ef384ec7adf00c35693b8b1af6db2dfd_s-620x330


承継の善し悪しを3つに分けて考える

企業承継と違い、医業承継は院長であり経営者でもあるトップの人間性が色濃く反映されるものといえます。そのため、親族への承継を行うメリットとデメリットなどが混在しているのも事実です。今回は親族への承継について3つの点に分けて、その善し悪しを記してみます。


『設備投資』からみた承継のメリットとデメリット

医療法人の買収は、ここ数年非常に増えている感があります。中でも株式会社が医療法人を傘下に収めるケースや、地方の医療法人が都市部の医療法人を吸収するケースが出てきています。これらは病床数が200、400という中規模、大規模のものが多くあり、法人買収から一時閉鎖、再開と病院の継続が比較的スムーズに行われているのが実情です。

これに引き換え個人で営業する開業医のケースでは、逆に承継そのものが非常に複雑であり、なかなかスムーズに運ばないことが多くあります。その理由としては設備投資が挙げられます。一見クリニックや病床数の少ない個人病院を承継した場合、病棟、病院施設や医療機器をそっくりそのまま活かして臨床できるかどうかは、意外に難しいことが多くあります。

そもそも、大学病院などの医療機器と、個人病院での医療機器では、特に内科で臨床系の場合はそれほど複雑なものが不要な場合があります。ですが、神経や脳、腎臓、胃腸といった内科、外科にまたがる領域は執刀も行うことがあり、最新機器を求める医師が少なくありません。

そのため、病院を承継したからといって、「新しく開業するよりも『安く』開業できる」と考えるのは危険だといえるのです。(そもそも、最新の機器を設置する必要性があるのか、これも考えなければならないでしょう)設備投資が新たに必要かどうか、それも見極めたうえで承継に踏み切るべきかを考慮するのも、非常に重要といえるのではないでしょうか。


『税制面』から見た承継のメリットとデメリット

医療法人は「法人格」であるため、税制的な優遇措置を受けています。一般的には様々な税額控除が知られていますが、その基本には「法人を作るための出資」があることが前提です。医療法人の場合は「出資持分」といういい方をしますが、出資額によってその持分の評価額が高まることになります。持分は株式会社の「自社株」に相当するといってよいでしょう。

ただ、配当という概念がないのが医療法人ですから、多額の評価額が付いた出資持分を手に入れない限り、経営権を握ることはできません。そのため、少しずつ生前贈与(生きている間に親が子に贈与する)するか、相続かで持分を手に入れるしか方法はないのです。

そのため、贈与税か相続税がネックとなり、承継そのものを放棄してしまう医師が増加しているのも事実です。ただ、平成26年度税制改正によって「出資持分の定めのない社団医療法人」が注目を浴びています。これは承継される個人が「課税されない」代わりに出資持分を放棄する(つまり、個人が法人に「寄付する」)、という医療法人に変更できるという法改正が決まっています。

いずれにせよ、医療法人の定款を見直し、承継が税制面で有利か不利かを考えるのではなく、承継に有利な税制を選ぶために、法人格の変更を考える、という柔軟な考え方が必要になってくるのです。


『ランニングコスト』からみた承継のメリットとデメリット

病院経営に求められるものとして、カルテの保管や診療報酬計算ソフトなど、電子モノが付いて回るようになってきました。特に、電子カルテは今までの医療機器業者ではなく、情報システム業の立場で、個人病院にも営業を行っています。

しかし、ランニングコストで一番大きい物は「建物」といってよいでしょう。承継問題で浮上するのが「病院の所有」という概念です。医師の中には不動産所有の意識が高いことがネックとなり、耐震工事やバリアフリー化などで、金融機関からの借り入れの多さに悩む人が少なくありません。(所有ではなく、賃貸という方法もあります)

また、ランニングコストの中には、今後顧客(患者)層が厚くなるか薄くなるかを判断する必要があるでしょう。具体的には高齢者が罹りやすい疾病、あるいは怪我といった科目に人気が出てくることは容易に予想がつきます。ランニングコストとは、こうした「人気科目」の場合は宣伝費がそれほどかからず、口コミによって経営が安定するのに対し、人気のない科目は積極的な宣伝費の投入が不可欠になる、という事実です。これもよく理解して、人によっては「転科」して承継する必要があるかもしれません。


経営者としての医業承継を

医業の承継は、地域社会にとっても重要なファクターといえます。ですが、医業もやはり設備投資、税制、ランニングコストに照らし合わせた『院長であるより、まず経営者として』医業を成立させることが肝心です。費用対効果を考えた上で、承継を考えることが必要です。