金地金の国内小売価格が、ついに1グラム当たり1万円(税込)を突破した。地金商最大手の田中貴金属工業によると8月29日の販売価格は前日比28円高の同1万1円と、最高値を更新している。国際的な金価格の上昇はあるが、円安で輸入価格が高騰している影響も大きい。高騰が続く金相場だが、もし「底値」で買っていたらどうなっていたのか?そして、次の「底値」は、いつ来るのか?

24年前の金価格は1g=917円

過去25年間で見ると、同社金価格の底値は1999年9月の同917円と、現在の約11分の1。当時なら1kgの金を91万7000円で買えた。100万円でお釣りが来たことになる。現在、1kgの金を売却すれば1000万円。単純な年利計算だと、年利10.47%に相当する。2020年を100とする消費者物価指数では1999年の98.0、2022年は102.3なので物価上昇分を差し引いても大きな運用益と言えるだろう。

M&A Online

(画像=「M&A Online」より引用)

このペースで運用益が上がるとしたら、10年後の金価格は同2万7000円を超える必要がある。今後の10年間で現在の2.7倍にまで金価格が高騰すると予想する人は少ないはずだ。そうなると「値下がりを待って金に投資する方が得策」ということになる。

ならば次の底値はいつか?前回の底値を記録した1999年の経済状況から探ってみよう。同年の日本経済は1997年に北海道拓殖銀行が、1998年に日本長期信用銀行が経営破綻し、「失われた10年」が意識され始めた時期である。

半面、国際的には1997年のアジア金融危機や、1998年のロシア金融危機など相次いだ世界金融不安から世界経済がどん底から上昇に向かう局面だった。

1998年後半には金融危機に瀕したアジア各国でIMF主導の金融引き締めが緩和され、1999年に入ると急速な景気回復が見られた。米国経済も1991年以来の長期好況が続き、世界経済は安定期にあった。1998年12月には決済通貨としてユーロの導入が始まるなど、経済のグローバル化による景気拡大期待が高まった時期でもある。


次の底値に向けた「最後の条件」

1999年は景気拡大に伴い欧米主要国の金利も上昇した。米国では景気の過熱と労働市場の逼迫(ひっぱく)に伴うインフレ懸念から金利高に。欧州でもロシア金融危機の影響から脱して国際金融市場が安定したことや景気回復期待から金利が上がった。1998年10月から1999年1月にかけての3カ月間で、長期金利は米国で2.5%、ドイツで2.0%、イギリスで1.7%も上昇している。

政治的には冷戦終結後、ロシアはソ連邦崩壊後の経済危機から立ち直っておらず、米国1強時代であったのに加え、米同時多発テロが発生する2年前で国際情勢も比較的安定していた。当時すでに成長著しかった中国も、まだ欧米や日本を脅かすほどの大国でもなかった。

総じて言えば(1)世界経済が好調 (2)金利高 (3)国際政治が安定しており、地政学的リスクが懸念されない-の3条件がそろった時に金相場は下落する。世界経済はコロナ禍の影響から脱して上昇局面にあり、欧米の長期金利も上昇しつつある。これらは金相場を引き下げる要因で、市場関係者には金相場がわずかながら下落するとの見方が有力だ。

残るは地政学的リスクだが、ウクライナ紛争がどのような結末になろうともロシアが国家崩壊しない限りは、リスクはくすぶり続ける。仮にロシアが国家崩壊したとしても、中国という地政学的リスクは残る。つまり1999年のように同1000円を切る大幅な金相場の下落は期待できそうにない。

金相場の低迷は「天下泰平」を意味する。その道のりは、まだまだ遠そうだ。

文:M&A Online