この記事は2023年7月7日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「将棋・最年少名人記録更新時に見る景気局面」を一部編集し、転載したものです。


将棋・最年少名人記録更新時に見る景気局面
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

(内閣府「景気動向指数・景気基準日付」)

将棋の名人戦七番勝負・第81期第5局が5月31日~6月1日に行われた。挑戦者の藤井聡太六冠が渡辺明名人を破り、4勝1敗でタイトルを獲得し七冠となった。七冠は1996年に当時25歳4カ月で達成した羽生善治九段に続く2人目で、20歳10カ月での達成は、最年少記録更新と話題になった(注)。現在の将棋界には八つのタイトルがあり、残るタイトルを永瀬拓矢王座が持つ。今後、藤井七冠が史上初の八冠制覇を成し遂げられるかどうかに注目が集まる。

藤井七冠はプロデビューからさまざまな記録をつくり、その都度大きな話題を提供してきた。プロデビューは2016年12月24日の第30期竜王戦6組ランキング戦で、加藤一二三九段との対局だった。それまで最年少棋士記録を保持していた加藤九段に14歳5カ月で勝った藤井七冠は、公式戦勝利の史上最年少記録を更新した。当時の景気は拡張局面だった。

藤井七冠はプロデビューから連勝を続け、17年6月26日に、神谷広志八段が1987年に記録した28連勝を抜き、29連勝で歴代最多連勝記録を更新。神谷八段の新記録更新時と藤井七冠の新記録更新時はどちらも景気拡張局面だった。

藤井七冠は2020年7月16日に渡辺明前棋聖を3勝1敗で破り、17歳11カ月とタイトル獲得最年少記録を更新した。その後、タイトルを防衛しつつ、新たに王位、叡王、竜王、王将、棋王、名人のタイトルを獲得し、そのたびに人々に明るい話題を届けてきた。20年5月が景気の谷なので、藤井七段が各々のタイトルを初めて獲得した景気局面は拡張局面だったと思われる。ちなみに、羽生善治九段が25歳4カ月で王将を獲得し、七冠を達成した1996年2月も景気拡張局面だった。

将棋界で最も歴史がある名人戦が現在のかたちで行われるようになって、当時最年少で名人位を獲得したのが大山康晴十五世名人(初代・木村義雄十四世名人から数えると実力制3代目)だ。獲得日は52年7月16日。29歳4カ月で、20歳台での獲得と話題になったようだ。72年9月2日に名人になったのが中原誠十六世名人(実力制5代目)。24歳9カ月で獲得し、約20年ぶりに最年少記録を塗り替えた。藤井七冠が記録を更新するまで、21歳2カ月の最年少記録を約40年間守り続けたのが谷川浩司十七世名人で、獲得日は83年6月15日だった(実力制7代目)。

実力制16代名人・藤井七冠まで4人すべてで、名人の最年少獲得記録更新という歴史的に明るい話題が出た時の景気は拡張局面に当たっている(図表)。

将棋・最年少名人記録更新時に見る景気局面
(画像=きんざいOnline)

景気探検家・エコノミスト/宅森 昭吉
週刊金融財政事情 2023年7月11日号