この記事は2023年8月4日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「雇用情勢改善で5月の自殺者数は13カ月ぶりに減少」を一部編集し、転載したものです。
(警察庁「自殺統計」ほか)
景気ウォッチャー調査の雇用関連・現状水準判断DI(季節調整値)は、2022年10月の52.8をピークに23年1月には47.2まで低下した。しかし、2月には景気判断の分岐点となる50を上回る51.2に回復。その後も、3月から6月にかけて53~54台で推移している。
また、景気動向指数の構成指数である新規求人数は、2月、3月と2カ月連続で前月比減となった。だが、4月に入ると1.5%増と盛り返し、5月も0.6%増と2カ月連続で増加した。新規求人倍率も、5月に2.36倍となり、前月よりも0.13ポイント上昇した。
このように雇用指数が改善方向にある一方で、2月の完全失業者数(季節調整値)は前月比13万人増、3月は15万人増、4月は15万人増、5月は3万人増だった。しかし、完全失業者数が増加傾向にある理由としては、コロナ禍からの正常化で景気への期待感が高まり、区切りの良い年度末にかけて次の仕事を探す人が増えるなど、自己都合で職を離れた人が多かったことが挙げられる。これは、自己都合で職を離れる「自発的な離職」者数が2月で前月比8万人増、3月で6万人増と2カ月連続で増加したことからもうかがえる。
その後、自発的な離職者数は4月が前月比9万人減、5月が2万人減と減少に転じている。これまで求職活動をしていた人が新規採用などのタイミングで就職したものとみられる。
次に、景気動向指数の構成指数である完全失業率(季節調整値)を見ると、23年1月に2.42%、2月に2.60%、3月に2.81%と上昇してきた。しかし、その後は一転して、4月に2.59%、5月に2.55%と低下している。
こうした雇用情勢と強い相関があるのが自殺者数だ。自殺の原因には、失業による経済的問題も多く、1978年から2022年までの45年間の完全失業率と自殺者数の相関係数は0.91と、完全一致の1に近い強い正の相関がある。
自殺者数の前年同月比は23年1月8.0%増、2月が9.0%増、3月が0.2%増、4月が5.2%増となった後、5月はマイナス16.4%と13カ月ぶりの減少に転じた(図表)。足元の雇用データの改善傾向と整合性がある結果である。そして、6月の自殺者数の前年同月比は暫定値で17.5%減であることから、雇用情勢が足元でさらに改善していることが分かる。
景気探検家・エコノミスト/宅森 昭吉
週刊金融財政事情 2023年8月8日号