半導体素材大手のJSR<4185>は26日、政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)による株式公開買い付け(TOB)が実施されると発表した。12月下旬に開始する見通しで、TOB価格は同日終値の3934円に10.57%のプレミアムを加えた1株当り4350円。買付総額約9000億円の大型買収になる。政府が事実上買収するJSRとは、どんな会社なのか?

「国策会社」として誕生

JSRの設立は1957年12月。政府が40%、民間企業が60%を出資して設立された日本合成ゴムが前身。「合成ゴム製造事業特別措置法」により設立された国策会社だった。1960年に四日市工場(三重県四日市市) で国産合成ゴムの原料となるブタジエンや、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)などの合成ゴムの生産を始めた。

1969年4月に「日本合成ゴム株式会社に関する臨時措置に関する法律を廃止する法律」が施行され、純民間会社となる。1970年10月には東証と大証の2部に、それぞれ上場した。

転機となったのは1979年4月のフォトレジストの発売。半導体製造で基板に回路を転写するフォトリソグラフィー工程で使用される素材だ。現在、JSRのフォトレジストは世界トップとなる28%のシェアを占める。1980年代に入ると、光通信インフラの光ファイバーコーティング材料や液晶ディスプレイ(LCD)材料など「電子立国・日本」を支える企業となった。


次世代半導体国産化を目指す政府と思惑が一致したTOB

1990年代にバブル経済が崩壊し、2010年代にかけて半導体やパソコン、薄型テレビ、携帯電話といったIT最終製品が次々と国際競争力を失う中、同社をはじめとする半導体素材・製造装置メーカーは成長を続け、グローバル市場での存在感は増している。

同社は2022年4月、2021年3月期に114億円の営業赤字を計上した祖業のエラストマー事業をENEOS<5020>に事業譲渡し、事業の「選択と集中」を図った。しかし、このところの半導体市況の急激な悪化で、主力製品のレジストが失速。海外企業による買収懸念が高まったことから、JSR側が政府にTOBによる買収を持ちかけたという。

一方、岸田首相は次世代半導体の国産化を経済政策の柱の一つとして打ち出している。その基幹要素であり、高い国際競争力を持つ半導体素材技術の海外流失リスクを懸念した政府が、JSRのTOBを決断したと見られる。かくして「国策会社」として誕生したJSRが、再び「国策会社」に戻ることになった。

文:M&A Online