ブレーキ摩擦材で世界トップへ

日清紡ホールディングスは2009年に現在の持ち株会社制に移行した。これを境に、M&Aのアクセルを大きく踏み込んだ。

ハイライトが訪れたのは2011年、自動車ブレーキに使われる摩擦材(ブレーキパッド)で当時世界2位のルクセンブルクTMDフリクション・グループを子会社化した。取得金額は約460億円。日清紡として今回の日立国際電気の買収はこれに次ぐ大型案件となる。

ブレーキ摩擦材はディスクブレーキの主要部品の一つで、摩擦によって車輪の回転を止めるのが役割。優れた制動力や性能安定性、耐久性、心地よい制動フィーリングが求められる。

日清紡が繊維事業で培った技術を生かし、自動車用ブレーキ、メカトロニクス製品、化学品などの非繊維事業の拡充に本格的に乗り出したのは1970年代。なかでも戦後すぐに着手し、実績を積み重ねていたのがブレーキ事業。TMDを傘下に収めたことで、ブレーキ摩擦材で世界トップメーカーに躍進を遂げることになったのだ。

環境規制の流れに対応して、国内や米国、中国では銅を使わない銅フリー摩擦材の供給をいち早く開始し、リーディングカンパニーとしての存在感を発揮している。

2010年には当時東証1部の日本無線をTOB(株式公開買い付け)で子会社化し、無線・通信事業の基盤を手に入れた。取得金額は約125億円。日清紡は2017年に同社を完全子会社化したが、現在でも日本無線の社名を維持している。日本無線は1915年創業で、無線メーカーの名門として知られる。

2013年にはオランダの海上・内陸船舶用カーナビシステムメーカー、アルファトロン・マリーンを子会社化。繊維事業でも15年に紳士服の東京シャツ(東京都台東区)をグループに迎えている。

マイクロデバイスではどうか。2018年、リコー傘下でアナログ半導体メーカーのリコー電子デバイス(現日清紡マイクロデバイス)を子会社化。翌2019年にFDKからフェライト製品などの電子部品事業を取得し、2022年にはエレコム傘下でLSI(大規模集積回路)受託開発のディー・クルー・テクノロジーズ(横浜市)を子会社化した。

「両利きの経営」に欠かせないM&A

日清紡は1907(明治40)年に日清紡績として設立。高級綿糸を国産化し、輸入品に真正面から挑戦するところから歴史が始まった。戦後は産業構造の変化や技術革新の潮流をとらえながら、非繊維事業の拡充を推し進め、今日、大変貌を遂げた。

持続的な安定成長路線をどう保持・発展させるのか。既存事業の深掘りと新規事業の推進による「両利きの経営」が問われるが、M&Aはそのツールの一つとして欠かせない。

日清紡が日立国際電気の大型買収を成功に導き、次の飛躍につなげるのか、要ウオッチとなりそうだ。

◎日清紡HDの沿革(2000年以降)

出来事
1907 日清紡績を設立
2004 ナイガイシャツを子会社化
2005 新日本無線を子会社化
2009 持ち株会社制に移行し、日清紡ホールディングスを発足
2010 日本無線を子会社化
2011 ブレーキ摩擦材メーカーのルクセンブルクTMD Friction Groupを子会社化
2013 海上・内陸船舶用カーナビメーカーのオランダAlphatron Marineを子会社化
2015 紳士服の東京シャツを子会社化
プラスチック製品メーカーの南部化成を子会社化
2017 紙製品事業を大王製紙に譲渡
2018 アナログ半導体メーカーのリコー電子デバイス(現日清紡マイクロデバイス)を子会社化
2019 FDKからフェライト製品などの電子部品事業を取得
2020 車載機器開発支援のドイツRBIなど2社を子会社化
2022 エレコム傘下でLSI受託開発のディー・クルー・テクノロジーズを子会社化
2023 5月、日立国際電気を子会社化すると発表

文:M&A Online