KADOKAWA<9468>が2023年8月24日にアニメ映画専門シアター「EJアニメシアター新宿」を閉館する。旧「角川シネマ新宿」を、2018年にカフェ・ギャラリー併設のアニメ専門映画館としてリニューアルしたが、収益に結びつかず閉館に追い込まれた。同館の閉鎖で残る直営館は「角川シネマ有楽町」の1館のみとなる。
「失楽園」「リング」のヒットで映画館事業へ参入
KADOKAWAのシアター事業の源流は、1956年に設立された欧米映画配給社(名古屋市)。後の日本ヘラルド映画だ。同社は洋画では東宝東和や松竹富士、東北新社と並ぶ国内4大配給会社の一つだった。KADOKAWAは2004年3月に日本ヘラルド映画株の44%を保有して筆頭株主となり、2005年8月には株式交換により角川ホールディングス(現KADOKAWA)の完全子会社に。併せて「角川ヘラルド・ピクチャーズ」に社名変更した。
KADOKAWAは1976年の「犬神家の一族」で自社出版物を題材にした映画製作に乗り出し、原作と映画、主題歌などを組み合わせたメディアミックス戦略が当たって大きな収益をあげる。その後も1977年の「人間の証明」や1980年の「復活の日」、1981年の「セーラー服と機関銃』、1983年の「時をかける少女」など次々とヒット作を生み出し、「角川映画」ブームを起こす。
しかし、その後はマンネリ化によるヒット作品の不在と「角川映画」を開拓した角川春樹元社長の退陣などで、同社は映画事業から距離を置くようになる。しかし、1997年に新聞連載小説を映画化した「失楽園」、1998年にジャパニーズホラーの金字塔となった「リング」が続けざまに大ヒットして、映画事業を再び経営の柱の一つと位置づけた。
買収した映画館事業、大半を売却
2002年11月に大映を買収して角川大映映画(後の角川映画、2011年にKADOKAWAが吸収合併)を設立するなど、映画事業でのM&Aを積極的に進める。配給会社の日本ヘラルド映画買収も、そうした動きの一環だった。
シアター運営は日本ヘラルド映画の子会社だったヘラルド・エンタープライズが担い、2007年3月に「角川シネプレックス」(現ユナイテッド・シネマ)へ社名変更して「角川シネマ」ブランドの映画館を運営する。
だが、2013年に角川シネプレックスを投資ファンド・アドバンテッジパートナーズ傘下のユナイテッド・エンターテインメント・ホールディングスに20億円程度(推定)で譲渡し、「角川シネマ新宿」と「角川シネマ有楽町」の2館のみがKADOKAWAの直営館として残った。
残る角川シネマ有楽町は、ビックカメラ有楽町店が入居する読売会館8階にある1スクリーンの映画館で、収容人数は約230人。主に独立系作品とアート系作品を上映している個性派のミニシアターで、コアな映画マニアに人気がある。今後は同館の存続が注目されそうだ。
文:M&A Online