〔要旨〕
- ディスインフレ傾向:米国、欧州、カナダの最近のデータによると、インフレ率は低下している
- 中央銀行:米連邦準備制度理事会(FRB)、カナダ銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行はいずれも直近の会合で金利を据え置いた
- 市場の反応:中央銀行が利上げを終了する可能性が非常に高いということをようやく市場が理解し始めたように思える
欧州、カナダ、米国はディスインフレに陥っているようだ
中央銀行はディスインフレの傾向を認識
市場は中央銀行の発言を理解し始めた
原油価格はディスインフレの進行を遅らせるか?
まとめ
注目の日程
ニューヨークの地下鉄といえば、ブロンクス〜マンハッタン〜ブルックリンを走る急行「Dトレイン」が有名です。しかし、私の辞書にはもうひとつの「D」トレインがあります。実際、ここしばらくの間、私はインフレに関する質問には 「D列車に乗っています」と答えてきました。なぜでしょうか?先進国経済はディスインフレという列車に乗っており、利上げサイクルの終焉、ひいては利下げ開始への特急輸送機関になっている、と私は考えています。
すべてのデータがディスインフレのシナリオを完璧に支持するわけではないとも申し上げてきましたが、すべてのデータを総合的に見れば、欧米先進国経済が冷え込んできており、強力なディスインフレ傾向が進行中であることがおわかりでしょう。私はこれが実現しつつあると思います。それでは最近のデータを見てみましょう。
欧州、カナダ、米国はディスインフレに陥っているようだ
- 10月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)は46.5と、9月の47.2から低下し、第3四半期に減速した経済が第4四半期の初めにさらに悪化したことを示唆しました1。プレスリリースによれば、これは「パンデミック後の旅行や娯楽への支出が急増した後の冷え込みを反映している面もある」と言及しています1。
- 10月のユーロ圏のインフレ率(速報値)は、前年同月比2.9%と、9月の4.3%、2022年10月の10.6%から低下しました2。コア・インフレ率は依然として4.2%のペースで成長すると推定されており、9月のコア・インフレ率4.5%から低下し、前年同月を大幅に下回っています2。
- カナダの雇用統計は、カナダ経済も冷え込んでいるとの見方を裏付けるものでした。10月の雇用者数は1万7,500人と予想を下回り、失業率は5.5%から5.7%に上昇し、予想を上回りました3。10月の平均時給は前年同月比5.0%で、9月の5.3%から大幅に低下しました3。
- カナダの9月のヘッドライン・インフレ率は前年同月比で3.8%と、8月の4%から低下し、市場予想の4%を下回りました4。また、コア・インフレ率は前年同月比で2.8%と、前月の3.3%から低下しました4。
- 10月の米国の雇用統計は15万人減と低水準の雇用創出となりました。さらに、9月の非農業部門雇用者数は下方修正されました5。労働力人口は比較的安定しています。失業率は3.9%にわずかに上昇しましたが、最も重要なのは、10月の平均時給が前年同月比で4.1%と、9月の4.3%から低下したことです5。
- 米供給管理協会(ISM)が発表した10月製造業景況感指数(PMI)は46.7で、事前予想の49.0を大きく下回った6他、ISMサービス業PMIは51.8で、9月の53.6を下回りました6。
中央銀行はディスインフレの傾向を認識
このディスインフレ傾向の受け、米連邦公開市場委員会(FOMC)は11月の会合で金利据え置きを決定しました。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、再利上げの権利を確かに留保しましたが、FRBは利上げを終了した可能性が高いというのが私の見解です。以下において、主要なポイントを列挙します7。
- パウエル議長は、「...賃金上昇率は過去18カ月の間に大幅に低下し、長期的に2%のインフレ率と一致する水準に大幅に近づいています。」と述べ、緩やかな賃金上昇についてポジティブな見方を示しました。このことは、12月も利上げ休止が続き、過去の出来事を見ると利上げが終了することを示唆しています。
- パウエル議長は、米10年物国債利回りの高さが金融情勢の引き締めに役立ち、利上げの代替になるという話題について、金融情勢が持続的に変化することを望んでいると述べました。パウエル議長は、長期金利の上昇がFF金利の上昇期待に結びつかないことを望んでいると述べました。また、現在の米住宅ローン金利の水準は、住宅にかなり大きな影響を与える可能性があるとの見方を示しましたが、インフレとの戦いを終わらせるのに十分なほど金融情勢が制限的であるとは思えないとも述べ、さらなる利上げへの扉をわずかに開いておこうとしました。(金融環境に蓋をしたままにし、その早すぎる改善を防ぐという意図でそう発言したと私は考えています。)
- パウエル議長は、金融政策の効果が経済に現れるには時間がかかるため、FRBは評価する時間を与えるために今年の利上げを遅らせたと指摘しました。このことは、今後の「長期休止」を示唆しています(これは過去の出来事を振り返れば、利上げサイクルの終わりを意味します)。
- パウエル議長は、FRBが9月に発表した「ドット・プロット」が12月に利上げの可能性を示し、2024年の利下げは2回しか示唆しなかったことについて、「ドット・プロットの効力は3カ月で減衰する」、「将来の約束や計画ではない」と、むしろ否定的でした。
- パウエル議長は、現在のペースで量的引き締めを続けることに固執していることを明らかにしました。パウエルは慎重に進めたいと言っているのですから、何かをあきらめなければならないでしょう。
イングランド銀行(BOE)も前回の会合で金利据え置きを決定しました。BOEの金融政策委員会(MPC)は、政策金利を5.25%に据え置くことを採決しましたが、これは、欧州中央銀行とカナダ中銀が先週決定した政策金利据え置きに続くものです。
イングランド銀行のスワティ・ディングラ審議委員が最近指摘したように、金融政策の決定と経済への影響には長いタイムラグがあります。彼女は、英国経済は現在のところ、このサイクルにおけるBOEのすべての利上げのごく一部しか反映していないことを示唆しました。これまで述べてきたように、中央銀行にとって金融政策のラグ効果は重要な検討事項であるべきです。そして、より多くの中央銀行がそのようにし始めていると私は考えています。
市場は中央銀行の発言を理解し始めた
市場はようやく、中央銀行が利上げを終了する可能性が非常に高いということを理解し始めています。先週末の米国債10年物利回りは、ISM製造業PMI、ハト派的なFRB理事会、そして低調な雇用統計を受け、大幅に低下しました8。英10年国債利回りから独10年国債利回りまで、他の長期債利回りもこの傾向に従いました9。
それは何を意味するのでしょうか?つまり、欧米先進国の中央銀行がこれ以上の利上げを行う可能性は極めて低いということです。中央銀行は「主張し過ぎる」ということです。しかし、すでに実施された利上げの累積効果が、インフレと成長率により大きな影響を与えるようになるのであれば、利下げを早急に開始しなければならないでしょう。そして、イングランド銀行も開始する可能性があります。
わかっているのは、最近の引き締めサイクルでは、FRBは前回の利上げから8カ月以内に利下げを開始しているということです。FRBの前回の利上げが7月だったことから、利下げは第2四半期に行われる可能性があります。
原油価格はディスインフレの進行を遅らせるか?
確かに、ディスインフレが続く、特に原油価格が上昇するという見方にはリスクがあります。しかし、以前にも指摘したように、原油価格の上昇はコア・インフレに浸透するのに時間がかかります。その間に、原油価格は消費意欲を減退させ、消費者需要を抑制します。そして幸いなことに、ここ数日、原油価格は下落しています。
まとめ
先行きについては、金融政策の不確実性(およびその他の地政学的不確実性)がまだ大きいため、ボラティリティは高くなると予想しています。つまり、利回りは依然として幅広いレンジで取引される可能性があり、「マクロの好材料は市場の悪材料」というシナリオが短期的に展開される可能性があります。しかし、日ごとに利上げの決定的な終了(そしておそらくその後すぐに利下げ開始)に近づいているため、リスク選好度は高まっています。
注目の日程
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
11月6日 |
日本銀行金融政策決定会合議事要旨 |
中央銀行の意思決定プロセスについて |
11月7日 |
オーストラリア準備銀行 |
金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
11月7日 |
英国国内総生産 |
地域の経済活動を測定 |
11月7日 |
英国鉱工業生産指数 |
鉱工業部門の健全性を示す |
11月10日 |
ミシガン大学インフレ期待 |
インフレに関する消費者センチメントを示す |
継続中 |
FRBパウエル議長と他の |
FRBの見解について更なる手がかりを与える |
- 1.出所:S&Pグローバル/ハンブルグ商業銀行、2023年11月6日
- 2.出所:ユーロスタット、2023年10月31日
- 3.出所:カナダ統計局、2023年11月3日
- 4.出所:カナダ統計局、2023年10月17日
- 5.出所:米国労働統計局、2023年11月3日
- 6.出所:米供給管理協会、2023年11月3日
- 7.出所:パウエルFRB議長記者会見記録、2023年11月1日
- 8.出所:ブルームバーグ、2023年11月3日
- 9.出所:ブルームバーグ、2023年11月3日
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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