この記事は2023年9月15日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「ガソリン価格の高騰を招いた政府の補助金制度」を一部編集し、転載したものです。
(資源エネルギー庁「石油製品価格調査」)
2023年6月の「名目賃金」は、前年同月比2.3%と18カ月連続で増加した。しかし、「実質賃金」を求める際にデフレーターとして使用される消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)の6月分が、前年同月比でプラス3.9%と高くなった影響で、6月の実質賃金の前年同月比はマイナス1.6%と15カ月連続で減少した。現時点で適度な物価上昇と賃上げの好循環には、まだほど遠い状況だ。
帝国データバンクの「価格改定動向調査」によると、食品の値上げ品目数は22年10月にピークを付けたが、今年に入り、毎月値上げ品目数が大きく報道されている。8月31日には「9月に値上げ予定の飲食料品が2,067品目。今年1~9月の値上げは2万6,490品目となり、昨年1年間(2万5,768品目)を超えた」とのニュースが流れた。こうした報道は、消費マインド抑制の要因となる。
特に足元で注目されたのが、ガソリン価格の高騰だろう。ガソリン価格は、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国から成るOPECプラスの原油生産量の減産や、海外金利上昇による円安の影響を受け、21年後半以降急激に上昇(図表)。政府は22年1月、事態の抑制を図るため、ガソリン補助金を導入したことで、ガソリン価格は落ち着いたかに見えた。
しかし、資源エネルギー庁が8月30日に発表した「石油製品価格調査」によると、8月28日時点の全国平均のレギュラーガソリン価格は、1リットル当たり185.6円に達した。1990年の統計開始以降の最高値として2008年8月4日に記録した185.1円を更新した。
貿易統計の23年5~7月の入着原油価格(円ベース)を見ると、1キロリットル当たり平均単価が7万1,000~7万3,000円台で推移し、8月中旬(8月11日~20日)分も7万3,900円と落ち着いている。日本に入ってくる石油の価格に大きな変化はないのに、ガソリン価格が足元で跳ね上がったのは、政府が9月のガソリン補助金終了に向け、6月以降、補助額を段階的に縮小してきたからにほかならない。
岸田文雄総理は8月22日になり、ようやくガソリン補助金の延長を検討するよう与党に指示した。その検討の結果、岸田総理は30日の会見で、レギュラーガソリン価格を10月中に1リットル当たり175円程度に抑制するための補助金を拡充する方針を示した。9月7日から新しい激変緩和措置を発動し、年末まで継続されることになる。電気・ガス料金の負担軽減策についても、10月以降も継続するという。
しかし振り返ってみると、22年9月20日~23年6月12日まで全国平均のレギュラーガソリン価格は160円台で安定推移していた。岸田総理が目指すガソリン価格「175円」という数字には根拠が乏しく、今さらながら疑問を感じざるを得ない。
景気探検家・エコノミスト/宅森 昭吉
週刊金融財政事情 2023年9月19日号