この記事は2023年11月2日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「地主【3252・プライム】」を一部編集し、転載したものです。

土地だけに投資「JINUSHIビジネス」展開
1800億円規模の底地特化REIT運用

自ら建物を立てず、土地のみに投資する「JINUSHIビジネス」を専業で展開する地主(3252)。同社グループ会社が設立した底地特化型リートは、運用資産規模1800億円を誇る。転用性の高い土地を仕入れることで、特定のテナントに依存しない安定性を発揮している。2026年12月期の当期純利益70億円を目指す。

▼西羅 弘文 社長

地主【3252・プライム】
(画像=株主手帳)

転用性の高い土地を仕入れ
テナント退去しても他に貸せる

同社のビジネスモデルは、まず土地を取得し、スーパーやドラッグストア、ホスピス、老人ホームなど多岐にわたるテナントと長期の定期借地権設定契約を締結。借地料収入を得る。その後、同社のグループ会社が2016年に設立した「地主プライベートリート投資法人」(以下 地主リート)などへ土地のみを売却し、投資家の資金を運用する。

同社の収益は主に賃貸借地料収入、土地の売却益、地主リートの運用益の三つ。

地主リートは、国内唯一の底地特化型私募リートだ。運用資産は1800億円、分配金利回りは4%程度。同社からの仕入れは全体の約65%だ。

同社の底地の開発実績は累計318件、約4342億円に上る(23年6月末時点)。

土地の仕入れでは転用性を重視する。仮にテナントが撤退しても後継テナントの誘致や、第三者への売却が容易かどうかを見極める。そのため、人口動向や足元商圏、道路付け、周辺環境などを検証し、判断している。

「転用性が高ければテナントがいなくなっても他に貸せます。特定のテナントに依存しなくてよい」(西羅弘文社長)

同社によれば「JINUSHIビジネス」の強みは、以下の点が挙げられるという。

・土地のみに投資するため、建物の建設・所有に係る負担はテナントがもつこと。同社による保守、修繕、改装などの追加投資は不要だ。

・契約期間は20~50年と長期にわたり、平均して30年ほどだ。建物はテナントが投資するため退去リスクが低く、長期安定収益が見込める。

・定期借地権設定契約によりテナントには更地での返還義務がある。更地は流動性が高く、資産価値が下がりにくい。

2022年12月期連結業績は、売上高は498億8700万円(前期比11・2%減)、営業利益は64億1100万円(同17・1%増)で着地した。

「失敗から生まれたビジネス」
コロナ禍に市場が確立

同社は00年、日本商業開発として大阪で創業した。ファウンダーの松岡哲也取締役、西羅社長は同社創業前の1990年代後半、総合商社の兼松のグループ会社で商業施設の開発・賃貸事業を担当していた。当時、売上1兆円規模の大手スーパーが、経営破綻により同社の物件から退去してしまう。

「兼松時代に開発した大規模の建物はそのテナントにとっては価値がありましたが、他のテナントには使い勝手が悪かった。テナントごとにオペレーションは異なるため追加投資と、古くなれば修繕が必要です。土地だけ貸していればよかったのに、という失敗から生まれたのが『JINUSHIビジネス』なのです」(同氏)

奇しくも92年に施行された事業用定期借地権が施行されたことが、同社のビジネスモデル確立を後押しした。借地人は地主に対して、契約の更新や建物の買い取りを請求できないなど、地主の権利が強いからだ。

そこで松岡氏は土地を貸すだけでなく、底地を不動産金融商品の一つとして販売するビジネスモデルを作り上げ、事業をスタートしたのだった。

「必ずマーケットは出来上がると信念をもってスタートしました」(同氏)

底地はリーマンショックにおいて安定性に光があたり、コロナ禍で長期安定の不動産金融商品としてマーケットが確立した。

「他の金融商品はボラティリティが大きかった一方、底地は安定していました。コロナ前までに地主リートを1500億円規模まで成長させていたことが功を奏しました。結果、長期安定運用を志向する機関投資家に支持されるようになった。7年のトラックレコードを積んだ現在、特に年金基金はこれから大きなシェアを占める見込みです」(同氏)

26年純利益70億円目標
オフバランスの取組増やす

22年に発表した同社初の中期経営計画では、26年12月期純利益70億円、地主リートの資産規模3000億円などを目標に掲げる。

リートについては「次の1月までに2200億円まで成長させ、5000億円、1兆円の達成を目指します。地主リートの成長とともに『日本の大地主』になるのが当社の目指す姿です」(同氏)

達成のためテナント業種の多様化、事業エリアの拡大、土地のオフバランス提案に取り組んでいる。

テナント業種の多様化は、前期ではホスピス、老人ホーム、家族葬などの実績がある。特定の業種に偏らないことで出店ニーズの増減による影響を軽減する。

「もはや商業施設用の土地のみを仕入れているわけではないので、昨年に『日本商業開発』から『地主』へと社名を変更しました。事業内容とのミスマッチが生じていました」(同氏)

事業エリアの拡大としては、国内では22年に九州支店を設立し4拠点体制に整えた。加えて、アメリカでも30億円程度の投資を実施済みだ。計5拠点で事業エリアの拡大を進めている。

「米国は不動産市場が大きく、今後も安定的に成長が見込まれるため、注力していきます」(同氏)

土地のオフバランス提案は足元で増加しているという。

「財務体質が傷んでいる病院や老人ホームなど様々な業種業態が『土地はいらない』と売却を望んでいます。財務体質が改善され、銀行との取引もよくなる。新たな設備投資が行われて好循環が生まれます」(同氏)

さらに9月には、JINUSHIビジネスの個人投資家向け不動産金融商品「地主倶楽部」の提供を開始すると発表した。


2022年12月期 連結業績

売上高498億8,700万円11.2%減
営業利益64億1,100万円17.1%増
経常利益59億4,300万円18.8%増
当期純利益36億4,100万円16.5%増

2023年12月期 連結業績予想

売上高320億円35.9%減
営業利益60億円6.4%減
経常利益55億円7.5%減
当期純利益44億円20.8%増

※株主手帳23年11月号発売日時点

西羅 弘文 社長
Profile◉西羅 弘文 社長(にしら・ひろふみ)
1974年8月生まれ、奈良県出身。98年甲南大学法学部卒、同年4月兼松都市開発株式会社入社。2000年地主入社。05年 取締役開発営業部長。05年取締役開発営業本部長。07年常務取締役東京営業本部長。12年常務取締役投資運用本部長、16年地主アセットマネジメント代表取締役社長。22年地主代表取締役社長COOに就任。23年地主代表取締役社長就任(現任)