この記事は2023年9月27日に「The Finance」で公開された「インパクト投資とは? ESG投資との違い、動向、事例などをわかりやすく解説」を一部編集し、転載したものです。


本稿では、インパクト投資とESG投資の違いやインパクト投資の持つ課題と国内外の動向、事例までインパクト投資について知っておくべきポイントに絞って解説します。

目次

  1. インパクト投資とは?
  2. インパクト投資の4つの構成要素
  3. インパクト投資とESG投資の違い
  4. インパクト投資が求められる背景
  5. インパクト投資の課題
  6. インパクト投資の動向
  7. インパクト投資の事例
  8. まとめ

インパクト投資とは?

インパクト投資とは? ESG投資との違い、動向、事例などをわかりやすく解説
(画像=doidam10/stock.adobe.com)

インパクト投資とは、「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資」のことです。インパクト投資の特徴は、リスク、リターン、インパクトの3要素で価値判断されることが挙げられます。これまでの投資行動は、リスクとリターンという2つの軸によって判断されてきましたが、インパクト投資にはこの2つの軸に加えて、「インパクト」という新たな軸が取り入れられました。

インパクト投資に関わる用語の意味としては、「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」の中で、以下のように定義されています。

用語 定義
インパクト 事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果(短期、長期を問わない)
社会的インパクト投資 社会的インパクトを定量的・定性的に把握し、事業や活動について価値判断を加えること
インパクト投資 社会面・環境面での課題解決を図ると共に、財務的な利益を追加する投資行動のこと。投資(株式・債券)、融資、リース等、財務的リターンを求める一切の金融取引をまとめて「投資」と呼ぶ。寄付・補助金・助成金等は対象外とする

つまり、環境や教育、貧困などの社会的課題を解決する事柄に関して投資を行うのと同時に、経済的な利益も追求する投資行動が「インパクト投資」になります。そのためインパクト投資では、リスクとリターンの指標に加え、投資の際には社会的投資回収益(SROI)という指標が用いられます。

社会変革推進財団(SIIF)の「インパクト投資の国内外の最新動向」によれば、インパクト投資のグローバルにおける市場規模は、2017年から2022年の5年間で約10倍に拡大しています。
国内市場においても、2022年9月時点での投資残高が3兆8,500億円となっており、高い関心が寄せられ、今後も拡大していくことが予想されています。

※参考:インパクト投資、国内3兆円超

インパクト投資の4つの構成要素

インパクト投資を構成する要素としては、以下の4つが挙げられます。

<4つの構成要素>
要素 意味
意図があること 社会的な課題を解決する、あるいは貢献するという意図があること
財務的リターンがあること 社会的リターンに加えて、財務的なリターンを目指すものであること
広範なアセットクラスを含むこと アセットクラスと呼ばれる、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券、融資など、多様な資産に投資を行うこと
インパクト評価を行うこと 社会面・環境面から成果を定量的・定性的に把握し、その成果を持って投資戦略のマネジメントがされていること

この4つの構成要素は、前章で取り上げた「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」を発行している「The Global Steering Group for Impact Investment (GSG)」において、定義されています。
GSGは、2015年8月に現在の名称になったインパクト投資を推進するグローバル組織です。前身は2013年に先進国首脳会議(G8)の当時の議長国である、英国キャメロン首相によって創設された「G8インパクト投資タスクフォース」になります。
GSGは現在、日本を含めた30を超える国と地域が各国諮問委員会(National Advisory Board)として参加しており、市場におけるルールの定義などを行なっています。

インパクト投資とESG投資の違い

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、統治(Governance)の頭文字をとった投資手法のことです。インパクト投資と比較すると、ESG投資もサステナビリティ(持続可能性)やレスポンシビリティ(責任・責務)の実現を目指すことは共有しています。
しかし、「目的の違い」と「インパクト測定の有無」があるかどうかが、インパクト投資と異なる点です。インパクト投資は社会的課題を解決する投資になっているかに重きを置きますが、ESG投資では中長期的に企業価値が向上するか、投資リターンが向上するかを目的としています。
また、企業の活動が社会や環境にどれくらいの影響を与えたかを可視化する「インパクト測定」も、インパクト投資では必須となっていますが、ESG投資では測定や可視化は行われないケースが多いです。
インパクト投資とESG投資は、目指すべき目標は共有していますが、その目的などは異なっているのが異なる点です。

インパクト投資が求められる背景

(1)SDGsの達成に向けた国際的な取組の推進

2015年9月、国連総会にて持続可能な開発目標である「SDGs」が採択され、国際的な取り組みが広がっています。SDGsは環境問題や貧困などの社会的な課題を解決するために、17の目標と169のターゲットが設定されているものです。
SDGsを達成するためには毎年約5〜7兆ドルが必要とされており、インパクト投資の活用によって、民間資金が流入し、投資が促進されることが期待されています。実際にスイスに設立されたUBSは、SDGs達成に向けたコミットメントの一環として2017年から5年間で5億ドルをインパクト投資に回すと意思表示を行っています。

(2)気候変動への対応

地球温暖化をはじめとした気候変動への対応は、金融ビジネスにも大きな影響をもたらします。なぜなら気候変動への対応を疎かにしてしまえば、自然災害から食料不足まで、さまざまな深刻な問題をもたらし、投資利益の毀損につながる可能性があるからです。
世界的にも温室効果ガスである二酸化炭素の排出量ゼロを目指す脱炭素社会への取り組みが加速しており、多額の資金調達のために投資家の行動が非常に重要になってきています。
投資家の中にも、気候変動による企業の潜在的なリスクを見ていきたいというニーズが増えてきています。そのため企業側はTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の開示を行うなど、気候変動に対する取り組みを公表する動きが広がってきています。
TCFDについての詳細は、以下の記事にまとめているので合わせて参考にしてください。

※参考:TCFDとは?概要・国内外の事例まで総解説【2022年版】

(3)ジェンダー投資への高まり

ジェンダー投資とは、男女平等な社会を推進するための投資のことです。具体的には女性の地位向上を推進し、経済的な立場や社会的立場の向上を支援する取り組みになります。
実際に内閣府男女共同参画局が発表した「女性活躍とSDGs」の中では、約7割の機関投資家が「企業の業績に影響があるため」として、女性活躍情報を投資判断に活用するとしています。
SDGsの目標の中にも、ジェンダー平等があり、ジェンダー投資に対する世界的な動きも加速しています。また、ジェンダー投資は女性の社会的地位向上のみならず、移民などの不当な差別を受けてしまう人々に対しても効果があるため。インパクト投資との親和性も高いとされています。

インパクト投資の課題

インパクト投資をより推進していくなかの課題として、以下の3つの課題があります。

  • 認知と理解の不足
  • 社会的基盤の不足
  • プレーヤー不足

これらの課題はそれぞれ独立したものではなく、インパクト投資の推進に向けて密接に関わりあっている課題と言えます。
認知と理解の不足では、インパクト投資という単語についての認知度がまだ十分に広がっていないことが課題となっています。具体的には、一般市民への認知の不足はもちろんのこと、金融機関における認知と理解の不足、機関投資家においては世界の潮流が変化しているにも関わらず、理解が追いついていないなどが挙げられます。また日本社会には「投資」そのものが浸透していないことに加え、無関心や忌避する層が一定数いることも必要となります。

社会的基盤の不足では、インパクト投資の概念そのものが確立されておらず、金融機関や機関投資家へ必要なアプローチが十分に行えていないなどが挙げられています。また、インパクト投資への評価手法が未確立である点や資本市場への組み込みが不足している点も課題となっています。こうした社会的基盤を固めていかなければ、インパクト投資の推進は難しくなっていくでしょう。

プレーヤーの不足では、投資先の事業やプロジェクトが不足していることに加え、事業者の育成や経営面でのブラッシュアップが不足していることが挙げられています。また、インパクト投資に対する機関投資家の十分な参入が見られないことも指摘されており、背景として案件の発掘や評価水準の底上げが不足しているとしています。
他にも個人投資家に対する仕掛けが不足しているなど、インパクト投資を行うプレーヤー全体が不足していることが課題とされています。

インパクト投資の動向

(1)世界の動向

インパクト投資の世界の市場規模は2019年に2,390億ドル、2020年には4,040億ドルに達していると推計されています。2021年にはG7議長国英国の後援を受けて、インパクト・タスクフォースが設立し、インパクト創出のためのマンダトリーな会計基準を作るなどを提言しています。他にも機関投資家が参入可能な投資ビークルの増加を目指すために、国際機関や開発金融機関が触媒的な役割を果たすことが重要としています。
また、2022年にはユニファやライフイズテックなど23社が参加した「インパクトスタートアップ 協会」の設立が発表されており、スタートアップ企業によるインパクト投資も広がりを見せています。

(2)日本の動向

日本では2019年6月のG20大阪サミットで当時の安倍総理大臣がインパクト投資の重要性について言及したことをきっかけに取り組みが広がり始め、1年後の2020年6月には、金融庁とGSG国内諮問委員会が共済の「インパクト投資に関する勉強会(金融庁勉強会)」が設置されています。
そして2022年6月の「経済財政運営と改革の基本方針 2022」においてインパクト投資の言及があり、呼応して2022年10月、金融庁が「インパクト投資等に関する検討会」を設置し、動きを加速させています。国内におけるインパクト投資は資産運用会社をはじめとして、保険会社や金融機関等が参入したことにより、市場規模は拡大の一途を辿っています。

インパクト投資の事例

(1)一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF)

一般社会法人 社会変革推進財団(SIIF)は、2017年に日本財団の協力により設立し、日本におけるインパクト投資のエコシステム構築を目指して活動しています。
具体的には「モデル事業の創出」「プレイヤーの支援」「市場環境の整備」です。たとえばモデル事業の創出の一環として、日本初の邦銀によるインパクト投資ファンドである「はたらくFUND」をSBI新生銀行グループやみずほ銀行と共に共同運営しています。また、プレイヤーの支援として上場株式投資ファンドへのインパクト測定やマネジメント支援も行っています。

(2)第一生命保険株式会社

第一生命保険会社では、地方創生や気候変動などの社会的課題を解決することをテーマに、2017年からインパクト投資を行っています。
たとえば、再エネ発電事業やグリーンポンドなどへ投資を行い、年間のGHG削減貢献量は約106万トンにまで上っています。他にも持続可能な医療体制の構築に貢献するために、調剤薬局向けのクラウド型電子薬歴・服薬指導システム「Musubi」を開発する株式会社カケハシに対して5億円の投資を実施しています。
同行では社会課題を解決する投資を通じて、社会に対してポジティブ・インパクトを創出したい考えです。

※参考:ESG投融資
参考:【インパクト投資】株式会社カケハシへの投資

(3)株式会社CureAPP

株式会社CureAPPでは、『ソフトウェアで「治療」を再創造する』をミッションに掲げ、医療格差や治療空白などの社会課題に事業として取り組むとしています。
同社では治療アプリの開発・普及を通して、医療格差の是正や医療費適正化への貢献、治療空白の解消を目指し、「全ての人が安心していつでも良質な医療を享受できる社会」の実現に貢献したいとしています。たとえば治療アプリを通じることで、場所や時間を問わず、エビデンスに基づく治療ガイダンスが提供され、患者に対して新たな治療効果というインパクトを与えるなどです。
SIIFが運営している「はたらくFUND」でも治療アプリの開発が、FUNDの目指す「多様な働き方・生き方の創造」に合致しているとして、インパクト投資を実行しています。

※参考:サステナビリティへの取り組み
参考:はたらくFUNDによるCureAppへの投資について

(4)学校法人 上智学院

学校法人上智学院は、インパクト投資を長年続けてきた実績があります。2015年11月に、国連が支援をしている責任投資原則(PRI)へ署名したのをきっかけに、2017年7月には、「グローバル・グリーンボンド・ファンド」へのインパクト投資を行っています。「グローバル・グリーンボンド・ファンド」では、世界の気候変動に取り組むプロジェクトとして、森林再生事業などを行っています。
また、2018年10月には、貧困地域の生活改善を目指すアジア最大級のファンドであるインドの「Aavishkaar社」へのインパクト投資を開始しています。
上智学院ではインパクト投資を、PRIイニシアティブの原則の実践をさらに推進し、また、国連「持続可能な開発目標(SDGs)」で掲げる目標を資産運用面で支援するものと位置づけています。なお、インパクト投資による資産運用収益は、奨学金をはじめとした学生への経済支援や教育研究活動に充てるとしています。

※参考:上智学院の責任投資の取組み
参考:貧困地域等の生活改善を投資目的として据えた社会的インパクト投資の開始について

まとめ

社会的課題の解決を目指す「インパクト投資」は今後もさらに拡大していくことが予想されます。
従来の投資での経済的リターンに加え、社会的リターンも目指す取組みは、世界規模で前向きなメッセージを発することにつながります。日本においては、現状の認知度が高いとは言えません。今後は法整備や市場の整備を進め、積極的なインパクト投資の活動が行われることが課題と言えます。