契約業務の効率化は、企業の業績と成長を推進する上で不可欠な要素となりつつある。特にデジタル変革が進む現代において、法務の専門家たちが使用するツールとプロセスは、組織全体のパフォーマンスを大きく左右する可能性がある。法務DXの最前線で活動し、企業の契約業務を革新するサービスを提供する株式会社Hubbleの代表取締役CEO、早川晋平(はやかわ しんぺい)氏に、契約管理における挑戦、Hubbleのビジョン、そして業界への影響についてインタビュー形式でお話を伺った。 (執筆・構成=川村 真史)

株式会社Hubbleアイキャッチ
(画像=株式会社Hubble)
早川 晋平(はやかわ しんぺい)
株式会社Hubble代表取締役CEO
早川 晋平(はやかわ しんぺい)――株式会社Hubble 代表取締役CEO 関西学院大学を卒業後、会計事務所に就職。多くの企業に残る非効率な業務オペレーションの現場を目の当たりにし、それらを解決すべく2016年にHubble創業&CEO就任。
株式会社Hubble
株式会社Hubbleは、契約業務の効率化を実現するクラウド型ソフトウェアを提供するベンチャー企業。法務に携わる方々の契約業務のコミュニケーションコストを削減し、契約書の履歴管理を重視する法務機能の最大化を支援する。NDAの統一規格化を目指すコンソーシアム型のNDA締結プラットフォーム「OneNDA」を運営し、法務の生産性を高めるメディア「Legal Ops Lab」を提供している。

―まずは、これまでの経緯や試行錯誤を経て、現在のサービスに至った経緯をお聞かせいただければと思います。

はい。リーガルテック企業では弁護士の方が代表になることが非常に多いです。その中で私は、弁護士経験もなければ法律事務所に勤めた経験もないですし、企業法務で働いたこともありません。しかし、ドキュメント管理が非常に大変で、弁護士や企業法務の皆様が苦労していることを知り、プロダクト開発を始めました。

弊社の取締役の一人が弁護士で、もう一人がソフトウェアのエンジニアです。その弁護士の課題や仕事の仕方を見ていて、エンジニアがソースコードを管理するように、弁護士の仕事も契約書やビジネス文書を管理すれば効率化されると感じたのが、この事業を始めるきっかけになりました。リーガルのキャリアがなかったことで、弁護士の仕事のいびつ性に気づいたのがスタートです。リリースしてからは4年ほどになります。ベンチャーキャピタルから10億円ほど調達して経営をしています。

―企業の非効率な契約書業務を効率化できるという点で、確かにビジネスチャンスがあると感じますが、これまでは、日本人ならではの頑張りでこなしてしまってきた部分もあると思います。そこをどのように捉えていますか?

確かに、日本人ならではの頑張りでこなしてしまう部分はあると思いますが、その世界にいるとなかなかそこに気づけないだろうと私は感じました。実は、リーガルテックの中で弁護士ではない人が代表を務めるのはどうなのかと自分自身も思ったことがありますが、最近は業界や仕事の仕方を客観的に見ることができるからこそ、他職種との業務の進め方の差分に気づける、ということが価値だと思っています。

Hubbleの契約書管理サービスとしての強み

Hubble

―御社の強みをお聞かせいただけますか?

まず、弊社のサービスは、契約書管理のクラウドサービスになります。2020年のコロナ禍以降、電子契約サービスの利用率は格段に上がりました。そして、電子契約サービスを多くの企業が展開しています。Hubbleは、これらのサービスから送られてくる契約書や依然残る紙の契約書を集約する役割を担っているところが特徴です。他サービスとの違いは、具体的には、契約書の変更履歴や締結プロセスの管理も行えるのが特徴で、締結後の契約書だけではない情報を一元的に管理できるところがHubbleの強みです。

リーガルテックのベンダーは主にリーガルパーソンに向けてプロダクトを作っていますが、Hubbleの場合、20,000人のユーザーのうち、リーガルパーソンが1,000人程度で、残りの19,000人が事業部門の方々です。契約書の締結業務は、本来事業部門が主役の仕事であり、Hubbleのユーザー比率は事業部門が高く、事業部門の業務効率化を実現しています。これもHubbleの強みであり、継続率が99.9%(2023年1月時点)と高い理由です。

―契約書の変更履歴や締結プロセスが一元管理されているというのは、とても便利そうです。

そうです。契約書の履歴から締結時の状況まで一発で調べることができます。例えば、創業当初の取引先の契約書を探したい場合、取引先名だけを入力すれば、すぐに見つけることができます。

Hubbleが目指すディープコラボレーションとは

―現在一番関心を持っているトピックについて教えていただけますか?

はい。OpenAIのChatGPTについては、すでに多くの人が知っていると思いますが、私たちはそれをソフトウェアに組み込むことは、当たり前だと思っています。今AWSがソフトウェア開発において広く使われるようになったように、この技術が当たり前に使われる世界はもうすぐ来るでしょう。なので、それ以外でお話しすると、Hubbleでは、ディープコラボレーションという考え方に注目しています。これはアメリカで新しく誕生したソフトウェアのカテゴリで、クラウドサービス上で滑らかなコミュニケーションを実現するソフトウェアを指しています。

―そのディープコラボレーションとは具体的にどのようなものですか?

ディープコラボレーションとは、オンライン上で実際の会話のようにスムーズなコミュニケーションをとることを指しています。例えば、アドビが最近、デザインツールのFigmaを2兆8千億円で買収しました。Figmaはディープコラボレーションツールのカテゴリに入り、デザイナーだけでなく、マーケティングの人やエンジニアも簡単に一緒に使えるようになっています。これにより、デザインへのフィードバックがスムーズに行えるようになりました。

―それは非常に便利そうですね。具体的にどのようなやりとりができるのでしょうか?

例えば、デザイナーが作ったデザインに対して、マーケティングの人やエンジニアがFigma上でフィードバックを送ることができます。これにより、メールやSlackなどの別ツールでのやりとりが不要になり、コミュニケーションが一元化されます。それにより、働く場所が異なるメンバーでも、共通認識を持って滑らかなコミュニケーションができるようになります。

―なるほど、御社では契約書周りの業務において、ユーザーフレンドリーな世界を作ることに力を入れているということですね。

はい、そうです。コミュニケーションに着目し、契約書管理の業務を効率化しようというのが私たちの取り組みです。

―それは素晴らしいですね。今後は、そういったコミュニケーションを改善するソフトウェアが基盤となっていくと思われますか?

はい、そう考えています。ソフトウェア開発のあり方や、コミュニケーションのあり方に関心が高まっているからです。

―スタートアップの世界では、人材の流動性や働き方が多様化する中で、こういったソフトウェアが必要になるということでしょうか。

まさにその通りです。逆にこのようなソフトウェアがないと困ることは増えていくでしょう。

―それは確かに重要なポイントです。

Hubble社の未来構想とリーガル業界への挑戦

―今後の未来構想についてお聞かせいただけますか?

私が持っている大前提は、働き方がソフトウェアによって定義される時代がくるということです。人が働くこととソフトウェアは切り離せない関係性にあると思っています。ディープコラボレーションを通して、専門家と専門家でない人が共通認識を持ちアウトプットを出すことが重要だと考えています。契約書業務は、本来事業部門が主眼となって進めるべきと思っていますが、現状では弁護士や法務部門などの仕事となっています。事業部門の人たちが取引を進めやすく、事業を早く進められるような契約管理契約業務の基盤を作っていくことが重要だと考えています。

―それ以外にも、リーガル業界で実現したいことはありますか?

当たり前ですが、企業によって課題が異なります。私たちは、それぞれの課題に合わせたソフトウェアを提供していきたいと考えおり、Hubbleに留まらないプロダクトを開発していきます。もちろん法務の業界は契約書管理だけではない様々な課題があるので、他の課題解決の挑戦もしていきたいです。

―お客様の課題を理解することも大事だと思いますが、どのようにされていますか?

おっしゃる通り、お客様の課題をちゃんと理解することが一番大事です。我々の会社のカルチャーでは、圧倒的な顧客理解に努めようと努力しています。それによって、顧客の課題を認識したり、その課題を解決するための最適なプロダクトやソリューションをご提案できるようになると思っています。地に足をつけて顧客のニーズに応えることが大事だと考えています。

―現在Hubbleは、どのようなお客様が利用されていますか?

一番利用されているのは、上場準備から上場した後の企業で、いわゆるベンチャーやスタートアップと言われるところの受注率が高いです。これは、人材の入れ替わりや急激な人員増加により、情報の属人化がリスクになる企業群だと思います。また、大企業でも複数社利用されています。

経営層や投資家の方々に向けて

―最後の質問ですが、弊社の読者様へ一言お願いできますか?経営層や投資家の方々に向けて、何かメッセージがあればお願いします。

はい、ディープコラボレーションの重要性を強調したいと思います。デザイン業界で起きたコミュニケーション革新を、契約書業務で私たちが起こそうとしています。また、大企業が、さまざまなディープコラボレーションに関する企業を買収しています。これから、セールスサービスや顧客サービスにおいてもディープコラボレーションが間違いなく起きると考えています。会計などの分野でも起こるでしょう。

一般企業やスタートアップにも、なめらかなコミュニケーションが必要になる時代が来ることは間違いありません。生産性を高めるために、そういうソフトウェアが選ばれていくでしょう。私たちHubbleは、契約書管理でそれを実現しますが、他の業界でも同じようなことが起きると思います。今後、ディープコラボレーションというソフトウェアのカテゴリーにも注目してほしいです。

―実務家にとって理解しやすいメッセージですね。本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
早川 晋平(はやかわ しんぺい)
会社名
株式会社Hubble
役職
代表取締役CEO