この記事は2023年9月1日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「不動産危機の再燃で、重要な分岐点に差し掛かる中国経済」を一部編集し、転載したものです。


不動産危機の再燃で、重要な分岐点に差し掛かる中国経済
(画像=Adam/stock.adobe.com)

中国では8月に入り、碧桂園(カントリーガーデン)や中融国際信託の流動性危機、中国恒大集団(エバーグランデ)による米連邦破産法15条の適用申請など、不動産開発大手や金融事業者の経営危機報道が相次ぎ、不動産リスクに対する懸念が再燃した。当局が金融支援の再強化を指示したこともあり、現時点ではシステミックな影響は見られていないものの、今後も不十分な対応が続けば長期の景気低迷に陥りかねない。中国経済は重要な分岐点に差し掛かっている。

中国経済は今年3月まで、サービス消費が牽引することでマイルドな景気改善を示していた。だが、4月から景気回復に息切れが生じ、その後は減速傾向が強まっている。

景気を下押ししたのは、①不動産開発投資の低迷(1~7月=前年比8.5%減)、②ハイテク製品を中心とする輸出の不振(7月=同9.2%減)、③先行き不安の広がりによる小売りの回復遅れ(7月=同2.5%増)──などである。2023年4~6月期の中国の実質GDP成長率も、前期比0.8%と1~3月期の同2.2%から大きく減速した(図表)。23年上半期の経済成長率は、前年同期比5.5%と政府目標の5%を上回ったが、足元の景気減速を考慮すると、通年の成長率は4.7%程度まで下がるとみる。

7月下旬に開催された中央政治局会議では「中国経済は不動産リスクの高まり、内需不足、厳しい外部環境などの新たな困難に直面している」との厳しい現状認識が示された。そのため、①不動産テコ入れ策、②金融財政政策、③内需拡大策などの追加景気対策を導入する方針が打ち出された。

不動産テコ入れ策では、住宅購入規制の緩和(転売規制の停止、頭金比率の引き下げなど)や買い替え促進策(購入補助金、税還付など)が大都市も含めて導入される。すでに2回の利下げを行った金融政策では、今後も金利・量の両面で緩和を強化するほか、財政政策でも、インフラ建設を加速するとともに地方財政支援措置を導入する。さらに内需拡大に向けて、車、家電、電子製品、家具などの消費促進策の強化、大型民間投資プロジェクトの積極着工などが全国で展開される。

現在、中国の製造セクターは在庫調整が終了しつつあり、生産拡大に転じる品目が増えている。下落基調にあったPMI(製造業購買担当者景気指数)やPPI(生産者物価指数)も底打ちを示し始めるなど、製品需給にはポジティブな変化も生じている。本格化する景気対策で不動産市場が安定し、内需も拡大に転じれば、5%目標の達成も再び視野に入る。

しかし、年前半に景気回復が息切れした最大の要因は、マクロ経済政策の火力不足だ。財政規律等を重んじる「質の高い成長」と「景気回復」の二兎を追う李強首相が、どこまで踏み込んだ景気刺激策を実行できるかに経済の命運が懸かっている。

不動産危機の再燃で、重要な分岐点に差し掛かる中国経済
(画像=きんざいOnline)

岡三証券 チーフエコノミスト(中国)/後藤 好美
週刊金融財政事情 2023年9月5日号