この記事は2023年11月3日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「地方は地価上昇トレンドに乗り切れず、人口動態で二極化進む」を一部編集し、転載したものです。


地方は地価上昇トレンドに乗り切れず、人口動態で二極化進む
(画像=eyetronic/stock.adobe.com)

国土交通省が9月20日に公表した「2023年都道府県地価調査」によると、昨年7月から今年6月末にかけての基準地価は、全用途(住宅地、商業地、工業地などすべての用途)の全国平均で前年比1.0%上昇し、2年連続でプラスとなった。上昇率はコロナ禍前(19年7月)の0.4%を上回り、全国的な回復基調がうかがえる。

全用途で見ると、三大都市圏で前年比2.7%、地方4市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では8.1%の上昇を記録した。地方4市を除く地方圏でも0.3%の上昇となり、31年ぶりにプラスに転じた。コロナ禍で弱含んでいた地価が、景気の緩やかな回復、インバウンド需要の復調などに後押しされ、全国的に上昇トレンドに転じた。

全国の住宅地の中でも、特に上昇率が高かった上位10地点のうち9地点を北海道が占めた。これは、半導体工場の誘致に伴う住居需要が主な要因だ。他の1地点は沖縄であり、移住ニーズの高まりが主な要因と思われる。

商業地でも、上位10地点のうち北海道が6地点を占めた。半導体工場誘致に対応する物販・飲食などの商業ニーズ、ホテル用地や別荘・移住へのニーズの高まりが大きな要因だ。その他の地域では、熊本が3地点、長野が1地点でランキング入りしている。熊本も半導体工場進出が主因で、長野は軽井沢等の別荘ニーズである。

地価が大きく上昇する地点のキーワードとしては、これまで「新線・新駅の設置」「大型再開発」「有力工場進出」「観光・インバウンド・移住」などがあった。これに加え、新たに定着してきた要素として「割安感」がある。足元では有力都市の中心部の地価が高騰し、利便性に優れながら相対的に割安に放置されていた周辺エリアが注目されている。その結果、該当地域の取引が活発になり、地価が上昇する現象が起きている。いわゆる「染み出し需要」である。

一方、全国各エリアを詳細に見ると、この全国的な地価上昇トレンドの恩恵にまったくあずかれていないエリアが存在する。図表は、横軸を総人口の増減率(15年10月から23年1月まで)、縦軸を23年度基準地価(住宅地)の前年比上昇率として各都道府県のプロットを行い、その相関を表したものである。

この1年間の地価上昇率がマイナスになっている都道府県は、おおむね長期的に人口増加率がマイナスになっている都道府県であることが分かる。人口増加率がマイナス2%を下回っているにもかかわらず地価が相応に上昇しているのは、北海道、熊本など、前出の大幅な地価上昇のキーワードのいずれかに該当する場合だ。キーワードの実現は一朝一夕とはいかないだけに、地方上昇トレンドは、今後も二極化が進みそうだ。

地方は地価上昇トレンドに乗り切れず、人口動態で二極化進む
(画像=きんざいOnline)

賀藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 代表(不動産鑑定士・CMA)/賀藤 浩徳
週刊金融財政事情 2023年11月7日号