この記事は2023年6月30日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「足元の金価格は依然高水準、転換点は米利下げへの切り替え」を一部編集し、転載したものです。


足元の金価格は依然高水準、転換点は米利下げへの切り替え
(画像=Paradox/stock.adobe.com)

米国の利上げ継続と高水準の金価格が併存している。ニューヨーク金中心限月先物価格は、4月から5月にかけての1トロイオンス当たり2,050ドル近辺の高値からは調整したものの、現在も1,900ドル近辺の歴史的な高水準で推移している。

一般に、ドル建ての金価格に対して米国の利上げは抑制要因となり、利下げは支持要因になる。確かに、金を金利の付かない投資対象と位置付けた場合、金の相対的な優位性は利上げ時には低下し、利下げ時には向上すると考えられる。ただし、今回の米国の利上げ局面では、昨年11月初めまでは利上げに伴って金価格が下落したものの、それ以降は金価格が上昇へと転じている。

利上げ局面で金価格が上昇した理由として、投資家がインフレによる資産の実質価値の低下を避けるために、投資資金を株式などの金融資産から、インフレと価格が連動しやすい実物資産の金へと移行し、金価格を支えている可能性がある。ただし、今回のケースでは、11月初めまで利上げとともに上昇していた米国の長期金利が抑えられ始めたことが、より強く影響しているとみられる。経験的に、金価格との逆相関は、米国の政策(短期)金利よりも米国の長期金利の方が強い傾向がある。

インフレが落ち着かず利上げが長期化したことで、利上げの前半の時期に比べて米国の景況感が悪化し、長期金利が抑えられた。また、そうした景況感の悪化や長期金利の低下によって、ドルが対ユーロで弱含んだことも関係してこよう。つまり、インフレに対応した金融政策が米国の景況感に影響を及ぼし、それに伴った米国の長期金利とドルの動きが、現在の金価格動向にとって重要な要素となっている。

足元では、米国の景況感はやや改善しているが、今後の追加利上げ実施により景況感の改善が一巡した場合、米国の長期金利とドルには抑制効果が残ろう。金は引き続き高値で支えられるとみられる。

今後、金価格がさらに押し上げられて史上最高値(ニューヨーク金中心限月先物終値では1トロイオンス当たり2,069.40ドル)を更新する可能性があるとしたら、ウクライナ紛争や金融不安に対する市場の警戒で、金に対する安全資産需要が大きく強まるような事態が発生した場合だ。そうした事態が発生しなければ、金価格は現状の水準程度で支えられた後、景況感を変える米国の利下げ局面入りが、下落への転換点となりそうだ。

足元の金価格は依然高水準、転換点は米利下げへの切り替え
(画像=きんざいOnline)

野村証券 シニアエコノミスト/大越 龍文
週刊金融財政事情 2023年2023年7月4日号