「カームテクノロジー」8つの基本原則

カームテクノロジーを意識した製品やサービスのリリースを考えている場合は、アンバー・ケースが提唱した8つの基本原則をより多く満たしている必要がある。

「カームテクノロジー」8つの基本原則

これらの要素を順番に見ていこう。

1番目、ユーザーの注意をひいてばかりいては、ストレスがたまる一方であるため、カームテクノロジーは必要最低限の注意をひくように設計されなければならない。例えばスマートウォッチは、指定した通知のみをブザーとして振動させ、それ以外のときは全く気にならないように設計されている。

2番目の要素を実現しているのが、スマートホームセキュリティシステムだ。緊急時にのみ通知を送るが、それとともに今安全かどうかをいつでもユーザーの好きなタイミングで確認でき、その結果ユーザーは安心感や安堵感を得ることができる。

またチャットツール「Slack」では、メンバーのオンライン状況をアイコンのランプの色で知らせ、今会話できるかどうかを事前に知らせることで、ユーザーに安心感や安堵感を与えている。

3番目の要素でいう「周辺部」とは、意識の周辺部を指す。例えば車の運転中だと仮定しよう。ガソリン切れを知らせるランプは、運転というメインの動作を妨げることなく必要な情報を伝えてくれる。またスマホと連動するカーテン自動開閉機は、開閉を自動で行って部屋に太陽光を取り込み、睡眠と目覚めをよりスムーズにサポートする。

4番目の要素の例としては、VR(バーチャルリアリティ)技術が挙げられるだろう。VR技術は、仮想現実を通じて人間の体験や感情を拡張し、よりリアルで広範な体験を提供してくれる。オンラインで世界中の人間とアバターを通じてコミュニケーションができるメタバースや、違う言語を使う人とのコミュニケーションに使用する自動翻訳チャットも技術と人間らしさのメリットを増幅している例だ。

5番目の要素で重要なポイントは「ユーザーとテクノロジーのコミュニケーションは必ずしも音声である必要はない」という点である。例えば人感センサーと連動して自動的にスイッチのオンオフを行うスマートランプは、ユーザーの動きに対してコミュニケーションをとっている。

6番目の要素では、アクシデントは発生するものとして捉え、できる限り動作し続けるよう考慮されているかどうかがポイントだ。例えば銀行のATMのシステムは、サーバー機を複数用意し1台が故障しても他のサーバーがカバーするように構成されている。ユーザーは、この仕組みのおかげでお金の引き出しなどの機能を基本的にいつでも利用可能だ。

またクラウドサービスの利用が増加するに従い広まっているのがゼロトラストである。現代において不正アクセスやコンピューターウイルスの感染は「あること」を前提とする新しいセキュリティの概念だ。ゼロトラストでは、あらゆるアクセスを「信頼できない」ものとして、アクセスが発生するたびに権限チェックなどを自動的に行うなどの機能が備わっている。

7番目の要素は、言い換えると目的を達成するためにテクノロジーを利用する手間を最低限に抑えるという意味だ。できれば意識的な操作をせず日常生活のなかで自然とテクノロジーを使う形になっていればベストだろう。ここまで挙げた例のなかでカーテン自動開閉機や人感センサーと連動したスマートランプは、意識的な操作を介さず動作する製品だ。

8番目の要素は、「その時々の社会通念から、あまりにも逸脱してはいけない」という意味が含まれている。例えばドローンは、プライバシーと公共の安全を尊重するための特定の規範と法律に従う。

現代においてすっかり定着したのがiPhoneだ。しかし発売当時から最新機種のようなたくさんの機能が入っていた場合は、受け入れられたかどうか分からない。iPhoneは、少しずつ機能を追加していったからこそ社会に受け入れられた面もあると考えられる。