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(画像=鈴茂器工株式会社)
鈴木 美奈子(すずき みなこ)
鈴茂器工株式会社 代表取締役社長
父である創業者の鈴木喜作氏が設立した鈴茂器工株式会社に2003年入社。2017年に3代目の代表取締役社長に就任。顧客ニーズや社会情勢などがめざましく変化する中、経営ビジョン『食の「おいしい」や「温かい」を世界の人々へ』を胸に、新たな価値創造に向けた「オープンイノベーション」を推進するなど、自前主義へ拘らない経営手法を積極的に取り入れ、事業拡大に取り組んでいる。
鈴茂器工株式会社
1961年に製菓機械メーカーとして創業、1981年に世界初の寿司ロボットを開発、寿司の大衆化に大きく貢献、米飯加工機械メーカーへと業容を転換。2003年にご飯盛付けロボットを開発、丼チェーンなどでは同製品でご飯を盛り付けることがスタンダードになっている。現在、世界の約80ヵ国以上の外食や小売業などの事業者に同社製品を販売。また、米飯加工の領域だけでなく、食産業のトータルソリューションに向けた事業拡大を目指している。

事業の変遷について

―鈴茂器工株式会社の歴史について教えていただけますか?

当社は1961年にお菓子の機械製造業として設立されました。具体的には、あんこを計量したり包む機械などを製造していました。しかし、1981年に世界初の寿司ロボットを開発し、市場に投入したことで、お菓子の機械製造から米飯加工機械へと事業の方向性を変えました。

―なぜお菓子の機械製造から米飯加工機械へと事業を転換したのですか?

1970年代には減反政策があり、これにより米の生産量が国からコントロールされ、価格もコントロールされるようになりました。これを見た創業者は、消費量を上げることで流通を改善できると考えました。その結果、寿司ロボットの開発に至ったのです。 当時の寿司は高級品で、特別な日やイベントがなければなかなか食べることができませんでした。しかし、寿司ロボットを作ることで、大量に寿司を作ることが可能になり、いつでもどこでも美味しく安く寿司を食べることが可能になりました。その結果、寿司の大衆化を実現し、米の消費量を増やすことができました。

―現在はどのような製品を製造していますか?

現在では、寿司ロボットの他にも、海苔巻き機、いなり寿司機など、寿司に関連する機械を幅広く製造しています。また、米飯加工機械の企業として、ご飯を盛る機械も製造しています。

日本の大手牛丼チェーン店では人がご飯を盛っていないということを知っていましたか?店舗では我々の製造した機械で盛っています。私たちは、日本だけでなく海外でも、自動でご飯を盛る機械を提供しています。

―また、大型の機械も製造しているとのことですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?

大型機としては、コンビニエンスストアやスーパーマーケットで使われるお弁当の製造に活用されるものがあります。容器の形状によってご飯の形が異なるので、それに合わせてご飯を盛る機械を提供しています。

―私の近所のお弁当屋さんでは、人手不足で土日を休むようになりました。そういった人手不足の問題に対する解決策として、あなたの会社の機械は役立っているのでしょうか?

はい、その通りです。現在、人手不足は深刻な問題となっており、私自身も外食をする際にその現状を目の当たりにしています。例えば、あるチェーン店では人手不足によりオーダーから何十分も待たされたり、一部のメニューが提供されていないという状況があります。

―人手不足の問題は、コロナ禍を経てより深刻化していると思いますが、どのように捉えていますか?

コロナ禍により、国内外問わず人手に依存する作業を機械に置き換える動きが急速に進んでいます。ロックダウンが解除されても、解雇された人々が戻ってこない現状があります。そのため、人手不足でやりたいことができないという状況から、機械による作業へと移行しているのです。この問題は海外の方が大きいと思っていましたが、日本でも同じような状況が広がっていることを実感しています。

鈴茂器工の強み

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(画像=鈴茂器工株式会社)

―御社の強みは何でしょうか?

私たちの強みとしては、寿司ロボットのシェアが国内で約80%以上、海外では80カ国以上に及んでいることです。また、大手の回転寿司チェーン店には、寿司だけでなくご飯盛付けロボットもご利用いただいています。さらに、牛丼チェーン店や丼系のチェーン店、天ぷら店、とんかつのチェーン店などにも導入されています。

「Fuwarica」というブランド名で、定量にふんわりと美味しく盛り付けることを目指しています。そして、フードロスの問題にも貢献しています。例えば、ホテルの朝食ビュッフェでは、お客様自身が好きなだけのグラム数を設定して、自分で盛り付けることが可能です。これにより、食べ残しを減らし、フードロスの削減につながっています。

海外展開においても、88カ国での実績と経験値があることが強みとなっています。また、日本の企業が海外進出する際に、トータル的なサポートが可能となっています。これらが、我々の強みだと考えています。

海外への挑戦

―海外市場においては、日本食が既に浸透している国を中心にビジネス展開している、という理解で良いですか?

はい、その通りです。海外への輸出が始まってからかなりの時間が経過しており、国によっては、アメリカのように独自の食文化を生み出しているところもあります。

アメリカでは、握り寿司よりもロール寿司が主流です。特にドラゴンロールやカリフォルニアロールなどが人気です。ロール寿司は、海苔を隠し、ご飯を外側にして巻き上げ、カラフルな食材をトッピングとして添えて提供します。

伝統的な寿司を提供し、それを理解してもらうことはもちろん大切です。しかし、その国独自の美味しさを尊重し、それを失わせてはならないと考えています。私たちの製品を通じて、その国の美味しさを発見してもらえることも素晴らしいことだと思っています。

―以前、香港に駐在していた時の話ですが、寿司店で食中毒が発生することがありました。その原因として、ゴム手袋を使用して寿司を握ることが挙げられていました。手を洗わなくなるため、逆に衛生面で問題が生じるという話を聞いたことがあります。これは、寿司ロボットが解決できる問題でしょうか?

はい、その問題は寿司ロボットが解決できます。しかし、ゴム手袋を使用するのは、お客様が人の手で握られた寿司に抵抗感を持っているからです。そのため、寿司ロボットの使用は衛生面での改善だけでなく、お客様の心理的な抵抗を取り除く役割もあります。

また、ホテルの朝食ビュッフェでは炊飯器の蓋を開けたままにしたり、しゃもじを置いたままにした光景が見られますが、衛生面ではやはり気になりますよね?この様な問題も私たちが提供する「Fuwarica」が解消します。コロナにより衛生意識が高くなった現在、これは高く評価されています。

地域での取り組み

―それは興味深いですね。では、地元での取り組みはどうですか?グローバル展開とともに、地元とのつながりも重視していると思いますが。

その通り、地元とのつながりは重要です。私たちの工場は埼玉県の川島町にあり、全ての製造はそこで行っています。地元との交流を深めるために、社会科見学や工場見学を開催しています。コロナウイルスの影響で一時休止していますが、毎年多くの小学生が私たちの工場を訪れています。

―それは素晴らしい取り組みですね。地元の子供たちにとって、実際の製造現場を見ることは大変重要な体験になるでしょう。

確かにそうです。実際に、小学生の時に工場見学に来て楽しかったという子供が、高校卒業後に私たちの会社に就職することもあります。また、川島町のお祭りの際には、私たちの製品を体育館に持ち込み、地元の皆さんに私たちの商品を提供することも行っています。これもコロナウイルスの影響で一時休止していますが、再開する予定です。

―その機械の導入により、寿司業界にどのような影響を与えたのでしょうか?

回転寿司の市場が拡大しました。実は、回転寿司は寿司ロボットが開発される前から存在していました。しかし、私たちの機械の導入により、寿司の価格を抑えつつも品質を維持することが可能になり、回転寿司業界は大きく成長しました。今では、大手回転寿司チェーンの社長から、「あなたたちの機械がなければ、私たちは仕事ができない」というような言葉をいただくこともあります。

将来のビジョン

―現在思い描いている未来のビジョンをお聞かせください。

2021年の10月に、我々はPOSシステムやセルフオーダーシステムなどを開発・販売する日本システムプロジェクトをグループ化しました。これにより、我々の事業は厨房から、店舗全体の効率化へと進化しました。我々の厨房機器と日本システムプロジェクトの技術を組み合わせることで、飲食店向けのトータルソリューションを提供することが可能になりました。

しかし、我々はこれまで自前主義を貫いてきました。自分たちで考え、自分たちで作り、自分たちで販売するというスタイルを続けてきました。しかし、今は違います。新たな企業と組むことで、自分たちだけで行うと5年かかることが1年でできるということを理解しました。そのため、協業や共創を前向きに考えるようになりました。もちろん、我々の主力事業である米飯加工機械の製造は続けますが、新たな事業も立ち上げていくつもりです。

―ビジョンとしては、『食の「おいしい」や「温かい」を世界の人々へ』ということがあると思いますが、それは具体的にどのようなことを意味しているのでしょうか。

そのビジョンは、日本だけではなく世界の人々に美味しさを伝えたいという思いから来ています。機械であっても、それができる会社、企業でありたいと考えています。この広い世界の中で、いつどこで食べても美味しいお寿司と美味しいお米が食べられることを目指しています。

読書へのメッセージ

―それは素晴らしいビジョンですね。では最後に、読者へのメッセージをお願いできますか。読者は投資家や企業経営者も多いですし、広い意味での読者メッセージとしてお願いします。

難しいことを言うつもりはありませんが、今、人的資本という言葉がありますが、経営者として、人を大切にすることが重要だと思います。私自身もそうありたいと思っています。 一人一人が輝ける企業とは、従業員が幸せであることを意味します。幸せとは人それぞれ価値観が異なりますが、給料が良いこと、健康であること、働く環境が良いこと、そして何よりも自分のやりたい仕事ができることが一番の幸せではないかと考えています。輝く社員たちが価値を生み出し、それが組織となって企業を形成します。私たちの企業はその価値を生み出し、育てていくことが必要です。そうすることで企業価値や持続的成長につながると思います。

―貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。

氏名
鈴木 美奈子(すずき みなこ)
会社名
鈴茂器工株式会社
役職
代表取締役社長