ブリッジファイナンスが日本のスタートアップを加速させる。‐ファクタリングサービス「PAYTODAY」が担う資金調達のポジショニングとは
田中 美雪(Dual Life Partners株式会社 取締役)
話をお聞きした人:田中 美雪(Dual Life Partners株式会社 取締役)
大学で会計ファイナンスを学んだ後、銀行で法人営業を担当。フリーランスや中小事業者の資金調達方法が限られている現状を見て、2016年にファクタリングサービス会社のDual Life Partnersを設立。2020年に取締役に就任する。現代のライフスタイルの多様化に即した、フリーランスや中小事業者を支援するサービスを提供。

時代の移り変わりとともに、フリーランスや起業という手段を取る人々が増えている。これに伴い、中小事業者の資金調達も多様化が加速。クラウドファンディングなど銀行融資以外の手法やサービスを選択することが可能になっている。

そんななか、資金調達の手段の1つとして市場が拡大しているのが「ファクタリングサービス」だ。銀行融資とは違った「借りない資金調達」として、注目度が急上昇している。

今回は、ファクタリングサービス「PAYTODAY(ペイトゥデイ)」を提供するDual Life Partners取締役の田中美雪さんに、ファクタリングサービスの現状やメリットデメリット、適切な活用方法などについて話を聞いた。

目次

  1. 働き方の多様化や社会環境の変化から、ファクタリング市場が拡大
  2. ファクタリングサービスの活用で、ベンチャー企業でもチャンスを逃さず投資できる
  3. 銀行融資に比べ手数料は高い。企業の活用する時期は限定的

働き方の多様化や社会環境の変化から、ファクタリング市場が拡大

PAYTODAY特別インタビュー

――近年、「ファクタリングサービス」の市場が拡大していると聞きました。しかし、一般の人にはあまり馴染みがないと思います。まずは、「ファクタリング」がどのようなものか、教えてください。

ファクタリングは、請求書(売掛債権)を売却することで資金が得られる資金調達の方法の1つで、「請求書の買取サービス」というと、わかりやすくなるかもしれません。お金を受け取る権利(売掛債権)をファクタリング事業者に売却し、早期に請求書を資金化する資金調達方法です。ファクタリングは、まだ日本では馴染みが薄いかもしれませんが、フランスやドイツ、イギリスといった欧州では広く普及しているサービスです。

――どのような請求書でも買取の対象になるのでしょうか。

基本的にはモノやサービスの売買、いわゆる商取引で発生した請求書であれば、ほぼ対象になると考えていただいてかまいません。ただ、海外企業の請求書を対象とした「国際ファクタリング」は、大手銀行系列など一部の会社でしか取り扱っておらず、PAYTODAYでも、基本的には国内の請求書が対象になります。

――世界全体では、2022年のファクタリングの市場規模が3兆3000億ドル(478兆5,000億円)と、巨大なマーケットになっています。それにも関わらず、これまで日本でファクタリングがあまり普及してこなかったのはなぜでしょうか?

日本にはじめてファクタリングサービスが登場したのは、1970年代とされています。ただ、日本では「約束手形」という日本独自の慣習が根付いていたため、あまり広がらなかったようです。最近になって、ようやく普及が始まったという印象です。

――最近になって、日本でも利用者が広がりつつある理由は何でしょうか。

近年、日本では働き方の多様化によってスタートアップやベンチャー企業が増えるのと同時に、クラウドファンディングやエンジェル投資など、資金調達の面でも多様化が進んでいます。ファクタリングは、スタートアップやベンチャー企業など、創業初期の会社にとってより便利なサービスでして、そうした若い企業の資金調達の手法の1つとして、広がりを見せているのでしょう。

また、2020年4月の民法改正によって、地方銀行とファクタリングサービスの会社の提携が進んでいることも、市場拡大のきっかけになっていると思います。2020年に民法が改正され、「債権譲渡禁止特約」がついている債権や、まだ支払期日など請求書の内容が固まっていない「将来債権」の譲渡、つまり売却することができるようになりました。ファクタリングも債権譲渡の1つなので、扱える債権の種類が広がったのは、ファクタリング業界にとっていいことです。ただ、将来債権を扱うかについては、ファクタリング事業者によってまちまちのようですね。

――銀行のファクタリング事業への参入が増えているんですね。

民法改正に加えて、政策による影響も大きいと思いますね。政府は2026年に「約束手形」の廃止や小切手の全面電子化をする方針を掲げています。もともと、約束手形や小切手は利用者が減っていたのですが、2026年以降は約束手形そのものが使えなくなるんです。

これまで、「手形割引」という言葉があるように、日本では約束手形の売買が行われていて、資金の流動性をもたらしてきました。その約束手形が廃止されることが、ファクタリングサービスに参入する会社が増えている理由の1つと言えるでしょう。大手金融機関に関しては、自社グループでファクタリングサービスを展開するところが増えています。大手銀行の新規参入によってファクタリングの信用度や知名度も上がりますから、これも昨今のファクタリング市場の拡大につながっていると思います。

こうした事情や環境が相まって、ファクタリングサービスは「ブリッジファイナンス」、ある限られた期間の資金調達の手段として、注目度が上がっているのだと思います。

――「ブリッジファイナンス」も聞き慣れない用語です。教えてください。

ブリッジファイナンスは、日本語で「つなぎ融資」などと訳されます。ただ、つなぎ融資というと、資金繰りが厳しいなど、融資を受ける企業がネガティブな印象を持たれかねません。しかし、ブリッジファイナンスは、成長のために必要な資金を一時的に調達するというポジティブな意味での融資も含みますね。

ファクタリングサービスの活用で、ベンチャー企業でもチャンスを逃さず投資できる

PAYTODAY特別インタビュー

――「ファクタリングサービスはスタートアップやベンチャー企業など、創業初期の会社にとって便利なサービス」というお話しでした。いったいどんなところが便利なのでしょうか?

ファクタリングサービスを活用する最大のメリットは、資金調達の「スピード」ですね。中小事業者にとって最大の資金調達先は、やはり銀行融資となります。そして、その他の資金調達の手段として、クラウドファンディングやエンジェル投資家による投資、ベンチャーキャピタルからの投資、ほかにも関係の深い相手からの出資などが挙げられますが、融資や出資は、実際に資金を受け取るのに時間がかかります。

手元資金が豊富な大手企業であれば、急を要する支出があった場合でも対応できるでしょう。ただ、創業初期の会社や中小事業者では、いきなりまとまった額が必要になったときに対応できない可能性があります。

――請求書を発行した場合、そのお金が振り込まれるのは、基本的に1ヵ月から45日ほどかかりますよね。そうなると、「この請求書のお金が振り込まれれば払えるのに」というケースが出てきそうです。

そうなんです。でも、ビジネスチャンスは、いつ訪れるかわかりません。起業して間もない会社の場合、取引先や案件が急に増えたり、広告を出稿する必要が発生したりと、短期間に事業規模が広がる時期があるものです。ところが、それに応じるための手元資金がないという理由で、泣く泣くビジネスチャンスを手放すケースは少なくないでしょう。

この記事に目を通していただいている経営者の方々のなかには「あのチャンスを生かすための資金さえあれば、もっと早く成長できたのに」といったようなご経験をされた方も、きっといらっしゃるはずです。

――そういうときこそ、ファクタリングサービスの出番ということですね。

そのとおりです。先ほども申し上げたように、ファクタリングサービスの最大の強みは「スピード」、これに尽きるといっても過言ではないですね。会社によって多少の違いはあるでしょうが、たとえば当社のPAYTODAYでは「即日対応」の入金も可能です。急にまとまった資金が必要になったとき、非常に便利なサービスだと思います。

銀行融資に比べ手数料は高い。企業の活用する時期は限定的

PAYTODAY特別インタビュー

――ほかに、ファクタリングサービスを活用するメリットはありますか?

場合によっては、銀行の融資より大きい金額の資金調達が可能なことと、銀行融資が受けられずに頭を悩ませている会社でも、ファクタリングサービスなら利用できることですね。PAYTODAYでは、1取引4,000万円以上の入金実績もあります。

銀行融資においては、会社の財務状態や信用力によって受けられる金額が変わります。バランスシートや過去の実績が重視される傾向があるので、足元の急激な業績拡大は考慮されず、“いま”必要な融資額が受けられない可能性があります。

――足元の業績の急拡大は、その期の決算が閉じないと、決算書には反映されないですからね。

それに、1期のみ業績が急拡大したとしても評価されない可能性もあります。成長が継続してはじめて、融資金額に反映されるわけです。

対して、ファクタリングサービスで重視されるのは、「請求書」と「取引実績」です。もちろん、決算書や確定申告書などを提出する必要はありますが、銀行融資が受けられない会社でも、手元の請求書に応じた金額を得ることが可能です。

――それは、確かに創業して間もないベンチャー企業やスタートアップ事業者にハマりそうなサービスですね。

おっしゃるとおりです。起業された方々の話をうかがうと、スタートアップやベンチャー企業にとって、銀行融資は意外に“狭き門”であることがわかります。これは、私自身も起業に携わりまして、身をもって体験しました。

でも、起業してしばらくの「伸び盛り」の時期は、目の前に多くのビジネスチャンスが転がっていることが多いです。そのビジネスチャンスをしっかりものにするのに、ファクタリングは“ハマる”サービスだと個人的にも思います。

もちろん、新興企業でなければ利用できないサービスではありません。個人事業主や中小事業者が資金不足している局面において、目の前のチャンスを逃さないためにも、ファクタリングサービスを活用していただきたいですね。

――バランスシート上は、ファクタリングサービスはどのような扱いになりますか?

バランスシート上、銀行融資は「負債」になりますが、ファクタリングは「資産の部」に記載される売掛金が現預金になるだけなので、資産・負債の額に変化はありません。資産を活用して資金を調達するだけなので、「お金を借りる」行為とは別物なんです。そのため、ファクタリングは「借りない資金調達」とも呼ばれています。

――では、ファクタリングサービスのデメリットは何でしょうか。

デメリットとしてまず挙げられるのが、手数料の高さでしょう。ファクタリングサービスの手数料は、一般的に1~20%程度と幅広いのが特徴です。銀行融資などと比べると、スピードが速い代わりに、手数料が高くなっています。

ファクタリングサービスでは、サービスを提供する会社や事業者の状況、サービスの種類などによって、手数料が大きく変わります。

また、ファクタリング会社への返金時期は売掛債権の支払い日に依存します。利用者は売掛金を回収後、すみやかにファクタリング会社に支払う必要があります。

――1ヵ月から数ヵ月程度の返済期間で金利20%と考えると、年利ではかなり高くなりそうですね。

融資とはまったく性質が異なるので“年利”で考えるということに意味はあまりありません。ファクタリングはあくまで“一定期間のつなぎの資金調達”と考えるべきで、年間を通して使うサービスではないと考えています。

ただし、ファクタリングはあくまで「請求書の売り買い」なので、金利ではなく手数料という言葉が使われますが、確かに銀行融資と比較すると手数料は高くなります。

ファクタリングは、銀行融資では不可能な即日入金にも対応可能であり、用途が違うものですので、手数料だけで比較するのはナンセンスではあります。

とはいえ、不透明で高額な手数料はお客様も不安に感じると思いますので、私たちのファクタリングサービス「PAYTODAY」では、お客様に安心してご利用頂けるよう手数料は最低1%から、上限は9.5%に設定しており、一桁代の手数料をお約束しています。

このほか、ファクタリングサービスの活用が取引先に知られることで、「資金繰りが厳しいのか」などと思われる可能性があること、また、請求書の金額以上の資金を調達することができないことなども、デメリットとして挙げられると思います。なお、PAYTODAYでは、取引先にファクタリングサービスの利用を通知しない2社間ファクタリングも対応しています。

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ここまで、ファクタリングサービスについて、そして、メリットやデメリット、どのような会社が利用するべきなのかなどについて話を聞いた。働き方の多様化や社会制度の変化、法改正などの追い風を受けてファクタリングサービスへのニーズは拡大しており、今後も新しい資金調達の手段として、創業初期のスタートアップやベンチャー企業向けを中心にニーズの増加が期待される。

ファクタリングサービスは、資金不足からくるビジネスチャンスの逸失を防ぐメリットがある半面、手数料が高く、長期的な利用には不向きなようだ。後半では、引き続きファクタリングサービスの詳細に加え、Dual Life Partners株式会社が展開するファクタリングサービス「PAYTODAY」の魅力について、田中美雪取締役に話を聞く。