需要予測は、売上の把握だけでなく、ロス削減や人員配置の最適化に役立ちます。その需要予測をAIに任せることで、勘や経験に頼らない予測ができたり、省力化による業務効率化が図れたりできることをご存じでしょうか。
この記事では、代表的な需要予測の手法やそのメカニズム、分析法、AIで需要予測するメリット・デメリット、有効活用できる企業などについて、事例を挙げながら詳しく解説していきます。あなたの企業にとって参考になるAI需要予測の事例が見つかるかもしれません。
目次
需要予測とは?
そもそも需要予測とは、自社のサービスや製品の需要を予測することです。どれだけ需要があるかをより正確に把握することで、売上を予測できるだけでなく、過剰注文によるロスを削減できたり、人員配置の無駄を省いたりすることができます。
飲食店や製造業などの在庫管理が必要な業種では、担当者の経験則や勘による需要予測に基づいて発注している事業所もあるのではないでしょうか?この旧来の需要予測をAIに代替することにより、より正確な需要を省力化して把握できるようになります。
こちらでは、需要予測を行う目的から、需要予測の種類(データを基にした統計的予測、経験や勘を基にした予測、市場調査を基にした予測、機械学習を基にした予測)について説明し、それぞれの得意な点や不得意な点、注意すべき点などをお伝えします。
需要予測を行う目的
需要予測とは、自社の商品やサービスの売上量を短期的・長期的に予想することです。その主な目的は、事業の成長を支援し、コストを抑制して利益率を高め、市場競争で自社が優位に立つこと。さまざまな商品やサービスが乱立する昨今の市場において、在庫過多や在庫切れを避けることで、利益の最大化が見込めます。
もう一つ重要な施策に「販売計画」があります。こちらは、需要予測を基に具体的な販売戦略(いつ・何を・どれだけの量・いくらで・どのように売るか)を立案し、実際の販売活動を計画するのが目的です。
つまり、需要予測が商品やサービスの将来の需要を予測するのに対し、販売計画は需要予測を基に、より具体的な販売戦略を立案し、実際の販売計画を行う点に違いがあると言えるでしょう。
需要予測の種類
需要予測には「データを基にした統計的予測」「経験や勘を基にした予測」「市場調査を基にした予測」「機械学習を基にした予測」という4つの種類があります。現在、最も利用されているのは「データを基にした統計的予測」ですが、ビジネスの場でAIの活用が進んでいる現状においては、今後は「機械学習を基にした予測」が重視されると予想されます。
・データを基にした統計的予測
データを基にした統計的予測とは、需要の変遷や過去の売り上げ実績などのデータを基に将来の売り上げの予測を立てる方法です。現在多く利用されている方法であり、担当者による予測精度の違いが発生しないところは長所といえます。しかし、過去の状況と現在の状況に大きな違いがある場合、過去のデータから正確な予測を立てられない場合が生じえます。データによる予測には、予測精度の確認や予測モデルの定期的な見直しなどが不可欠といえます。
・経験や勘を基にした予測
担当者の経験や勘、知識を頼りに需要を予測する方法で、主に小売店や飲食店で使われています。経験豊富な担当者であれば、適切な予測が可能かもしれません。しかし、予測担当者が異動や退職などで不在になり、同レベルの予測能力を持った新たな担当者がいない場合は、正しい予測ができなくなるリスクもあるので、注意が必要です。そのため近年では、データやその他の方法を併用して需要予測を行うことが増えてきています。
・市場調査を基にした予測
本格的な商品・サービス発売の前に市場を調査し、収集したデータを基に需要予測を行う手法です。具体的には、類似商品・サービスの売上やその他の状況を調査したり、ターゲットユーザーにアンケートを取ったりします。ある程度の精度は期待できますが、アンケート作成などの準備、必要な回答数(サンプル数)の収集、結果の解析など需要を予測するまでに時間と費用がかかるので、事前計画を確実に立て、コストについても十分に把握したうえで実施するようにしましょう。
・機械学習を基にした予測
機械学習とは、コンピューターに大量のデータを学習させることで規則性や関係性を見つけ出し、予測や判断をする手法です。AIが企業の保持する膨大なデータを活かすことで、高精度な予測を実現することができます。
ただし機械学習のためには、まず人が「教師データ」という学習用データを用意する必要があります。教師データは、英語表記では「teaching data」となり、AIが機械学習に利用するデータを指します。
ただし機械学習では、学習すればするほど良いわけではなく、学習しすぎると「過学習」という状態になり、分析の精度が低下する点も理解しておくことが大切です。過学習になると、AIが学習プロセスで取得したデータに過剰にフィットしてしまうため、未知のデータ分析が正しく行えなくなってしまうのです。
AIの需要予測で用いられる4つの手法とメカニズム
AIの需要予測では、様々な手法を用いて需要を予測します。ここでは、代表的な需要予測の手法と、そのメカニズムをそれぞれ解説します。4つの分析法を比較検討してそれぞれの特徴を理解し、あなたの業種や目的に合った手法を見つけ出してみましょう。
・回帰分析法|需要と因果関係がある変数を用いて予測
・移動平均法|過去の需要移動平均に基づいて予測
・指数平滑法|過去の予測値と実績の差を加味して予測
・加重移動平均法|最新の需要変動の影響を考慮に入れた予測
1.回帰分析法|需要と因果関係がある変数を用いて予測
回帰分析法は需要に関する要因に基づいて予測値を求める方法です。要因が1つしかない場合は単回帰分析と呼ばれ、要因が複数あれば重回帰分析と呼ばれます。需要には顧客数や販管費、周辺人口、天候などさまざまな要因が関係しているため、多くの場合重回帰分析が用いられます。
予測値(目的変数)は、要因(説明変数)とその影響力を示す重み(偏回帰係数)によって算出可能です。そのため、要因をどれだけ増減すれば、予測値が増減するのかが判明します。
理解を助けるために販売数の予測をしてみましょう。回帰分析法は、因果関係があると考えられる変数間の関係を、Y = a + bX というふうに直線の形で表す統計手法です。販売数を折れ線グラフにしたものから数値同士の関係性を割り出し、直線の式「Y = a + bX」を導き出します。例として、下記の表を基に回帰分析で「2023/7」の販売数を予測してみます。
年月 | 販売数(Y) | 期(X) |
---|---|---|
2023/1 | 500 | 1 |
2023/2 | 480 | 2 |
2023/3 | 530 | 3 |
2023/4 | 540 | 4 |
2023/5 | 520 | 5 |
2023/6 | 550 | 6 |
表から以下のような販売実績のグラフが作成できます。
上の表から導き出された直線の式「Y = a + bX」を表すのが、以下の点線です。
上記グラフの場合、販売実績から「Y=482+10.857x」(a=482,b=10.587)の直線が導き出されました。上記式から「2023/7」の販売数を予想する計算式は、以下となります。
(販売予測値Y)
=482(a)+7(X)×10.857(b)
=557.999
回帰分析法による「2023/7」の販売予測は約558となります。
回帰分析法には、予測値に対する要因の重要度が分かり、どの要因が重要なのかを定量的に判断できるという2つのメリットがあります。需要が予測できるうえに、何に注力すれば需要が増加するのかを知ることができる分析法です。数値化されることによって、売上結果とさまざまな要素にどんな因果関係があるのかを判断することができるため、根拠のある推測が可能になるのです。
しかし、データに偏りがある場合やデータ量が不十分な場合、正確な需要予測が難しくなるため、計算時には関数や参照する値が正しいかどうかに注意しましょう。
2.移動平均法|過去の需要移動平均に基づいて予測
移動平均法とは、過去のデータを基に将来の需要を予測する方法です。この手法では、周期を考慮して需要を予測できます。そのため、季節や月などの周期によって需要が変化しやすいサービスや製品を扱っている場合には有効な予測手法です。
具体的には、一定期間のデータを基に割り出した平均値を需要予測に活用する方法で、株価指標である日経平均の折れ線グラフにも用いられています。たとえば、過去3ヶ月分の売上平均から予測値を計算した場合、移動平均は下記の通りです。
売上 | 3ヶ月移動平均 | |
---|---|---|
2023年5月 | 200万 | ー |
2023年6月 | 250万 | ー |
2023年7月 | 280万 | ー |
2023年8月 | 300万 | 243万(5月+6月+7月÷3) |
2023年9月 | 320万 | 276万(6月+7月+8月÷3) |
2023年10月 | 280万 | 300万(7月+8月+9月÷3) |
2023年11月 | 340万 | 300万(8月+9月+10月÷3) |
2023年12月 | 400万 | 313万(9月+10月+11月÷3) |
「移動平均法」という名前は、上の表のようにデータが次月に移動していくことが由来となっています。なお、移動平均法のメリットは、棚卸資産の評価額が常に把握できるため、適切な販売戦略の立案に役立つ点です。一方デメリットは、仕入れが発生するたびに計算が必要になり、担当者の業務量が増える可能性がある点が挙げられます。
しかし、その短所は迅速に計算ができるAIと組み合わせることで、克服が可能です。そのため、移動平均法はAIと相性が良い需要予測方法と言えます。
総合的に見れば、移動平均法を使いこなすことで、原価管理の精度が上がり、原材料や人件費のムダを確認することができるでしょう。
3.指数平滑法|過去の予測値と実績の差を加味して予測
指数平滑法は、過去のデータから将来を予測する計算方法です。前述した移動平均法の中の「加重移動平均法」の一種です。これに対し、加重をつけない移動平均法は「単純移動平均法」ですが、これらの違いは、過去のデータにどれだけの加重をかけて計算するかという点にあります。
単純移動平均法は全てのデータに同じ加重をかけて計算するため、短期的な需要の変化には気づきにくい傾向にあります。その一方、指数平滑法は新たなデータを重視しながら計算するので、過去に遡るほど重要度が指数関数的に減少します。そのため、過去のデータよりも最新データのほうが需要予測の結果に反映されやすいという特徴があります。計算式は次のとおりです。
(今期の予測)=a×(前期の実績値)+(1-a)×(前期の予測値)
なお、aは「前期の実績が前期の予測からどの程度離れていたか」を調整する「平滑化係数」です。平滑化係数は「0<a<1」の範囲で設定し、それによって予測が以下のように変化します。
0に近い:過去の経過を重視
1に近い:直前の実績を重視
実際の予測は以下のように行います。
年月 | 販売実績 | 予測値(a=0.2) | 予測値(a-0.4) | 予測値(a=0.6) |
---|---|---|---|---|
2023/1 | 5,000 | 5,250 | 5,250 | 5,250 |
2023/2 | 4,800 | 5,200 | 5,150 | 5,100 |
2023/3 | 5,500 | 5,120 | 5,010 | 4,920 |
例えば、「2023/1」時点で「2023/2」の予測を立てる際に、予測値を「a=0.2」として行う計算は、以下の通りです。
<今期の予測>
=0.2(a)×5,000(前期の実績)+(1-0.2)×5,250(前期の予測)
=1,000+4,200
=5,200
なお、指数関数的に加重は減りますが、過去をどこまで遡ってもデータの重みが0になることはありません。このように、指数平滑法には、全てのデータを活かしつつ直近のトレンドを反映できるというメリットがあります。
逆にデメリットは、過去のデータの傾向のみを踏まえて計算するため、市場の動向や季節性の影響を反映することが難しいという点です。季節性を考慮したい場合は、ウィンターズ法(季節傾向モデル)を用いて長期的な需要予測をするのが良いでしょう。
4.加重移動平均法|最新の需要変動の影響を考慮に入れた予測
加重移動平均法とは、前述した移動平均法の一種で、最新の需要変動の影響を加味して算出する手法です。古いデータよりも新しいデータを重視するため、トレンド分析を行いたい場合や、データの変動が大きく、最新データが重視されるケースにおいて特に有効です。算出方法は以下の通りです。
「◯月の加重係数×◯月の販売数量)+(△月の加重係数×△月の販売数量)+……」÷(係数の合計)
「加重係数」は直近のデータをより大きく設定することで、直近データを重視した数値となります。以下の販売データを元に加重移動平均を割り出してみます。
月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
販売数 | 2 | 4 | 7 | 3 | 5 | 10 | 8 |
ここでは、直近の数値の加重係数を10、その1ヶ月前の加重係数を9……と減らしていきます。例えば、上の表の7月までの販売数を元に加重移動平均を導き出す場合の計算方法は、以下の通りです。
<加重移動平均>
=(10×8+9×10+8×5+7×3+6×7+5×4+4×2)÷(10+9+8+7+6+5+4)
=301÷49
=6.142857…
なお、加重移動平均の算出には過去のデータが必要不可欠です。過去のデータが不十分な場合は予測の精度が落ちてしまう点に注意しましょう。また、重みを適切に設定する必要があるため、専門知識を持つ人材に設定してもらうのがおすすめです。
AIで需要予測するメリット
AIで需要予測をするメリットは、主に5つあります。
・需要予測をAIに任せられる
・需要に応じて在庫を最適化できる
・高精度な需要予測ができる
・勘に頼らない需要予測ができる
・蓄積データを活用できる
ここでは、需要予測をAIに任せることにより、どのようなメリットが受けられるのかを解説します。
需要予測をAIに任せられる
AIの需要予測システムの中には、売り上げデータや在庫情報を入力するだけで、自動で需要を予測するものがあります。需要予測をする手間を省けるほか、その労力を他の業務に充てられるため、業務効率化が図れます。
また、人手を割いて需要予測をする必要がなくなるため、人手不足が深刻な企業には効果的です。また、需要を日頃から深く考えなくても良くなるため、従業員の負担を軽減することもできます。
需要に応じて在庫を最適化できる
需要をある程度予測できれば、在庫量を最適化して運用できます。これにより、在庫の管理コストを削減したり、過剰発注による無駄な廃棄を抑制できます。
特に、在庫の消費期限が短い飲食業では、在庫を最適化することで損失を大きく抑えられます。在庫管理がうまくいかずに廃棄が多く出ている企業は、需要予測をAIに任せることで損失を低減できるかもしれません。
高精度な需要予測ができる
AIは大量の計算を瞬時に行えるため、多くの計算結果に基づいた需要予測が可能です。また、過去の様々なデータを活用して予測できるため、人の勘や経験に基づく予測よりも高い精度で予測できます。
これにより、在庫管理やシフト調整が最適化できるだけでなく、経営判断をより正確に下せるようになります。また、AIの計算スピードを活かせば、意思決定を迅速に行えるようになるため、スピーディーな経営戦略の実施が可能になります。
勘に頼らない需要予測ができる
来店予測や発注は、現場監督の勘や経験に任せられていることが多いです。しかし、勘や経験による需要予測は、担当者の主観や能力により精度のばらつきが生じるため、高精度で予測できるとは限りません。
AIは定量的なデータに基づいて予測できるため、明確な根拠に基づいた需要予測が可能です。これにより、担当者による予測のばらつきを抑えつつ、高い精度で需要を予測できます。
蓄積データを活用できる
実際の現場でAI予測を導入することで、事業所独自のデータを収集することができます。AIは過去のデータに基づいて予測を行うため、実測データが増えて参照できるデータが多くなると、高い精度で予測できるようになります。
また、蓄積データは、需要予測以外の用途でも活用可能です。需要予測で収集したデータが、品質管理や売上向上のヒントとなるかもしれません。
AIで需要予測するデメリット
AIによる需要予測は、高精度かつ短期間で行えるというメリットがありますが、一方でデメリットもいくつかあります。
・初期段階で大量のデータが必要となる
・初めは予測精度が低い傾向にある
・人による保守や管理が必要である
初期段階で大量のデータが必要となる
AI予測を行うためには、まずモデルを構築しなくてはなりません。そのためには、モデルを形成する大量のデータが必要となります。加えて、無闇に質の低いデータを集めても、精度の低い予測モデルとなってしまいます。
AIモデルの精度を高めるには、「量」と「質」を両立する必要があります。また、汎化性能の高いAIモデルを構築するには、データの偏りがないようにしなくてはならないため、データの準備はかなりの労力を割くことになるでしょう。
初めは予測精度が低い傾向にある
AIは学習データに基づいて予測をするため、初期段階の少ないデータでは、予測精度が低くなる傾向にあります。よって、初期段階では特に、モニタリング等の定期的な保守管理が必要です。
ただし、適切な保守管理を行いつつ、実測データも集まれば、予測精度は高くなります。事業所独自のデータを集めることで予測精度は高くなっていくため、早期からのAI導入は精度向上に重要です。
人による保守や管理が必要である
AIが行うのは、あくまで過去のデータに基づく予測のため、過去にない需要の変化には対応できません。また、AI自身はシステムが目的通りに機能しているかを判断できないという欠点があります。
そのため、予測自体はAIに任せても良いのですが、目的に合った働きをしているかを常に担当者がモニタリングをしなくてはなりません。このようにAIは、システム構築後に放置していいわけではなく、データの偏りがないかどうか、予測精度が落ちていないかなどの定期的な管理が必要になります。
AIの需要予測はどんな会社で有効に活用できる?
AIは多くの業界で活用されていますが、特に以下のような会社で大きな効果をもたらします。
・人手不足が深刻な会社
・時期によって需要が激しく変化する会社
・需要が多くの因子によって変化する会社
・未開拓分野の事業を行う会社
ここでは、それぞれの会社でどのような効果をもたらすのかを解説します。
人手不足が深刻な会社
AIに需要予測を任せると、単純に需要予測をするだけの労力が浮くため、労働力を削減できます。より少ない人員で業務を回せるようになるため、人手不足が深刻な会社にAIの需要予測の導入は効果的です。
また、AIを活用することで需要予測の手間が省けるほか、予測が正確になることで人員配置を最適化できます。無駄な人件費をカットして必要な業務に充てられるため、同じ人数でも生産力を高めることが可能です。
時期によって需要が激しく変化する会社
時期によって需要が激しく変化する会社は、需要の高い時期に顧客を取りこぼさないようにし、需要の低い時期には無駄な労力を極力削減する必要があります。そのためには、より正確な需要予測ができるAIの導入が重要です。
特に、消費期限の短い製品を販売している会社は、余分な発注をして販売期間を逃すと、発注した製品が無駄になるほか、余計な廃棄コストまでかかります。より正確な需要予測ができるAIを導入することで、無駄なコストを削減できるようになるでしょう。
需要が多くの因子によって変化する会社
人の計算能力には限界があるため、多くの因子によって需要が変化する製品やサービスは、需要を正確に判断することが難しい傾向にあります。AIは、複雑な計算でも素早く行うことができるため、多くの因子が絡んでいる需要でも、より正確かつ迅速に予測することが可能です。
例えば、天気や季節により需要が変化する製品やサービスは、それぞれの因子にどれだけの影響が関わっているかを正確に判断することが難しいです。これらをAIが解析すると、それぞれの因子が需要にどの程度影響していることが数値化できることがあります。
それぞれの因子が需要にどの程度影響しているのかが分かるのに加え、需要の低い時期には人員削減などの手を打てるようになるため、経営判断も正確に行えるようになります。
未開拓分野の事業を行う会社
未開拓分野では、利用できるデータが少ない傾向にあるため、実測データの価値が非常に高いです。早期から詳細な実測データを集めて需要予測をすることで、他の会社よりも需要予測の精度が早い段階で高くなり、需要をより正確に掴めるようになるでしょう。
もちろん、未開拓分野は初期のデータ収集が難しいため、初期精度は低くなると考えられます。しかし、独自の実測データをコツコツ集めてAIに学習させることで、将来的な予測精度は大きく向上すると考えられます。
AI需要予測の活用事例8選
ここでは、AI需要予測を活用した事例を8つご紹介します。ご自身に近い分野があれば、利用方法や効果を参考にしてみてください。
・需要予測から出荷量を予測し食品ロスを削減(NEC)
・需要予測に基づく製造指示で食品廃棄を75%削減(スシロー)
・需要予測による出荷時期調整で1日の売上を16万円増加(本川牧場)
・人流データに基づく需要予測でダイヤ最適化(神姫バス)
・AIの活用で監視業務の負荷を大幅に削減(花王)
・AI技術で近未来の蒸気量需要を予測しコストの最適化に成功(三井化学)
・AI活用で作業の削減と平準化により発注作業の効率化・精度向上を実現(ライフ)
・需要に応じて価格を変えるダイナミックプライシングで売上アップ(Jリーグ)
需要予測から出荷量を予測し食品ロスを削減(NEC)
NECは、気候や宣伝効果など多くの因子によって需要が変動する食品業界において、規則性を抽出して需要を予測するAIシステムを構築しました。その結果、7割近くの商品において比較的高い精度で需要が予測できるようになったようです。
同システムでは、規則性を自動的に抽出できるほか、「商品Bは気温26度以上になると売上が伸びる」という情報まで読み取れる高い解釈性を持っています。これにより、生産や物流のコストを削減できるほか、需給調整担当者が勘や経験に頼っていた発注業務を定量的に行えるようになると期待されています。
需要予測に基づく製造指示で食品廃棄を75%削減(スシロー)
回転ずしチェーンのあきんどスシローは、寿司皿にタグを取り付けることにより一皿ごとの動向を把握できる体制を作りました。そのデータを活用することで、寿司ネタごとの売上や廃棄の動向を掴めるようになり、客の需要をより正確に把握できるようになりました。
その結果、廃棄ロスを75%削減し、仕入の無駄を省くことに成功したようです。また、そのコストを食材にかけられるようにより、顧客満足度を上げることにも成功しました。加えて、客が入店してから会計をするまでの利用動向を掴むことに成功し、適切なタイミングで適切な寿司ネタを提供できるようになりました。
このように同社は、需要予測を用いることで、コスト削減のほか、顧客満足度を上げることにも成功しています。
需要予測による出荷時期調整で1日の売上を16万円増加(本川牧場)
牛の生産牧場である本川牧場は、需要予測のデータに基づいて乳牛や肉牛の飼育管理を行い、出荷時期の最適化に成功しています。加えて、生産量と出荷量のずれを低減することに成功し、廃棄ロスやペナルティの支払いも削減できているようです。
また、同牧場では、牛の個体情報や牛に対する作業の内容を200~300項目に分けてクラウド上で管理し、各個体の健康状態や乳牛生産量を確認しています。このデータを活用することにより、牛乳生産量が1日当たり2トン増加したほか、1日当たりの売上が1万円増加したようです。
このように、需要予測で収集したデータは、売上や生産量の向上にも役立てることができているようです。
人流データに基づく需要予測でダイヤ最適化(神姫バス)
神姫バスは、人流測定データを活用することにより、人の移動(需要)とバスの運用本数(供給)のギャップを可視化しました。これにより、2023年の春のダイヤ改正を、需要に合わせたダイヤ編成にすることに成功しました。
バスの利用者数を増やすには、「バス以外の移動手段利用者」という見えない需要に対して、適切な時刻および本数を供給する必要があります。同社はこの問題を、バス利用者以外の人流データを活用することにより解決しました。
同社は今後、需要予測に基づいてダイヤを変更した路線の利用状況をモニタリングしながら、他の路線に対してもダイヤを適切にできるよう取り組みを進めていくようです。このように、業界以外のデータを活用することにより、需要予測を行う方法もあります。
AI技術で近未来の蒸気量需要を予測しコストの最適化に成功(三井化学)
三井化学では、以前からバッチプラント(※)における近未来の蒸気量需要を予測することによって、工場の省エネルギー化や燃料・電力削減を目指していました。すでにプラントの最適な運転手法を示すシステムは運用していたのですが、「近未来に生じる蒸気電力量の変動」を予測する仕組みは持っていませんでした。
そこでAI技術を導入し、稼働非稼働データと蒸気の使用実績データの関係を分析し、機械学習により学習することで、従来のシステムではできなかった近未来に起こる蒸気電力量の需要量を予測するモデルを構築することを実現しました。
これにより、工場内で発生する蒸気ロスや過剰な燃料消費を抑えて省エネルギー化を実現し、燃料、電力、給水等にかかるコストの最適化に成功しました。
※化学物質の製造工程で、化学反応を行わせる装置ごとに一定量の原材料を投入して製品を産出する方式のプラントのこと。
AIの活用で監視業務の負荷を大幅に削減(花王)
花王はAIを導入することで「異常検知システム」の活用を推進し、経験が少ないオペレーターが少人数しかいない場合でも、数多くの設備や品種を監視できるようになりました。
それまでの花王は設備の高経年化や設備修繕費増加などの問題を抱え、非常に多くのバッチプラントを保持し品種数も豊富だったため、監視するオペレーターには高度な技術が要求されていました。
しかし、自動化によるオペレーターの人数減少や、世代交代も重なったため、経験の浅いオペレーターが少人数で多くの設備や品種を監視しなければならず、それが心理的負担となっていることが課題になっていました。
そこで花王はAIの導入に踏み切り、異常検知システムの活用を推進し始めました。異常検知システムは過去の運転データからパターンを学習し、2つのアルゴリズムによって現場の異常を検知し、オペレーターへ通知する、という流れです。
結果的に、信頼性の高い異常予兆検知や大幅な監視業務負荷削減、さらには生産性向上や製造技術の伝承と現場力の向上、監視業務の標準化による属人化の解消などさまざまな効果が確認されています。
AI活用で精度の高い発注が可能になり、商品の欠品が減少(ライフ)
労働力不足が深刻な食品小売業において、ライフでも店舗の省人化や、労働生産性向上への取り組みが不可欠となっています。特に多品目の商品を扱う小売店の発注業務は、数量を適切に発注しなければ品切れや廃棄ロスを生じさせるため、お客さま満足度や売上に直接影響を与える重要な業務でもあります。
しかし、需要予測して発注数を決める作業は、難易度が高く、業務負荷も大きいものです。そこで、ライフは生鮮部門の発注にAI需要予測による自動発注サービス「AI-Order Foresight」を導入し、販売実績・気象情報・特売企画情報などのデータを元に、各店舗における商品発注数をAIで自動算出できるようにしました。
その結果、以下のような成果が得られました。
3週間先まで算出された各商品の発注数量を発注画面に表示し、異常値を確認することで、作業の削減と精度の向上を実現。5日前までの予測で済む日配品の発注に比べ、長期間の発注予測が必要な生鮮部門にとっては大いに役立ちました。
AIを活用した精度の高い発注が可能になり、商品の欠品が減少したことで販売機会・廃棄ロスを削減しました。
難易度の⾼い業務をAIで自動化することで、経験が浅い従業員でも精度の高い発注が可能になり、採用したばかりの従業員を迅速に戦力化することに成功しました。
ライフはこの成果を受けて、2024年4月までに「AI-Order Foresight」を全304店舗で稼働させることになったそうです。
需要に応じて価格変えるダイナミックプライシングで売上アップ(Jリーグ)
Jリーグなどのスポーツ業界では、AI需要予測システムを活用した「ダイナミックプライシング」の導入が進んでいます。ダイナミックプライシングとは、サービスの需要に応じて価格を上下させるシステムのことで、観客は座種と価格のどちらを優先するか選択することができます。
ダイナミックプライシングのシステムは、過去4年間のチケット販売データをAIが解析して各試合の「価値」を算出し、席種ごとに最適な価格を提示し、1日1回価格を改訂するというものです。ダイナミックプライシング導入のメリットとしては、需要が下がる時期でもチケットの価格が最適化されるため、チケットを多く売ることができるという点が挙げられます。
実際にJリーグの横浜F・マリノスでは、2018年7月のホームゲームから、AI需要予測システムを活用したダイナミックプライシングを導入しました。スポーツチケットの需要は、チームの順位や天候、季節などといったさまざまな要因によって変動するものです。需要予測システムによって状況に応じた価格変動をさせることで、チケットの売上が1割アップしたという報告もあります。
まとめ|AIの需要予測で業務の効率化が図れる
需要予測は、売上を予測するだけでなく、人員配置を最適化したり業務効率化を図ることができます。ただし、多くの会社で行われている人による需要予測は、精度が低いうえ、労力や時間がかかります。
これをAIに任せることで、労力を削減できるうえに精度も上げられます。もちろん、AIの導入にはコストがかかりますが、廃棄や人員配置のミスにより無駄なコストがかさんでいる会社は、導入コスト以上の利益を得られるかもしれません。これを機に、ご自身の会社でもAIの需要予測が活かせるかを考えてみてはいかがでしょうか。
(提供:Koto Online)