この記事は2023年8月4日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「協調減産で原油価格上昇も、忍び寄る協定外国との不協和音」を一部編集し、転載したものです。


協調減産で原油価格上昇も、忍び寄る協定外国との不協和音
(画像=DifferR/stock.adobe.com)

長らく下落基調が続いてきた原油価格だが、6月に入り徐々に下げ渋り、7月には上昇に転じた。6月末に1バレル=74.90ドルだった北海ブレント原油先物価格は、7月28日には84.99ドルと約1カ月で13.5%も上昇している(図表)。エネルギー価格の再上昇は、ようやく落ち着きつつある世界的なインフレを再燃させかねない。果たしてこの上昇は続くのだろうか。

供給面では、価格低下を受けて産油国の生産調整が実施されている。石油輸出国機構(OPEC)とOPEC非加盟の産油国で構成されるOPECプラスの生産量は、2022年8月には日量4,385万バレルだったが、22年11月に日量200万バレルの減産を実施した。また、サウジアラビアとロシアはOPECプラスとは別に自主減産を行っており、このうちサウジアラビアは今年7月に自主減産を日量100万バレル拡大し、150万バレルとした。世界全体では、1年前よりも日量300万バレル程度の減産が実施されていることになる。

23年7~9月期における世界の需要は日量1億122万バレルと見込まれており、減産量はその3%弱に相当する規模だ。大規模な生産調整にもかかわらず価格低下は続き、約1年を経てようやく価格上昇効果が表れ始めている。しかし、昨年10月の原油価格の水準はおおむね90ドルで、現在値を上回っていた。つまり、産油国の収入は減産分以上に減少しているため、価格が上昇に転じても、生産調整の枠組みに参加している産油国にとっては、必ずしも満足できる状況にはない。

需要面では、比較的所得の高いOECD加盟国の需要が、日量4,600万バレル程度で安定的に推移している。むしろ、燃費効率の改善や世界的な炭素中立の動きも手伝って、需要は頭打ちの状態だ。

今や、原油の需給バランスに影響を及ぼしているのは、中国やインドをはじめとする新興国の需要の変化である。その両国でも需要回復の動きは一服しており、いまのところ急増する見込みはない。しかも、中国では自給率を高めるために国内生産量を引き上げる動きが確認されている。景気回復に伴って原油需要が増加しても、OPECプラスの減産緩和に寄与するか否かは判断が難しい。

さらに厄介なのは、統計から輸出状況が正確に把握できない状況が生じつつあることだ。ロシアはタンカーを自前で調達して制裁を回避するかたちで原油を輸出し、石油製品として販売しているとされる。また、中東産の原油を積んだ船籍や行き先が不明のタンカーが各国当局に拿捕されており、通常のルートによる輸出ではない手段での原油輸出が行われている可能性もある。

協調減産に参加しても収入は増えず、減産枠組み外にいる産油国がその「果実」を収奪しているとしたら、いずれ不協和音が生じかねない。OPECプラスは24年末まで減産継続としているが、価格の一段の上昇には産油国の結束が必要条件となる。

協調減産で原油価格上昇も、忍び寄る協定外国との不協和音
(画像=きんざいOnline)

住友商事グローバルリサーチ チーフエコノミスト/本間 隆行
週刊金融財政事情 2023年8月8日号