警視庁の公衆接遇弁償費事務取扱要綱では、弁償費支出の範囲を次のとおりと定めています。
- 外出先で所持金を盗まれたり失ったりした人に対する交通費
- 行方不明者の保護にあたって応急措置に必要な経費
- 病人保護や交通事故の負傷者救護にあたって応急措置に必要な経費
- その他公衆接遇の適正を期するために必要な経費
「行方不明者の保護にあたって応急措置に必要な経費」とは、最寄りの警察署などに行方不明者を連れていくための費用や、行方不明者の家族に連絡するための費用などを意味します。
また、「その他公衆接遇の適正を期するために必要な経費」は、ほかの3つの用途以外にも緊急性が高いと警察官が必要だと判断した費用です。
上記に当てはまる場合は、公衆接遇弁償費を借りられる可能性があります。最寄りの警察署や交番などに相談しましょう。
いくら借りられる?
「公衆接遇弁償費事務取扱要綱の制定について」を参照すると1,000円以内であれば、問題なく借りることができるようです。
しかし、1,000円を超える場合は手続きが複雑になることがわかります。
「1人に対する貸出額1,000円を超える場合は、事務担当者(不在の場合は補助者、夜間等で補助者が不在の場合は本署当番責任者(島部にあつては宿直責任者)又は当直責任者)に報告してその承認を受けること
引用:警視庁|公衆接遇弁償費事務取扱要綱の制定について
全国どこでも借りられる?
警視庁をはじめ、公衆接遇弁償費に対応している都道府県警察で借りることはできます。全国47都道府県で対応しているわけではありません。
公衆接遇弁償費の取り扱いがあると公表しているのは、次のとおりです。
- 東京都
- 大阪府
- 京都府
- 岩手県
- 群馬県
- 山梨県
- 石川県
- 茨城県
- 山口県
- 熊本県
- 鹿児島県
上記の都道府県の県警察では、公衆接遇弁償費に関する文書を公開しています。
ただし、トラブルにより帰宅費用に困った場合、警察署や交番、鉄道警察隊分駐所および連絡所などに相談すれば、対応してもらえる可能性もあります。
未成年でも借りられる?
親の同意があれば、未成年でも交番や駐在所で公衆接遇弁償費を借りることができます。
公衆接遇弁償費の利用には、年齢制限はありません。しかし、民法第五条が定めるところにより、未成年者は親の同意なくしてお金を借りられません。したがって、未成年者が公衆接遇弁償費を申請する場合は、必ず親に連絡がされます。
- 第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
22 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
33 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
引用:民法|e-Govポータル
即日で借りられる?
交通費などすぐに必要なお金であれば、即日借りることができます。
公衆接遇弁償費は、緊急性があり正当な理由がある場合に支給される制度です。したがって、例えば財布を紛失して帰宅できない場合やほかに頼る人がいないというようなやむを得ない場合は、すぐにお金を借りられるでしょう。
公衆接遇弁償費は交番か警察署でないと利用できない?
公衆接遇弁償費は警察署や交番以外に、駐在所や運転免許試験場、鉄道警察隊分駐所および連絡所、地域安全センター、警ら用無線自動車(パトカーや白バイ)でも利用できます。近くにある行政機関に行きましょう。
24時間借りられる?
警察署や交番、鉄道警察隊分駐所および連絡所、警ら用無線自動車(パトカーや白バイ)なら、基本的には24時間公衆接遇弁償費を借りられます。
一方、運転免許試験場や地域安全センターは、日中のみの対応です。また、駐在所も原則として日中のみの対応で、一部の駐在所では休日を設けている場合もあります。
したがって、公衆接遇弁償費を借りる場合は、警察署や交番、鉄道警察隊分駐所および連絡所を利用するのが無難でしょう。
いつまで借りられる?利息はつかない?
公衆接遇弁償費に返済期限や利息の発生はありません。しかし、返済期限や利息の発生がなくても、お金の用意ができ次第、速やかに返済するようにしましょう。
公衆接遇弁償費には返済義務があります。返済の催促がないとはいえ、公衆接遇弁償費の返済を無視したり拒否をしたりした場合は、詐欺罪により逮捕される可能性もあります。
実際に、公衆接遇弁償費をだまし取った容疑で逮捕された例があります。
海外でお金借りられる?
公衆接遇弁償費は、海外では利用できません。公衆接遇弁償費は、警視庁および都道府県警察が、緊急性と正当な理由がある場合に一般市民に対して貸付を行う制度です。
海外に警視庁および都道府県警察の警察署や交番などはありません。海外では公衆接遇弁償費を利用してお金は借りられないと覚えておきましょう。
警察署や交番でお金を借りてから返すまでの手順
公衆接遇弁償費を警察署や交番などで借りる手順は次のとおりです。
- 借入理由を警察官に相談する
- 借受願書に必要事項を記入する
- 返済書と現金を受け取る
- お金を借りた警察署や交番などに出向いて現金で返済する
お金を返済するときは、お金を借りた警察や交番などへ出向いて現金で返済します。その際は、お金を借りたときに受け取った返済書を忘れないでください。
なお、遠方で公衆接遇弁償費制度を利用した場合は、最寄りの警察署や交番などで返済が可能です。
警察庁の公衆接遇弁償費事務取扱要綱では、返済方法について次のように記載されています。
(4) 支弁償費を支出した警察署や交番などに返済させることを原則とします。しかし、借受者の居住地が遠隔の場合などの場合は、利便性を考慮して、当庁管内の警察署や交番、警ら用無線自動車に返済させることが可能です。ただし、地域安全センターへの返済については、同所の開所時間等を知らせるなど、返済者の利便性に配慮すること。
引用:公衆接遇弁償費事務取扱要綱
借りたところに返済するのがベストですが、それができなければアクセスしやすい行政機関で返済しましょう。
借受願書に名前や住所を記入する
公衆接遇弁償費を借りる際には、借用書となる借受願書に必要事項を記入します。名前や住所、電話番号といった個人情報や、借入金額などを記入する必要があります。
借受願書に記入する内容を偽れば、詐欺罪に問われかねません。必ず正しい情報を書きましょう。
借受願書の必要事項は次のとおりです。行政機関によって、内容が異なる可能性があります。
- 名前
- 住所
- 生年月日
- 電話番号
- 職業
- 日付
- 借入理由
- 借入金額
- 押印または本人の指印
借受願書の記入が終われば、免許証などの身分証明書を提出します。財布を盗難または紛失していたり、手元に身分証明書がなかったりする場合は、身分証明書の提出が免除されることもあります。
お金を借りる
借受願書を記入した後、公衆接遇弁償費としてお金を借りられます。
お金を借りる際に、返済書も渡されます。返済書はお金を返済するときに必要となる書類ですので、返済時まで大切に保管しましょう。そして、返済時には返済書を持参しましょう。
警視庁の公衆接遇弁償費事務取扱要綱によれば、返済者が返済書を持参しなかった場合の対応について、次のように記載されています。
- 返済書に日付、住所、職業、電話番号、氏名、生年月日、年齢、借受金額を記入させ、速やかに貸出先の警察署や交番などに照会をかけた上で返済を受けること。
返済書を持参しない場合は、再び返済書を記入したり照会したりすることに時間を要するため、返済書はなくさないようにしましょう。
財布を落とした人は遺失届もあわせて提出する
財布を落としたときは、遺失届を提出しておきましょう。遺失届とは、落とし物や忘れ物が警察署などに届けられた場合に、遺失者に連絡できるようにするための届出です。
届出には、遺失したものの「落とした・忘れた日時」、「場所」、「遺失物の色や形などの情報」、「記名」、「個別番号」などを記載します。記名や個別番号とは、キャッシュカードの名前や口座番号といったものです。
財布がそのまま返ってくることもあるため、遺失届は忘れずに提出しておきましょう。
遺失届に似たものに盗難届があります。遺失届は本人の気づかないうちに本人の占有を離れたものに対するもので、盗難届は他人に奪われたものに対するものです。盗難届を出す際には、身分証明書と印鑑が必要となります。
指定口座への振り込みで返すことはできない
借りたお金は、基本的にお金を借りた警察署や交番などに出向いて現金で返済する必要があります。
振込による返済には対応していません。
お金を借りた警察署や交番が遠方にある場合は、最寄りの警察署や交番などでお金を返済できます。
旅行先などで遠方にいる場合は、事前に返済方法について確認しておくとよいでしょう。
警察署や交番でお金を借りるときの注意点
公衆接遇弁償費は、以下に当てはまる場合には借りられません。
- 正当な理由がない
- ほかの解決策がある
それぞれについて、解説します。
【事例】理由によっては借りられない
前述したように、「財布を紛失した」、「カバンをひったくられてお金がない」といった正当な理由がなければ、公衆接遇弁償費を借りることはできません。
お金に困っていても、「買い物をしすぎて交通費まで使い切った」という理由や「ギャンブルに使うためのお金がほしい」という理由、「駐車料金が高額になって手持ちのお金では精算できず出庫できない」という理由ではお金を借りられません。
また、頼れる親類や知人が近場にいないという場合に限られます。
あくまで、公衆接遇弁償費は、やむを得ない理由でお金が必要な場合の制度です。
【事例】ほかの解決策がある場合も借りられない
正当な理由があっても、ほかの解決策がある場合には公衆接遇弁償費を借りられません。
ほかの解決策がある場合とは、スマートフォンの決済機能などで交通費を支払える場合や、家族が迎えに来てくれる場合などです。
公衆接遇弁償費は、毎月の予算が限られています。公衆接遇弁償費制度の利用者が多ければ、公衆接遇弁償費として使えるお金が尽きてお金を貸し出せなくなります。
そのため、ほかの解決策がある場合には公衆接遇弁償費よりもそちらを優先するように求められるのです。
警察署や交番で借りたお金を返さなかったらどうなりますか?
借りたお金を返さない場合、詐欺罪として逮捕される可能性があります。借りたお金は、きちんと返済しましょう。
公衆接遇弁償費は返済期限や利息の発生、督促がないことから返済率の低さが問題になっています。お金を返さない人が増えれば、制度自体がなくなってしまいかねません。
自分がまたトラブルによってお金を借りなければならない状況に陥ったときのためにも、ほかの人が同様の状況になったときのためにも、借りたお金は必ず返済しましょう。
そして、可能な限り早く返済することをおすすめします。
実際にどんな人が警察署や交番でお金を借りていますか?
今までに警察署や交番などで公衆接遇弁償費を借りた人の事例を3つ紹介します。
事例1 電車代がなくなって帰れない
財布を紛失して電車代が払えず帰宅できないような場合は、警察署や交番などでお金を借りられます。
これは、「外出先で所持金を盗まれたり失ったりした人に対する交通費」として、公衆接遇弁償費の対象となります。
事例2 財布をすられてしまった
財布をすられてしまい帰宅するための交通費がない場合も、警察署や交番などでお金を借りられます。
これも、「外出先で所持金を盗まれたり失ったりした人に対する交通費」として公衆接遇弁償費の対象となります。
事例3 海外の田舎でお金がつきてしまった
海外で財布を紛失や盗難にあった場合は、地元の警察に相談することになります。日本の警察の出先機関はありませんので、公衆接遇弁償費は頼れません。
海外のような場所でのトラブルは、日本大使館や総領事館に相談すると良いでしょう。日本大使館や総領事館は、日本の出先機関として、緊急時の相談対応、情報提供、手続きサポートなどを行ってくれます。
海外へ行く際は、渡航先に日本大使館や総領事館があるかどうか、また連絡先などを控えておき、万が一に備えておくようにしましょう。
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