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福原 正大(ふくはら まさひろ)
Institution for a Global Society株式会社代表取締役社長
慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行。フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)でMBA、グランゼコールHEC(パリ)で国際金融の修士号を最優秀賞で取得。筑波大学で博士号取得。2000年世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズ入社。35歳にして最年少マネージングダイレクター、日本法人取締役に就任。2010年に、「人を幸せにする評価で、幸せをつくる人を、つくる」ことをヴィジョンにIGSを設立。主な著書に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』(大和書房)、『AI×ビッグデータが「人事」を変える』(朝日新聞出版社)、『日本企業のポテンシャルを解き放つ――DX×3P経営』(英治出版、2022年1月11日刊行)など著書多数。慶應義塾大学経済学部特任教授、東京理科大学客員教授、一橋大学大学院特任教授を兼任。米日財団 Scott M. Johnson Fellow。Ethereum Foundation Next Billion Fellow。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

成功の裏側:福原社長が語るIPOそして人的資本

冨田: Institution for a Global Society株式会社は2010年に設立され、2021年に上場されましたが、その間の事業の進捗や経緯について教えていただけますか?

福原: 2010年には、教育分野で世界的に活躍する人材を育成することを目指した塾を創設しました。後に塾事業はZ会様に売却し、その資金を活かして、私達の原型となっている人の能力を、AIを活用して評価に関するバイアスを軽減させた形でよりフェアに評価する新たなシステムの開発に取り組みました。このシステムは2016年に「GROW」として発足し、2017年には人材分野にも展開し、「GROW360」としてリリースしました。そして2019年には子ども向け版GROWとして「Ai GROW」を立ち上げ、子どもから大人まで一貫した形で、人の能力を評価する教育を提供するようになりました。

これらは、現在大きなバズワードとなっている「人的資本」に関連しています。私たちは、人的資本を形成するために、子どもから大人までの人の能力を評価し、その上で教育を提供してきました。

Web3に向けた取り組みと教育機関との提携

冨田: これまでの時代の変遷を経て、特にWeb2からWeb3への変化に取り組んでいると思いますが、Web3に対応するための最近の取り組みを教えてください。

福原: Web3に関する最初の取り組みとしては、2020年に慶應義塾大学経済学部附属経済研究所FinTEKセンターが主催する実証実験「STARプロジェクト」として、ブロックチェーン基盤を作りました。「学生の個人情報を、学生自身の手に戻す」をテーマに、学習歴などのデータを誰にどれだけ開示するかを本人がコントロールできる仕組みです。私は慶應義塾大学経済学部の教員でもあり、2017年には東京大学、京都大学、慶應義塾大学、東京理科大学の4大学のVCから資金を得ておりました。IGSは、研究開発においてアカデミアの知見を含めてご支援を受けているという特徴があります。

冨田: 上場時の株主リストには河合塾など数多くの教育機関が入っており、珍しく感じますが、どのようなところと提携関係を築いているのでしょうか?

福原: 私たちは関西最大の塾である第一学院や第一ゼミナールを運営するウィザス様も大株主として入っています。このような教育機関との取り組みを通して、さまざまな分野で力を合わせて成長していくことができています。

独自データがもたらす競争優位性

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冨田: 福原代表が考える自社事業の強みや競争優位は何だと思われますか?

福原: 一番大きい強みは、私たちが多くの特許を持っており、独自の能力データを作っている点です。教育技術や人材技術の会社が多い中、実は独自データを作っているところは少なく、すでにあるものを利用しています。今の時代はchatGPTのような技術がでてきており、多くの物事がAIによって置き換わってしまう可能性すらあります。しかし私たちは、自分たちの基準で子どもから大人まで共通基盤の能力データベースを作っており、これが圧倒的な優位性を築いています。世界的にも人間が人間を評価するデータを持っている会社はほとんどなく、東京大学エッジキャピタル様などが弊社に投資を行った最大の理由はその点です。そのための様々な特許技術やノウハウやデータを持っていることが私たちの強みだと考えています。

冨田: 教育から始まって、エドテックという大きなマーケットに入っているのは、どのような経緯があるのでしょうか?

福原: スタートは、私がバークレイズ・グローバル・インベスターズ(現ブラックロック・ジャパン)という会社にいたことが関係しています。私はデータをどう作るのかというところに興味を持っていましたが、その中でも特に一人の人間が子どもから大人までどう成長していくのかという点に最も興味がありました。教育産業と人材産業は分かれていますが、私たち一人一人は人生を通じて成長し、それをデータ化し続けることは本人にとっても大きな価値をもちます。そして、私たちは教育をスタートにしているため、最初の時点からデータを取ることができたのです。正しいデータをつなげていくためには、そのデータ構造を相当細かく定義しておかなければならず、私たちはその基盤を作り込んでおり、これが競争優位につながっていると考えています。

経営の最大のポイントはビジョンとパーパス、そして優秀なチーム作り

冨田: これからの人的資本経営のど真ん中で大変な可能性があると感じました。 経営者として、また経営チームとして、重視している点があるとは思いますが、その中で1番重視しているところはどのような点でしょうか?

福原: 1番重視している点は、私たちのパーパスやビジョンに沿っているかということです。私たちの会社には特に、エドテック・HRテックや教育・人材領域で働く人たちが多いので、想いを持って働くひとが多いです。その中で、ビジョンやパーパスに沿った決定を行わないといけません。そのため、それを土台にした決定を重視しています。

冨田: なるほど、ビジョンとパーパスが土台となっているんですね。他に重要な点は何でしょうか?

福原: 2番目に重要な点は、自分より優秀な人物でチームを固めることです。私が尊敬するアメリカ人の上司が、リーダーは自分より優秀な人物で周りを固めるべきだと言っていました。私も同じ考えを持ち、私よりも教育やHRで能力の高い人がいれば、彼らに決定を任せることができます。ただ、彼らが決定を行う基準として、ビジョンとパーパスがしっかりとしていなければなりません。つまり、そこだけをずらさないような作り込みに相当な時間をかけています。

持続可能な社会を実現するというパーパスとビジョン

冨田: 御社のパーパスとビジョンをどうやって作られたか伺えますでしょうか?

福原: 時間も含め、かなりの力を入れて、このパーパスとビジョンを作りました。最初に作ったのは一行で誰もが描ける世界を作るためのビジョンです。それは、「人を幸せにする教育と教育で幸せを作る人を作る」ことで、常に原点に戻れるように考慮して作りました。おかげで、ビジョンの実現がだんだん見えてきたと感じています。chatGPTを含む今の世の中は、ユートピアとディストピアのどちらになるのか、より考えないといけないと感じています。このビジョンが達成しているときはちゃんとユートピアなのかというところを明確にしたいのです。そして「人を幸せにする評価と教育で、幸せを作る人、を作る」というビジョンを追求し続けることで、パーパスである「分断がなき持続可能な社会を実現するための手段を提供する」ことが作り出されました。

冨田: なるほど、ユートピアが明示されているからこそ、手前のビジョンに全力で取り組むことができるわけですね。それは、非常に継続性や連続性が生まれると感じました。

哲学に基づく経営判断と経営ビジョン

冨田: 代表取締役社長としての経営判断力は、時間をかけて詳細に考えることによって高まったのでしょうか。ご自身のルーツやバックグランドがどのように影響していると感じになりますか。

福原: 確かに、よく考え抜くことが経営判断力を高めた要因の一つかもしれません。自分のルーツやバックグランドについては、中学・高校の頃から哲学が好きな点にあります。学び始めたのは高校の時で、フランスの哲学の教科書でした。フランスでは哲学が唯一理系文系共通での必修教科なんです。その教科書に感銘を受けて、フランス留学を決めました。

哲学的思考にとても感動し、デカルトからの学びで、ありとあらゆることを疑ってみることが大切だと感じていました。高校時代にカントの観点から、自由とは自分が生きたいように生きることだけでなく、社会的に与えられた使命通りに生きることも大切だと感じました。また、セネカの著書から、人生の短さを認識することも重要だと感じました。

経営においても哲学的な要素を重視していくことが、私のバックボーンになっており、経営におけるコアやビジョンにもなっています。例えば、「北極星を見つける」というような目標に哲学的な側面が見て取れますし、それが自分の中のバックボーンになっていると考えています。

哲学とビジネスの交差点

冨田: バークレイズの時のデータよりも、前の哲学との関係がINSEAD(欧州経営大学院)やフランスのHEC Paris(アシュ・ウ・セ・パリ)に行くきっかけだったということですか?

福原: 哲学への興味が先にあります。例えばパーパスとビジョンは、多様な思想からインスピレーションを受けています。

冨田: 会社を通じて新しい哲学や思想を世の中に伝えていくという役割があるということですか?

福原: 仲間やステークホルダーと共にビジョンやパーパスを実装し、世の中を変えていくかということを考えていますし私たちが考えるユートピアの実現に近づく。これを思想や哲学を広げるととらえることもできるかもしれません。

中長期的な取り組みテーマ

冨田: 今後、中長期的に取り組んでいくテーマや具体的なトピックについてお聞かせください。

福原: 人的資本に注力していきたいと考えています。日本は教育の質や人を大切にすると言っていますが、バブルが弾けて以降企業の人的投資が低下しました。私たちは教育やHRや人的資本に関わることが、未来においても揺るがないものだと考えています。また、ブロックチェーンやWeb 3の世界において、個人があらゆるデータをコントロールできる権限を持つべきだと思っています。これまでプラットフォーマーに委ねてきましたが、便利になった一方で多くの力を持ちすぎているいる側面もあるため、もう少し自律的なものに戻す必要があると考えています。わたしたちがベースとしているゲーリー・ベッカーは、個人がデータや人的資本の責任を持っていくことが大事と言っています。個人が自立的にそれらをコントロールする世界を将来的に目指していきたいと考えています。

未来の事業拡大構想と多様性

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冨田: ありがとうございます。人的資本やWeb3にしても、この自由が思想の中心だと感じました。これからの未来の事業拡大の構想についてお聞かせいただけますか?

福原: まず一つ目に、エコシステムを作ることが重要で、分散的な大きなエコシステムを作っていきたいと思っています。二つ目に、最近、海外の案件を多くいただいているので、積極的に海外展開していきたいというのが事業拡大の大きな方向性だと思っています。

冨田: それは興味深いですね。最終的にはHRや教育分野にも広がるのでしょうか?

福原: そうですね。時系列的なつながりがあると考えています。例えば、子どもが生まれたら、親が彼らに勉強をさせるためにGROWを使ってもらい、最後には自分で持続的にキャリアを含めて成長し続けることができるような世界観になるとイメージしています。そして、それが広がることで、自分の多様な可能性を広げていく未来が実現されるでしょう。これは日本だけでなく、世界各地で広がっていくことを願っています。

冨田: 生まれる前から教育が始まっているとも言えますし、高齢者も教育が必要だと思わされますね。

持続的な社会の実現と株主へのメッセージ

冨田: LINE上のユーザーや、提携メディアにも配信される想定ですが、投資家の方たちを中心に拝見していただくことになりそうです。そういった視点で一言お願いできますでしょうか。

福原: 多くの株主の皆様のお力によって、分断のない持続的な社会をつくることができます。私たちは、より多くの方々がオープンにつながっていくことが重要だと考えています。このようなメディアの方々のご取材によって、広くつながっていけることを、本当に感謝しています。

冨田: お話をお聞きして、とても濃密な30分だったと感じました。自由や思想といった言葉が出てきましたが、これこそが福原社長が求める方向性でしょうか。

福原: そうですね。長い歴史の中で人間は自由を求めてきましたし、それを実現するための武器を提供することが重要だと考えています。今回のインタビューで、うまく引き出していただけたと思います。お話させていただきありがとうございました。またの機会があればよろしくお願いいたします。

冨田: ありがとうございました。

プロフィール

氏名
福原 正大(ふくはら まさひろ)
会社名
Institution for a Global Society株式会社
役職
代表取締役社長