この記事は2023年8月18日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「コロナ禍を耐え、ホテル投資は再び成長軌道に」を一部編集し、転載したものです。
この夏、全国の観光地や街に出かけ、外国人も含めて多くの人出でにぎわう様子を目にした人も多いだろう。全国の延べ宿泊者数累計を年別に並べたものを見ると、2023年は6月の時点で19年とほぼ同水準まで回復している(図表)。そこで本稿では、不動産投資の視点からコロナ禍がホテルに与えた影響を振り返って整理したい。
米MSCIによれば、日本国内の大型不動産の取引金額のうちホテルが占めた割合は、20~22年で毎年7~8%程度だった。これはコロナ禍前の数年間の平均と大きく変わらず、他の用途と比べて、相対的に増減しなかったことを意味している。実際に投げ売りのような話はあまり聞かれなかった。
一方、近鉄ホールディングス(HD)や西武HDなど有名ブランドのホテルを運営する企業が、自社で所有するホテルを外資系ファンドに売却する事例も相次ぎ、大きな話題となった。しかも、売却後も売主がホテルの運営を受託するケースが多く、所有と運営の分離が進むという意味でも象徴的な出来事だった。外資系ファンドが取得したホテルは、今後も不動産市場で流通され、市場の厚みを増幅させる効果があるとみられている。
ホテルを保有するJリートは、コロナ禍によって変動賃料を採用している物件からの収入が激減し、分配金の捻出に苦労した。ホテル特化型リートの中には、これを機に同じスポンサーの系列リートと合併して総合型に転換したり、規約を変更して賃貸住宅への投資を可能にしたりするような動きが見られた。ホテルリートとしての特徴は薄まるが、安定性を優先する道を選んだことになる。
ホテルからの変動賃料の収入増加は売上げ増加に遅れて反映されるため、キャッシュフローの回復にはもうしばらく時間がかかる。しかし、日本不動産研究所の不動産投資家調査によれば、期待利回りは早くも低下に転じている。コロナ禍発生直後は、新たなリスクが認識され、そのリスクをプレミアムとして上乗せするかたちで、ホテルに対する投資家の期待利回りは上昇(価格は下落)した。それが元に戻ることは、今後の価格上昇を示唆している。
ホテル投資は、コロナ禍で賃料収入の減少があったものの、長期的に有効であると再評価されていると考えてよいだろう。むしろ、困難をくぐり抜けてきたホテルの運営者やファンド投資家の経験が生かされ、投資マーケットは次の時代に向けて成長していくと期待できる。
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部 フェロー/大溝 日出夫
週刊金融財政事情 2023年8月22日号