M&A行動指針案の意見公募を開始 8月6日まで

経済産業省は6月8日、「企業買収における行動指針(案)」に対するパブリックコメントの受け付けを開始した。上場企業の経営支配権を取得する買収(M&A)に関する新たな指針で、日本企業の国際競争力強化を図る狙いがある。敵対的買収に対する防衛策発動の公平性担保をめぐっては、株主利益をどこまで重視すべきかが焦点となりそうだ。意見募集は8月6日(必着)まで。

敵対的買収と防衛策発動の公平性担保が焦点に

国内のM&A市場が拡大しなければ経営の効率化や経営資源の適正配分を通じた事業再編などが停滞しかねない。政府・自民党も中小企業の成長などを促すため、M&Aを戦略的に活用する「成長志向型M&A」の定着を目指した政策を展開する方針を打ち出している。

経産省は敵対的買収を念頭に置いた「公正なM&Aの在り方に関する研究会」を2022年11月に発足。2023年4月まで計8回の議論を重ねてきた。経産省は日本の経済社会にとって「望ましい買収」が生じやすくすることを目指しており、同研究会では上場会社のM&Aを巡る当事者の行動の在り方を中心に、公正なルール形成に向けた新たな指針案を策定した。

企業価値に加え、株主利益の確保を明記

新指針案では、上場会社の経営支配権を取得する買収一般において尊重されるべき「企業価値・株主共同の利益の原則」、「株主意思の原則」、「透明性の原則」の3つの原則を提示している。

とくに近年は敵対的買収に際し、当初の買収提案を契機に第三者から新たな選択肢(対抗提案)が提示され、見方が分かれるケースが増加している。スチュワードシップ・コードの改訂で2017年以降は平時における買収防衛策の導入に対する機関投資家の反対率が高まっており、株主利益を尊重して対抗措置の差し止めを命じる司法判断も出ている。

こうした潮流を踏まえ、新指針案には望ましい買収の原則に、企業価値だけでなく「株主利益の確保」も盛り込まれた。さらに、対抗措置の発動の必要性自体「一般的には乏しい」との見解を示し、望ましい買収を阻害しないために「対抗措置の発動は抑制的に考える(もしくは発動の余地を排した設計とする)ことが有益」と説明。株主利益を置き去りにした対抗措置の濫用にブレーキをかける姿勢を鮮明に打ち出している。

買収提案へのアレルギーも根強い日本企業

一方、敵対的買収のターゲットとなった日本企業では、経営陣が受けた提案を取締役会に付議しないまま拒否する事例も依然として見受けられる。新指針案では経営支配権を取得する買収提案を受領した場合は速やかに取締役会に付議・報告することを原則としており、パブリックコメントを通した世論の反応が注目される。

パブリックコメント制度は、行政機関が政令や省令などを制定するにあたって事前に案を示し、広く国民から意見や情報を募集する行政手続きのこと。「企業買収における行動指針(案)」の意見公募は電子メールか、電子政府の総合窓口(e-Gov)の意見提出フォームで国内外から受け付けている。

「企業買収における行動指針(案)」に対する意見公募要領 (経済産業省)

文:M&A Online